F/EAB-402K サイレント・ワイバーン

【開発経緯】

本機はUAV多目的運用の過程で発案された試作検証機です
付与された型式は戦闘電子攻撃/爆撃機を表し、UAVを使役することでマルチロール任務を単機達成しようとした特化機になります

最大3機のUAVを管制してX ㎦の宙域を、戦術によって単機でカバーすることを目的に、仕様を定められました
その監視可能な宙域範囲は明らかにされていませんが、探知性能は採用されたレーダーによって、最終的に単独で最大探知距離570kmとなりました
この探知距離はUAVにもそれぞれ装備されたレーダーと組み合わせることで更に延長可能ですが、実際に起こりうる戦闘範囲(最大約150km前後)と有視界戦闘では、あまり有効に活用されませんでした

また運用評価の段階では、本来 本機で重視された電子戦(UAVによる偵察任務および中隊〜大隊規模の管制機としての役割、そしてファーストルック・ショット・キル)よりも、標準的な戦闘攻撃機としての運用に向くという結果がレポートによって残されています
これは後述する本機唯一の運用実績でも実証されました

ファーストルック・ショット・キル能力は、当時 病的なまでに軍部に流行した機体開発における要求要項であり、本機の呼称であるサイレントの意味がそれを如実に表しています

しかしながらレーダーレドームをはじめとする高度な電子装備は、サイレント・ワイバーンを早期警戒機に近い生産コストにまで跳ね上げてしまいました

それは本機の開発プラン自体を圧迫し、結果 評価試作の2機、量産試作の2機、計4機の生産のみに留まり、わずか2年で計画自体がクローズするという結末を迎えます

実戦に参加した量産試作である2機の内、第6航空宇宙艦隊に所属した機体は様々な問題を抱えつつも、安那カノの率いる部隊で運用され、御影ケイナの愛機として活躍し、多大な戦果を上げることになります
残る1機は第7航空宇宙艦隊で、ほとんど実戦を戦わず終戦を迎え、現在は軍の管轄下でモスボールされています

また量産試作の2機は、月とコロニーの博物館で一般展示されており、UAV計画黎明期の特異的存在としてその希少性を示しています


【機体詳細】

本機は軍部の兵器開発局が主導的立場で、月に拠点をおくウェストムーン社が機体設計を、スペースバーンss社がUAV設計を担当しましたが、様々な技術的に課題を抱えたままで開発が進められました

そのひとつに、支援AIがあっても複数機のUAV運用が情報処理の問題で難しく、1人のパイロットでは管制しきれないという致命的かつ根本的問題が浮上し、これは最後まで開発当時の技術水準にあるソフトウェアでは解決出来ませんでした

最大3機と定められたUAVを自律させる支援AIの開発も難航しました
辛うじてスペースバーンss社と共に、当時 最高峰のソフトウェア・ハード開発会社と謳われた地球のプリメラ・エレクトロン社とが合同で開発した独自のネットワークの構築とエンジンを使用して3機をリアルタイムで同時並列処理可能なソフト・ハードを実装出来ました
そのため、ワイバーンに電装されるUAV関連の電子機器とソフトウェアは、仮に故障したら現地では修復不可能でした
この事実はコスト同様に量産プランの足枷となりました

UAV管制に専念するコ・パイロットが搭乗する複座仕様も計画されましたが、人的資源のリソースに対する課題から立ち消えることになります

加えて本機はUAVを含めて重力の強い星での運用は想定されておらず、1G以上の重力下では着地して自立することが不可能です
但し1G運用の仕様検討は存在し、それはUAVと機体脚部の変更と高推力化、増槽を追加したもので、F/EAB-402K6 スカイレイ・ワイバーンという名称で計画のみ存在しています

サイレント・ワイバーンの優れた点は、通常ならば機体側に付与しなければならない仕様の幾分をUAVへ移し替えることが出来たことです
そのため、過剰な携帯火器や固定武装、バランスを欠くような高運動性能といった開発機が陥り易い問題を払拭し、機体単体のトータルバランスは高いパフォーマンスを発揮しました

また特徴的な頭部形状は「スターフィッシュ」の俗称で呼ばれ、光学カメラによって360degの視野を確保するもので、当初はUAV運用における空間的なサポートが目的でしたが、これは予想外にも近接戦闘で有効活用されます
実戦運用にて御影ケイナが、ヘッドアップディスプレイに具備した有視界全天球モニターを接近時に多様している運用データを残していることからも明らかでした

それらの副次的な結果は、本来の用途から限定されて本機が戦闘攻撃機として活躍出来た理由となります

サイレント・ワイバーンの機体性能は、同時期に運用が始まったF-404 グリフォンⅣと比較すると特出したものはありませんが、特殊装備の数々でグリフォンⅣの戦果を上回ることが出来、その名の通りの特化機でした

ですが その限りあるメリットも、特に製造コストの面から費用対効果は認められることはありませんでした
しかしながら本機の開発成果は、8年という時を経てUAV付加ユニットとして成功をおさめるF/EB-411x4 ムーン・フェンリルへ受け継がれます


【運用】

ワイバーンはその希少性と損失の恐れから、地球周回のA集団に属する第7航空宇宙艦隊ではほとんど運用されませんでした
しかし月周回のB集団である第6航空宇宙艦隊 第2戦闘宇宙団 第1宇宙大隊では、安那カノが指揮する中隊で特筆すべき戦果を上げます

御影ケイナの搭乗したワイバーンは、通常戦闘では割り切りからUAVの行動を完全なAI運用に任せUAV管制を放置し、戦況によって近接戦闘時、一時的に手動操縦に切り替えるという離れ業で一部では「有視界戦闘では最強」と呼ばるまでに活躍することになります

事実、ワイバーンはこの戦争で宙域支配機として同時期に開発されたF-404 グリフォンⅣ(通称オーバーグリフォン)を上回るスコアを記録することになります
(戦中スコアは、グリフォンⅣ の85機で5位、ワイバーン 御影ケイナの92機で3位、2位と1位は汎用的な制宙機 F-309 サラマンダー
但しグリフォンⅣとワイバーンはロールアウトが遅れたため、開戦当時から存在するサラマンダーと比較することで、当時の機体開発競争での技術的な革新を感じざるを得ません)

実運用でこまめな学習を繰り返したこともUAVのAIの質を高めることになりました

これは御影ケイナ単独の戦果ではなく、安那カノが搭乗したF/A-202(vf.x2) ステラ・フェニーチェ(通称サジタリオ)との連携運用で成立するもので、戦術的な意味合いが強く、後に軍部が採用するロッテ戦術にも一定の影響を与えました(当時 連盟宇宙軍では12機の中隊規模、4機の小隊運用がスタンダードで最小単位は与えられませんでした)

ワイバーンが単機で面制圧し、サジタリオが着実に数を減らす戦術は、後に「シェパード・ドッグ」と呼ばれますが、パイロットであるふたりはあまり心よく感じていませんでした
これはカノとケイナの関係性から揶揄されたものであると戦史家やミリタリーファンの中では有名なエピソードです

御影ケイナは遺憾なく本機の特性を理解して、その戦場で大きな意味を残しますが、火星宙域での戦闘で母艦を守る形で被撃墜され、終戦を迎えます

御影ケイナは戦後のインタビューでは「ワイバーンについてコメント?え?…そうですね、別に報道されるほどピーキーではなくて(中略)ノーナ、デキマ、モルタ(※)を自由にさせて正解でした、だって人が人を支配するって、それってAIだって関係なくて、この戦争と同じで不謹慎だし不誠実じゃありません?」とコメントを残しており、彼女がAI戦闘(UAV使い)として優れた素質を持っていたことをうかがい知ることが出来ます
また御影ケイナはスペースバーンss社の斡旋で兵器開発局から佐官待遇でのテストパイロットオファーを受けましたが、安那カノの指揮下から外れることを嫌い、断っています
※ノーナ、デキマ、モルタは開発本部にてワイバーン量産1号機に具備されたUAVに付けられた愛称でした

【装備概要】


<近接装備>トライデント


レーダーの送受信電力節電のため、プラズマソードのような電力消費量の高い近接武器は見送られ、実体剣が採用されました
また近接戦を重視しない本機の仕様を考慮し、リーチの長いトライデントが選定されました
しかしながらケイナは近接戦で数多くの戦果を残しています
トライデントの動作は油圧制御のため、シンプルな構造からトラブルが少なく高推力であり、長時間の戦闘で機能するものでした

<ミサイルポッド>


戦術プランによって多彩なミサイルを装備出来ます
特化機として面制圧に投入された本機は、視程外射程ミサイルによる攻撃で多数の敵機を確実に撃破し、砲兵隊のフォローにあたった記録が残されています
また同時に21の目標に対して攻撃可能でした
ケイナは有視界戦闘前に、UAVと連携してその役割を果たしています

<中距離戦用アサルトライフル>

Mideium-Range Space to Space Assault rifle

トライデントと同様の設計思想から実弾を使用した携帯火器を装備しています
貫通力は一般的なものですが、運用を阻害しないようにそれなりにコンパクトなシリーズが採用されましたが、中距離戦という呼称ながら長距離戦も加味した兵装で、ライフルの上下に装備された反射式の光学センサとレンズが外見的な特徴です
但し長距離での命中率が悪く(初速と砲身長の問題)結果的には、ちぐはぐな仕様でした

しかしながらケイナは本ライフルに対して過剰品質の光学センサとレンズを利用して視程外の敵機を補足し、UAVによる攻撃またはカノとの連携攻撃に活かしています
弾数は30発で、サブマガジンを装備した仕様も写真からは確認出来ます

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