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【平家物語】巻03_09 僧都死去


俊寛と再会した有王は、俊寛捕縛後の主家の没落を伝える。
俊寛の北の方は幼い息子を連れて鞍馬に隠れ住んでいたが、疱瘡で死んだ。
息子を失った北の方は心労から衰弱し、その一月後に死去。今は姫君だけが奈良のおばのもとに居る。

有王が命をかけて届けた娘からの手紙を読んだ俊寛は、無邪気に父の帰りを乞う内容を見て、その幼さを目の当たりにし、これでは独りになった後にこの娘はどうやって生きていけるのかと不安に号泣するのであった。
妻子との再会の希望を断たれた俊寛は、生きる気力も失った。
今はもう有王に迷惑をかけまい、と食事を断ち念仏を唱え、
有王と再会した23日後に息をひきとった。
有王は主のなきがらを荼毘に付すと、その骨を拾って都へと戻っていった。

今はひとり生き残った姫君に父の死を報告した有王は、その後高野山へ登り法師になったという。
残された姫君は尼になって父母の菩提を弔った。

巻3前半の主役格・俊寛がついに亡くなりました。
成経たちが熊野詣ごっこをしているときも参加しなかった俊寛が、最期に殊勝に念仏を唱えて死んでいくというのが、ああほんとに燃え尽きちゃったんだな…と悲しい。

興味深いのは有王の性格です。
バカ正直な人なんですよね。精神的に参ってる俊寛に、妻子が死んじゃったのをつぶさに語るのは、まぁ仕方なかったとしても、帰京後には姫君に、「お手紙を読んで、お父上はいよいよ弱って亡くなりました」と報告。
……おいおい!
もうちょっとオブラートに包めんのか!と思うわけですが、こういう性格の有王だからこそ、主に会うぞという一念で島に渡り、たったひとりで火葬までして帰って来れるのかもしれませんね。

彼が全部の仕事を終えたあとに高野山に向かう、って描写がさらっと出てくるところも、私にとっては興味深いです。
高野山に向かって僧侶になる際の資格や手続きがどのくらい煩雑なのかは、私には知識がなくてわからないのですが、当時、行き場をなくした人のさいごのセーフティネットとして「出家する」ってことが機能してたんですかね。

出家することで、自分の来世を祈ることもできるし、この世の安定を祈って働くことで、「社会に貢献してる」という自己肯定感も得られるわけじゃないですか。
今はそういうものがないから、行き場をなくすと引きこもっちゃって、社会と隔絶しちゃう。
出家してもお金持ってない人はめちゃめちゃ大変だったんだろうとは思うけど、でも、「いざとなったらあそこに行こう!」という場所が存在していたのだとしたら…と、いろいろ考えさせられちゃいます。

『平家物語』の話に戻ります。
鬼界が島トリオのマンガを描いたときにも書きましたが、私はこの俊寛とその娘の手紙のシーンが大好きです。
手紙を読んだときのリアクションとして、娘の能力に対して冷静なところが、弱っててもドライな俊寛だなと。でも、その無邪気で頼りない娘が可愛くて不憫で仕方ないから泣いちゃうんですよね。
先に出てくる俊寛の妻子とはセットになって出てこないので、この娘は北の方腹の子どもではないのかな。だとすると余計に気がかりだったのかも。
流罪になってて、自分だけ赦免されてないというシビアな状況なのに「お父さん早く帰ってきてね★」みたいな手紙しか書けない娘を目の当たりにして、「こんなおバカでは、働きに出てもちゃんとやっていけると思えない~!」って心配するお父さん。
私はこのシーンで一気に俊寛が好きになりました。
平家物語の親子エピソードって、基本「父と息子」が多いので、この「父と娘」エピソードがとても心に残ります。

こうして鹿ケ谷メンバーの消息物語は終わりました。
次回から都に戻っての物語が再開です。
いよいよ、巻3最大の山場、重盛の死去に向かってストーリーが動いていきます。