卯花ロクさんの音楽

ボーカロイドと、ポップと

前回、ポップに近いボカロPさんとして、ツミキさんを紹介した。

実際、ボカロとポップとは、どこまでの親和性があるのだろうか。
ボカロは、ネット音楽として、いわゆる「アンダーグラウンド」=「メインストリームではない」という状態にある。しかしながらこれが即座に、ボカロのポップ性を否定するものではない。しかし、ボカロが例えばJ-POPと同列に語られるシーンは、割と少ない。

これはボカロという文化の特性にある。ボカロは曲という側面も、初音ミクをはじめとしたキャラクター的な側面も持っている。これはすなわち、ボカロはJ-POPであり、アイドルでもある。この様なまぜこぜの構造をしているから、一概にポップとして語れない、という状態にあるのだ。

ところが、この状態は変化しつつある。ちなみにこの変化はもう結構前の話になるので、もう変化し切ったのかもしれない。個人的にはそうではないと信じているが。この変化は、ある意味では『シャルル』の台頭であり、歌い手文化の再興であり、ボカロのメインストリーム化である。ちなみにボカロはメインストリームではない、と書いたが、これは「ネット音楽として、J-POPなどと差別化が図られている」という意味で使ったと理解していただきたい。

まあ早い話が、ボカロがJ-POPへ志向しはじめたのだ。

様々な面でそれを感じることができるのだが、それを特に感じたのが卯花ロクさんだった。

イントロダクション

卯花ロクさんは、『雁首、揃えてごきげんよう』、『自称、音楽愛好家』などが有名なボカロPさんである。

この方の特徴は、ポップである、ということである。ツミキさんの記事でもポップであると書いたが、卯花ロクさんはよりJ-POPなどに近いポップと考えて良い様に感じる。

活動開始は2020年とかなり最近ではあるが、2021年のボカコレでの台頭など、知名度的にも善戦しているボカロPさんである。題材は学園ものが多い、というか全て学園ものではなかろうか。イラストは一貫して壇上大空さんが担当している。

使用VOCALOIDは主に初音ミク、一部可不での投稿や歌い手さん(ACCAMERさん)による楽曲もある。

音について

さて、散々ポップだポップだと言っていた、その音について迫ってみたいと思う。

ツミキさんの記事でも述べた様に、ポップというものは定義が難しいものである。例えば卯花ロクさんの曲はキャッチーではあるが、それだけではポップである、とはいえない。例えば「耳障りがいい」という表現もできるのだろうが、別にポップでない音楽が耳触りが悪いわけではないから、この表現も正しくない。それでは「大衆受けする」という表現はどうだろうか。これは何か悪意を感じる気がするので、これもまた違う気がする。卯花ロクさんの曲が人気なのは事実なのだが。

とりあえずは「J-POP的である」ということにしておこう。ボカロとJ-POPが混じり合うのを良しとしない人もいるが、自分はそれを気にしない派閥なので、こういう表現をガンガン使っていこうと思う。

さて、卯花ロクさんの音楽の特徴について改めて見ていこう。

特徴的なのはそのギターサウンドであろう。特に『雁首、揃えて御機嫌よう』では、イントロで「かごめかごめ」のメロディーをギターで引用するという技を見せた。私はこういうメロディーの引用が大好き人間なので、思わずにっこりである。この曲だけでなく、卯花ロクさんの曲には、このようにイントロで印象的なギターのフレーズがあることが多い。話題は立ち返るが、この部分が「J-POP的である」と思わせられる点なのかもしれない。これは同じくギター、あるいはバンドサウンドで脚光を浴びたバルーンさんにも共通して言えることであろう。

初音ミクの声は「綺麗」であるがために、このようなギターサウンドには負けてしまう恐れがあるとも思われるが、卯花ロクさんは巧みな調声、あるいは逆にすっきりとした調声によってそれをカバーしている。前者は、歪みのある声にしてギターに沿うようにするということ(ex.『自称、音楽愛好家』)、後者はあえて真っ直ぐに声を出すことで、ストレートに声が伝わる様に、かつ学園ものという世界観に合うようにしているものと想像できる。いずれにせよ、上の様な私の懸念は杞憂だった。

言葉について

卯花ロクさんの歌詞は、一言で(誤解を恐れず)言うと「社会的」である。

卯花ロクさんの曲を評するにあたって、無視することができないのが『自称、音楽愛好家』の歌詞である。この歌詞が、現代の音楽シーンへの風刺になっているのかどうかはわからないが、人気曲だけ聴くという音楽の需要のあり方を皮肉った曲が、ボカコレで上位を取った、というのは卯花ロクさんの実力が可能にしたドラマであろう。素直に感服である。

卯花ロクさんの歌詞は一見軽い様に見えて、確実に私の心を抉ってくる。上記の『自称、音楽愛好家』もそうだったが、『ありふれた、レプリカント』などもそうであった。

そしてもう一つ、言葉遊び的な点にも言及すべきであろう。『かみさま、あなたの言うとおり』では、「かみさま」への主人公の従順さが、「カラスだって白と答えましょう」という歌詞によって表現されているが、他の部分にも「烏滸がましい」「烏合の衆」などという形で「からす」が引用されている。このようなちゃんと聴かなければ気づかないモチーフはなかなか面白い。

これらの歌詞を効果的に伝えるために重要なのが、MVである。『かみさま、あなたの言うとおり』では、上記のモチーフであるカラスが背景に使われている。それだけでなく、「かみさま」への従順さがエゴに歪んでいく様子が印象的に表されており、必見である。

曲紹介

自称、音楽愛好家

上にあげたボカコレ曲。何を隠そう、自分もこの曲で初めて卯花ロクさんに出会い、度肝を抜かれた一人である。本当に「度肝を抜かれた」としか言いようがない。この歌詞を、ボカコレという場に持ってきたそのアイデアに、そしてそれを受け入れさせる圧倒的な実力に感動させられた。自分が「ボカロのドラマ性」を考えるきっかけの一つになった曲である。

ちなみに自分が通っていた高校にはお昼の校内放送はありませんでした。

かみさま、あなたの言うとおり

これも歌詞が印象的だった曲。魅力は上にあげたので、噛み締めて聴いて。

解けて、アンビバレンス

歌い手さん起用曲です。これまでの歌が割とシニカルに終わっていたのに対して、この曲は主人公の「叫び」が含まれている様な気がする。そういう意味でこれまでの曲とちょっと違うなと。ボーカリストさんを迎えるにあたって、雰囲気もちょっと変えたという感じなのだろうか。

以上、卯花ロクさんの紹介である。

またね。

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