【平家物語】巻03_09 僧都死去
巻3前半の主役格・俊寛がついに亡くなりました。
成経たちが熊野詣ごっこをしているときも参加しなかった俊寛が、最期に殊勝に念仏を唱えて死んでいくというのが、ああほんとに燃え尽きちゃったんだな…と悲しい。
興味深いのは有王の性格です。
バカ正直な人なんですよね。精神的に参ってる俊寛に、妻子が死んじゃったのをつぶさに語るのは、まぁ仕方なかったとしても、帰京後には姫君に、「お手紙を読んで、お父上はいよいよ弱って亡くなりました」と報告。
……おいおい!
もうちょっとオブラートに包めんのか!と思うわけですが、こういう性格の有王だからこそ、主に会うぞという一念で島に渡り、たったひとりで火葬までして帰って来れるのかもしれませんね。
彼が全部の仕事を終えたあとに高野山に向かう、って描写がさらっと出てくるところも、私にとっては興味深いです。
高野山に向かって僧侶になる際の資格や手続きがどのくらい煩雑なのかは、私には知識がなくてわからないのですが、当時、行き場をなくした人のさいごのセーフティネットとして「出家する」ってことが機能してたんですかね。
出家することで、自分の来世を祈ることもできるし、この世の安定を祈って働くことで、「社会に貢献してる」という自己肯定感も得られるわけじゃないですか。
今はそういうものがないから、行き場をなくすと引きこもっちゃって、社会と隔絶しちゃう。
出家してもお金持ってない人はめちゃめちゃ大変だったんだろうとは思うけど、でも、「いざとなったらあそこに行こう!」という場所が存在していたのだとしたら…と、いろいろ考えさせられちゃいます。
『平家物語』の話に戻ります。
鬼界が島トリオのマンガを描いたときにも書きましたが、私はこの俊寛とその娘の手紙のシーンが大好きです。
手紙を読んだときのリアクションとして、娘の能力に対して冷静なところが、弱っててもドライな俊寛だなと。でも、その無邪気で頼りない娘が可愛くて不憫で仕方ないから泣いちゃうんですよね。
先に出てくる俊寛の妻子とはセットになって出てこないので、この娘は北の方腹の子どもではないのかな。だとすると余計に気がかりだったのかも。
流罪になってて、自分だけ赦免されてないというシビアな状況なのに「お父さん早く帰ってきてね★」みたいな手紙しか書けない娘を目の当たりにして、「こんなおバカでは、働きに出てもちゃんとやっていけると思えない~!」って心配するお父さん。
私はこのシーンで一気に俊寛が好きになりました。
平家物語の親子エピソードって、基本「父と息子」が多いので、この「父と娘」エピソードがとても心に残ります。
こうして鹿ケ谷メンバーの消息物語は終わりました。
次回から都に戻っての物語が再開です。
いよいよ、巻3最大の山場、重盛の死去に向かってストーリーが動いていきます。