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最終列車のアナウンス

最終列車が停車する始発駅は
寝静まった街に取り残された
眠れない夜の為に灯りを灯す

疲れた顔を張り付けた中年男は
誇りと自嘲に肩をすくめながら
自らの影を追うように歩く

甘い香りを浮かべた若い女は
華奢な甲高い未成熟な声で
殊更大袈裟に笑ってみせる

唐突なアナウンスのエコー
誰もその存在に応えはしないが
まるでこの世界の隅々まで響き渡る

ほんの数秒にも満たない出来事の後
波長を描く時間が乗り込んで
新たな静寂がガラ空きのシートに座り込む

やりたいことなんて何もなかった放課後 ぺっちゃんこにした鞄に詰め込んだ反逆 帰る所があるから座り込んだ深夜の路上 変えたい何者かを捕まえられなかった声 振り向くばかりの今から届けたいエール