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Prjanik(プリャーニク)

 2015年世界フィギュアスケート国別対抗戦を見て、今さらのように某ロシア選手沼に落ちた。その記念に翌2016年をわたしにおけるロシア年とした。というわけで、お菓子の旅でもロシアのお菓子を取り上げることにする。

〈ロシア年〉を意識していると、いろいろと飛び込んでくることが多い。『ハルムスの世界』(ダニイル・ハルムス作/増本浩子、ヴァレリー・グレチュコ訳/ヴィレッジブックス)を読んだあと、オランダ王立オーケストラ、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の創立125周年記念のワールドツアーを追ったドキュメンタリー映画『ロイヤル・コンセルトヘボウオーケストラがやって来る』を観て、スターリン政権下の恐怖が描かれていることにシンクロニシティを感じた。

 ロシアのお菓子について調べつつ、お菓子が出てくるロシアの児童書を探したが、英米に比べて、日本で紹介されているロシアの児童文学は圧倒的に少ない。復活祭に食べるクリーチの作り方にインパクトがあったので、紹介できたら面白いなあと思ったのに。結局、『おかしのくに』に出てくるプリャーニクを取り上げることにした(絵本のなかでは〈ビスケット〉となっているが、絵はプリャーニクそのもの)。

ねこが こねこに、ビスケットを やいてやろうと、おもいました。
こなに はちみつを いれて、こねました。
ぷうんと はなの においのする おおきな なまぱんが できました。

『おかしのくに』(タチアーナ・アレクセーブナ・マブリナ文・絵/みやかわやすえ訳/福音館書店)

 タチアーナ・アレクセーブナ・マブリナ(タチヤーナ・アレクセーエヴナ・マーヴリナなどの表記もある)は、1900年、帝政だったロシアに生まれ、ソビエト連邦の時代を経て、ソビエト連邦解体後の1996年に逝去。1976年に国際アンデルセン賞画家賞を受賞していて、その授賞式に出席するためにアテネに行ったほかは、生涯ロシアから出ることはなかったらしい。日本語版『おかしのくに』は、原書の版を利用して作られたのではなく、原書を写真撮影したのを使ったと聞いた記憶がある。原書が欲しいなあと検索したら、ロシアのオンライン書店にあるらしいのを発見。サイトはロシア語のみだったので、注文する勇気はなかった……。でも、いつか手に入れたい。

 プリャーニクのレシピは、『ロシアのパンとお菓子』(荻野恭子著/WAVE出版)で紹介されているが、ジャムやレーズンなどの入ったもので、『おかしのくに』に出てくるものとは違う。面白いことに、日本語でプリャーニクのレシピを検索すると、出てくるレシピはすべて、このレシピが元になったものだった。これはこれでおいしいだろうと思うけれど、探しているのはこれではない。日本語ではダメだ!と思い、「プリャーニク レシピ」をロシア語に翻訳してロシア語で検索し、使えそうなものを探した。ポイントは具がないこと、ライ麦、はちみつ、押し型を使っていること。よさそうなものをGoogle翻訳で英語やイタリア語に訳し(ロシア語から直接日本語に訳すよりは、意味の通じる文章になりやすいので)、わけがわからない部分はお菓子作りで培った経験値で補う。

 砂糖でなくはちみつを使うのは、昔は砂糖が貴重だったから。小麦粉でなくライ麦粉を使うのも同じ理由。現在のようなスパイスたっぷりなものになったのは、12〜13世紀にインドなどからスパイスが入ってくるようになってかららしい。

 トゥーラで売られているプリャーニクのように、表面に押し型で模様をつけたかった。世界堂で版画用の板まで買った(彫刻刀は持っている)。シラカバの木が手に入らなかったので……というわけではないが、今回はあきらめて、クッキー型で表面に模様をつけてごまかすことにした。

 ロシア人のレシピを参考に作ってみたものの、本場のプリャーニクを食べたことがないので、こんなパンなのかお菓子なのかわからないようなものでいいのだろうか?と不安だったとき、『おいしいロシア』(シベリカ子著/イースト・プレス)を読んだ。パンなのかお菓子なのかわからないような食感だという。どうやらこんなものらしい。ほんとうに?

 あと、重曹で膨らませているからか、丸ぼうろにも少し似ていた。しかし、本場のプリャーニクはいまだに食べる機会がない。

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