バルーンさんの音楽

ボカロの「火付け役」として

バルーンさんの『シャルル』は、今や誰もが知る名曲となった。これは、ボカロ曲が人口に膾炙したことを意味している。それまでにも『Tell Your World』や『千本桜』、そして『アスノヨゾラ哨戒班』などをはじめとして、多くの人の知られる曲はあったわけだが、ここまで爆発的なヒットを記録したのは、『シャルル』が初めてであったといえよう。その意味で、この曲はボカロ音楽の「火付け役」としての意味を持っていたと私は思う。

これには様々な理由があろうと思うし、それについての考察もどこかでしようと思う。あくまで今回は、バルーンさんの音楽についての紹介であるから、そこから発展する議論はまた別建てということにしてほしい。

しかしながら、今回の話をする上でもある程度のガイドラインを立てておかなければならない。もっとも単純にいうと、このブログでも何度かか使っている用語である「ポップ」の要素が『シャルル』、ひいてはバルーンさんの曲にあったことが要因ではないかと考える。

バルーンさんの曲は「バンドサウンド」とよく言われる。これは、J-POPのサウンドにある程度近いということを意味しており、それが「ポップ」に聞こえる所以なのであろう。これは卯花ロクさんの記事で挙げた、「ポップ」とは「J-POP的である」という論を補強することにもつながる。

そして卯花ロクさんの記事では、卯花ロクさんとバルーンさんの音楽を「ギターによるバンドサウンド」というふうに紐付けしていた。

今回はそのバルーンさんの音楽について書いていこうと思う。

イントロダクション

さて、バルーンさんの音楽についての論考は、その知名度から、たくさん出ていることだろう。これは上の議論についても言えるし、ネット上でちゃんと検索すると、色々な記事がヒットすることだろうと思う。

まあだからといって、私が私見を述べてはならないということにはならない。どの論にも一定の意味はあるように、私の意見にも一定の意味はあるのだろう。自分は『シャルル』が好きだし、バルーンさんの曲が大好きであるから、この記事を書くのである。あるいはそれで十分である。

実を言うと、自分は『シャルル』からバルーンさんを、ボカロ曲を聞き始めた人間である。だからこのように『シャルル』の話を繰り返すのであるが、これはすなわち自分がバルーンさんやボカロを聴き始めてまだ日が浅い(それでも5年ほどは経過しているが)という事実はある。『シャルル』の後バルーンさんは割とすぐに「須田景凪」名義で活動を始めてしまったので、この後のボカロ曲はそんなに多くもないという事実もある。

だが、自分がボカロについて書くにあたって、どうしても入れなければならなかった方だということをどうかわかっていただきたい。それほどに、この曲は私にとって、人生を変えてくれた恩人だから。

音について

バルーンさんの特徴は、ギターを中心としたバンドサウンドである、というのは上に書いてきた通りである。卯花ロクさんとの違いを敢えて挙げるとすれば、卯花ロクさんが「特徴的なギター」であるのに対して、バルーンさんは「バンド」の音であるというところである。まあ要は全体的なのだ。

そして卯花ロクさんとの決定的な違いは、使っているボカロが、特に後期はv-flowerが多いということである。このボカロは、バンドサウンドへの「ノリが良い」。シャルルを見ると明らかであろう。この癖の強いボカロを使いこなしたのが、バルーンさんの凄さということになろう。ここから先、ボカロの流行はv-flowerが握ることになる。

個人的に音について感慨を得たのは、有機酸さんとのコラボアルバム『facsimile』であった。有機酸さんのサウンドをロックに引き込んでしまうその音の作り方、バルーンさんの世界に引き込んでしまうその音の作り方は、天晴れというほかなかろう。ちなみに有機酸さんについても同様である。

話を戻していこう。バルーンさんはGUMI→初音ミク→flowerと使うボカロが変化している。GUMI使用時代については私は全く知らないので言及を避けておく(往往にしてここで無謀な行動をしないことが賢明である)。初音ミクについては、歪んだ音、あるいは分散した音、と言おうか。運用としてはハチさんに似ている気もする。そしてflowerの運用に似ている気もする。flowerの初出が、初音ミクとのデュエット曲である『愛及屋烏』であることも注目すべきポイントであろう。flowerと初音ミクとでは、声の違いはあるものの、そのぶれさせ方には確かな連関を見ることができる。その系譜は、のちの『シャルル』にも確かに受け継がれているのだろう。

言葉について

バルーンさんの曲、特にflower時代には、「実は恋愛の曲なんです」というコンセプトが多いように見える。必要以上に華美でない、洒落た言葉で彩られた歌詞が、恋愛という心の動きに結びつけられることで、その魅力を発揮するのだろう。

『雨とペトラ』という曲がある。『シャルル』の次くらいに有名な曲であると記憶しているが、これは恋愛の曲ではないように見える。実際、そこには主人公しかいない。あるいは、特定の別人がいない。しかし、

優しい嘘をなぞったせいで、離れる声に気づかない

この歌詞には何かある気がする。この歌詞の重みには何かある気がする。そう思わせる歌詞である。バルーンさんは歌詞もすごいのだ、というところを改めて思い知らされるのである。

曲紹介

シャルル

やはり、というべきか。この曲を紹介しないわけにはいかないんですよね。歌詞も曲も歌い方も、そしてそのドラマもまた素晴らしいのです。

メーベル

純粋に好き。最後に転調するのが本当に、本当に好き。Cメロの繋ぎなんかも、ぎゅっと掴まれるような感じがする。

・felis

『facsimile』収録曲。バルーンさんの魅力が詰まった一曲だと思う。サビのクルクルする感じ、ライブの終わりをも思わせるようなその感じ。夕暮れ。バルーンさんの中ではこの曲が一番好きなのかもしれない。

同アルバムに入っている『退紅トレイン』『krank』のアレンジも必聴。


拙い文になってしまった。先駆者にも、これから各人にも遠く及ばない分析だろう。それでも、これだけは言わせて欲しい。

バルーンさんに出会えて、『シャルル』に出会えて、本当によかった。

またね。

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