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夜は短し歩けよオタク

7月15日分

拝啓

この日も一日を通して曇りだった。たまに雨が降ったが、アメダスを頼りに雨宿りを多用して濡れずに生き延びた。

朝から私は吉田を目指した。あの「吉田」である。

吉田神社は願をかければ受験に落ちることで有名である。そこで私は一世一代の挑戦、「吉田神社に願をかけた上で大学院試験を受ける」ことにした。

もちろん願いは「九州大学大学院工学府量子物理工学専攻に合格できますように」である。

御朱印も学業守も授与してきた。あとは私が頑張ってジンクスを覆してやるのだ。

紆余曲折あり、夜は宵山見学に出かけたものの、早々に人の波に揉まれて四条を逃げ出し、木屋町へ辿り着いた。実際のところどこが木屋町でどこが河原町なのか分かっていないが、多分木屋町である。

1軒目はたまたま行き着いた「今日も中島みゆきかけてます」という看板のショットバー、きさらぎさんである。

中島みゆきに詳しいママとお客さんが集う。私は中島みゆきに関しては、良いなとは思うものの、有名曲しか知らないヘナチョコである。お客さんたちは中島みゆき世代であったり、世代の中でも生粋のオタクであったり、コアな知識だけついてお店を後にした。

「これタクローが歌ってるけど、みゆきが作詞してるんだけど、タクローの曲にしか聞こえないよね」「このライブ、この後のシーンでみゆきとここの端っこの人がハイタッチするんだよな……ほらね」このおじ様方が何者なのかはよく分からなかったが、少なくとも中島みゆきが素晴らしいことは伝わってきた。次に伺う時はもう少し詳しくなってからにしよう。

2軒目は京大のお姉さんに教えていただいたコーヒーとワインのお店、coffee&wine Violon さんである。

少し入りにくいお店のドアを開けるとオシャレなカウンターが広がっていた。ケーキを食べたかったので、紅茶のケーキとシャルドネをいただくことに。紅茶はあまり得意ではないので、このケーキを選んだのは少し勇気が要ったが、しっとりとしたケーキで大変美味しかった。

ここではご夫婦と談笑した。京大文学部に通われている息子さんが「就活だ!」と言って小説を書くことに耽っているらしかった。私はその心意気に感心した。連絡先を伺いたかったくらいだ。

また次男も扱いが大変で「日本語すらままならないのに海外旅行に飛び回っている」と仰っていた。飽きの来ないようなご兄弟で羨ましかった。またそのご兄弟を呆れて許しているようで、器の大きい親御さんだとも感じた。

現段階で私は子供を欲しいとは思わないが、もし子供が出来たらこの心持ちで子を育てようと心に誓った。

3軒目は森見登美彦先生ゆかりのバー、ノスタルジアさんである。ポストカードをやり取りしているネットのお姉さんと、京大のお姉さんに同タイミングでおすすめいただいた。ので来た。

先生がよく訪れる上に、「有頂天家族」という作品でも登場するらしかった。しかし私はまだ森見登美彦を読み始めて数ヶ月。有頂天家族はまだ読んでいなかった。悔しいがここで味わった体験を元に小説を読むことに決めてお店に入った。

既にかなりのお客さんがグループで来ており、他のお客さんと話せる雰囲気ではなかったが、見兼ねてバーテンのお兄さんとお話した。

お兄さんは知識欲が素晴らしく、様々なことに興味を持って、何でも調べて自分の手札にしているような方だった。

私は多趣味を目指している(いた)のだが、「趣味も高じれば日常となるわけだから、それは趣味とは言わない」「僕は人類の想像し得るもの、全てについてのオタクなんだ」と仰っており、考えを改めた。

小手先の知識ではなく、自分を深めるために手札を1つずつ増やしていこうと。それがアニメであったり漫画であったり、趣味ではなく日常にしていこうと。私も人類の想像し得るもの全包囲オタクになろうと。

かなり端折っているためなんの事やら、となっているかもしれないが。私が理解出来れば良いのである。

ともあれ、夜は短し歩けよオタクを実行した夜だった。1人で18時から26時まで飲み歩けることが分かった。1人でバーに入るのは少し勇気も必要だが、それ以上のオモシロ話を聞くことが出来る点で、大変価値のある行為であると私は考える。

ぜひ実践されたし。


敬具

バーでお酒を嗜む(あなた)様

深夜に徘徊するオタク

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