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【平家物語】巻03_11 医師問答


大臣の潔斎を求める占いに思うところもあったのか、大臣・平重盛は熊野詣でに赴いた。重盛は、父である清盛に諫言が聞き入れられない辛さ、そうした中で平家一門の先頭に立つ苦悩を神仏の前で吐露する。そして、父の「悪心」を翻意してほしい、それが叶わず一門の命運が尽きるなら、己の命を召し上げて来世を救ってほしいと祈るのであった。
そのとき、彼の身体から灯篭の火のようなものがふっと出て消えたのを周囲の人は見たという。
帰路では、重盛に随行した、維盛ら子息たちが川遊びをしたが、その際、彼らの薄紫の着衣が水を吸ってまるで喪服のような暗い色にも見えたという。
不吉だと重盛に進言した人もいたが、重盛はそれも祈願への神仏の答えだと受け止めるのであった。 

そこから幾日も経たないうちに、重盛は病に倒れた。
このとき、宋の名医がたまたま京に滞在しており、清盛は診てもらうように手配しようとしたが、重盛は、己の生死は天命によるものとし医師に命を預けることのなかった漢の高祖(劉邦)の例など引いて、この国の大臣として他国の医師に命を任せることはしない、すべて定業であると語り、医師を呼ぶことはなかった。

それを部下からの報告で聞いた福原の清盛は、重盛ほどの大臣はいない、この国には過ぎた大臣だから助からないに違いないと泣き、福原から都へと向かうのであった。

いよいよ重盛の最期が近づいています。
清盛との対立描写が繰り返されていたので、胃は痛めていただろうと思われましたが、身体の不具合描写があったわけではない重盛。ここに来てついに心労が体に伝わっちゃたんですようかね、倒れてしまいました。

この章段の前半は、前章段での占い結果通りに身を慎んで熊野詣する重盛のお話。めちゃめちゃながい一人台詞(お祈りなんだけど)に、彼のストレスフルっぷりが表れているようでもあります。
・己の倫理観と、清盛から求められている立場の齟齬が苦しい
・このまま増長したら一門は潰れる予感しかないのに、立て直す力が自分にないのが辛い
・いっそ出家してこの権力闘争から離脱したいのに、それも決断できない
ってな内容で、「お父さんをなだめて天下を平和にし一門の未来を救うか【1】、それがダメで一門がどうにも滅びるなら重盛の命を縮めて来世を救ってくれ【2】」と祈るわけですね。
俺が父にできないことをやってくれ、ダメなら俺を死なせてくれ…って。
私が神仏だったら「…重っ」と思いそうですが、神仏は【2】で受諾してくれたようです。少なくとも、重盛はそう受けとめてるようです。

後半は、熊野詣の直後に病に倒れた重盛が、これまた病人とは思えぬ長台詞で外国の名医の往診を断るお話。
・大臣たるもの、他国の医療に己の命を任せるわけにはいかない
・死ぬか生きるかは天命だ
大きくはこの2つの理由なんですけど、これをまためっちゃ理屈っぽく昔の偉い人の話とか引き合いにしながら語るの…。重盛、ほんとキャラが立ってます。5分でプレゼンしてって言っても10分くらいずっと喋ってるタイプですきっと。

で、この理屈っぽい長台詞にめちゃめちゃ感動しているのが清盛だというのが、なんとも微笑ましい。清盛は重盛と政治的には対立している状況ですが、でも親として重盛のこの融通の利かないクソ真面目さを愛しているんでしょうね。重盛もそれがわかっているから、「父と全面対決して倒す」とか「全部見捨てて出家」とかが決断できない。
平家物語のこの2人の関係、すごく好きです。