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サマータイプ

春とも夏ともつかぬ候、はた迷ふべき時節なり。

「パーソナルカラー診断」というものあり。あるべき身なりの掟を講じられたるが如く、人々は四季を以て色を分け奉る。春夏秋冬の別に適す色彩を、一人一人の肌や髪、目の色より断じ、これに似合う装いや化粧の方を定めるべしとなるものなり。我、尚ほ明らかならず。

かつて社会人となりし折、初めてこの診断を受けたり。何かの授業「社会人女性のマナー講座」で、メイクの指南共に診断されたるものなり。得たる診断は夏、すなわちサマータイプなりと。肌に青みを帯びたるも、日本人に多しと。然れども、此の診断はあくまで日本の中におけることで、他の民族が交じれば診断は崩れんとするが、甚だ国内限りのものにて、その辺の問題には深入りせず。

サマータイプに適すは、薄くてくぐもりし色と聞けり。以て、薄青みがかかりたる灰色の衣を選びしも、時を経て診断のことは忘れにけり。やがては、より汚れが目立たざる黒の衣を選ぶに至る。かのマリー・キュリー博士も、同じ理由にて黒衣にて過ごされたりと聞く。

黒は実に便利なり。ある時、白衣を着て食事の会に出席したれど、出されしはトマトソースのパスタ。トマトソースは飛び、それが気にかかり会議にも集中できず。その故に、無難なる黒衣を着るがよし。

然るに先週、再びカラー診断を受け、今度は春、すなわちスプリングタイプと言われたり。黄色みがかって、明るき色が似合うとのこと。青みがかった色が似合うと長く思われし今までの人生は何なりしや。

数々の色の布を顔の下に置き、確かめたり。灰色は非常にみすぼらしき印象を与え、黒はまるで死人のよう。黒は、まったく似合わぬらしい。

常に黒を着る我は、一体どうすべきか。しかし実用的には、黒は最強なり。衣を選ぶにも黒と決めれば、時間を要せず。
今は黒衣の上に白や水色の衣を羽織ることとせり。これにより、やや顔色も良くならん。また、今後は黒よりも紺を選ぶことと思う。少しはましならん。

かのマナー講座では、他にも食事の礼法や髪形、衣装についても学ぶ。スーツを着て、髪をしっかりと巻き、化粧もして。

講座終えて、会場の傍に住む友人と会う。
彼女は我が姿を見て、爆笑したり。

それから幾星霜、依然として「春だ、夏だ」と翻弄され続ける身なり。


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