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一枚の絵から生まれる「世界観」のある列車

JR九州には、思わず乗ってみたい!と思わせる魅力的な列車が多く、それらはデザイナーの水戸岡鋭治(みとおか・えいじ)さんが手がけているのは鉄道好きには有名な話だ。車両そのもの(外観)だけでなく、座席をはじめとする車内のインテリア(水戸岡さんは家具をデザインしてきた人だ)から果ては弁当箱のパッケージまで、「乗客の目に触れる」ものはすべてがデザインの対象になる。「製品」としての鉄道車両ではなく、「商品」として鉄道に乗る楽しさをデザインするのが水戸岡さんの考え方なのだ。

近年、ネット業界を中心に、すぐれたサービスをつくるために必要なキーワードとして「UX」(ユーザエクスペリエンス、顧客体験)をよく耳にするのだが、これをいち早く、しかもどちらかといえばオールド産業な鉄道業界で実現してきたのが水戸岡さんなのだ。
水戸岡さんの仕事については、すでに様々なところで紹介されているが、私がここで書きたいのは(そしてこれは半分くらい想像なのだが)、水戸岡さんの列車の設計は、その「世界観」を表現する一枚の絵から始まるのがポイントなのだろうと思う。
…と思って、検索してみたら、まさにそのような話にたどり着いた。

上記サイトでも紹介されているように、新しい列車を構想する初期のスケッチには、この新しい列車は沿線風景のなかでどのように映えるのか、車内ではどのような体験ができるのかなど、人や風景と列車の関係が描かれている。つまり、列車は「世界観」をつくるための、ひとつの舞台装置なのだ。
そういえば宮崎駿さんが、作品をつくりはじめるとき、その「世界観」を表現したスケッチ(コンセプトボード)を描くと聞いたことがあり、それに近いのかもしれない。
または、行動展示で有名になった旭山動物園を作った当時の園長も、スケッチからスタートして構想をかたちにしていった話も思い出した。

鉄道が好きな私は、ついつい車両や列車ダイヤなど、鉄道を構成するひとつひとつの要素に注目しがちなのだが(それはそれで楽しい…笑)、乗客の視点で、どういう旅の体験を提供するのか、それはどういう世界観なのか作り込んでいく方法が豊かな鉄道の旅を実現するのだと思う。
JR九州の水戸岡さんがデザインする車両には、言語にするのがひじょうに難しい、けれども人の感覚や潜在意識に影響を与える要素にこだわって作られている感じがする。一方で、たとえば東海道新幹線の車両などは、言葉や数字で要求されている課題を高度な技術で解決している印象だ(あくまで主観です。そしてもちろんJR九州とJR東海では、その地域や会社のコンディションがまったく違うので、両社の比較に意味はないのですが)。

この先の、10〜20年といった少し長めの時間を考えるとき、効率化・コスト削減とは違った軸として、「世界観」のある旅、それを演出する列車のデザインがふえていって欲しいな、と思っている。

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