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【平家物語】巻03_16 大臣


清盛の怒りを、後白河院の使者・静賢は院に報告。院は尤もなことであると引き下がり、それ以上の言動はおこさなかった。

ここから清盛による、反平家側だった貴族たちへの大処断が始まる。
関白・藤原基房は大宰帥として九州に左遷。しかし早々に出家したので、九州まで下ることはなく備前国湯迫のあたりに留め置かれた。

一方、彼とは対立関係にあった、基房の兄・基実の嫡子であり清盛の娘婿である基通は、二位中将から関白となる。
基通は清盛の娘婿である。非参議中将から一足飛びの昇進には、人々は驚きあきれるばかりである。

太政大臣藤原師長も流罪になった。
かつて彼は保元の乱ののち父・藤原頼長に連座して土佐に流されたが、今度は尾張国への流罪である。
彼はもともと音楽を愛する風流人だったので、「罪無くして配所の月を見る」といういにしえの詩人たちのような暮らしは、憧れるところでもあった。
ある日、熱田明神に参詣したときに琵琶を弾き朗詠すると、曲の中に花の芳香や月の光が響きあうようであった。
聴く人々は土地の者ばかり、風流を解する者たちではないが、自然と神の感動を得ることができたのだろう。
師長はこの流罪があったればこそ、とむしろ感涙にむせぶのだった。

保元の乱以来の、藤原さんちの兄弟の確執は続いてます。
頼長の息子である師長のほうはむしろ戦線離脱気味で、忠通の息子達の血縁でエキサイトしてるわけですが、このあともずっとこの陰湿な争いを続けていくわけです…もうそれがアイデンティティなんだろうけど。。。

ちなみに、藤原頼長の息子3人は保元の乱後に配流になり、唯一生還したのがこの師長。説話集などに残る彼のエピソードを読んでいると、なるほど兄弟のなかで彼だけ生き残ったのもわかる、みたいなとこがあります。アーティスト脳というか、マイワールド系の人っぽいですよね。

  • 部下2人が琵琶で競ってるのを、カマキリに審査させた。(文机談)

  • 秘曲を伝授されたくて、ライバルを蹴落とすために「あいつ、アナタの若奥さんのとこに通ってますよ」と讒言した。(文机談)

  • 後年、そのライバルのことを思い出し、零落してるのを探し出して演奏させた。元ライバルが泣きながら感極まって演奏してるのを見て、周囲がひでーことするなとドン引きする中で、めっちゃ感動してた。(しかしその後感動がなぜか伝染しライブ大盛り上がり)(文机談)

  • 死にかけてる師匠のところに、「秘曲全部教えてもらってますかね?」って熱心に確認した。(胡琴教録) ※一方、『文机談』にはその師匠に演奏を聴かせて、苦しいのを和らげてあげた…っていうええ話エピソードもあります。

  • サボって外で遊んできた部下に「まずいご飯を無理に食わせる」罰を与えようと思い、麦飯とか与えたら、部下の身分ではご馳走なのでたらふく食べて大喜び。「なんなのもう死にたい…」って嘆いた。(古今著聞集)

ちょっと浮世離れしてて気まぐれで、芸術の世界に生きてる人、ってイメージです。
前に、続群書類従の管弦部を読んでたとき、この人が、合奏のメンバーに入ってるのに演奏せずにうだうだしてるときがあって、「謙虚なのか、自分がいちばん巧いの解ってて出し惜しみしてるか、どっちだ?」と思ってましたが、こうして彼の言動を並べて見てると、「後者だ!」と思いました(笑)。
まぁそんなこんなで浮世離れした師長さん、アコガレの白楽天とかと一緒!ビバ左遷!!と流刑ライフを満喫していらっしゃいます。よ、よかったね……。

あ、彼が朗詠してる詩は、「私の芸術の才能は、仏法と比べると虚飾にまみれたものですが、その才能全開で仏様を賛美するから許してねテヘペロ♪」みたいな内容です(すごい意訳しましたごめんなさい)。