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【平家物語】巻03_17 行隆之沙汰


清盛の怒りは法皇や公卿たちに留まらず、それに仕える武士や貴族たちにも及んでいた。
藤原基房に仕える侍・大江遠成は、清盛の手が及ぶのを察知し、京のはずれまで落ち延びたが、ここでたとえ東国に落ちたところで現段階では平家の威勢には叶うまいと、京に引き返し、邸に火を放って自害する道を選んだ。

一方、その影響で幸運が転がり込んだ人々もいる。
前の左少弁・藤原行隆は、二条天皇の側近であった藤原顕時の長男であったが、この十年余りは昇進もなく、生活も困窮していた。
そんな行隆に清盛からの呼び出しがかかった。
行隆は、さては何者かの讒言で処罰されるのかと怯えながら清盛のもとへ向かったが、思わぬ歓待を受ける。清盛は、かつての盟友の息子として、彼を引き立てるというのだ。

このように様々な人々の浮沈があり、思わぬ幸運にあずかった者もいたが、しかしこれとて一時の栄華でしかないのだ。

しょっぱなは物騒なエピソードから始まります。
大江さんはこの章段のなかでは基房の部下として紹介されていますが、同時に八条院暲子内親王とも関係が深く、彼女の所領の管理にも携わっていたようです。八条院といえば、彼女の猶子のひとりがあの以仁王。また、彼女の側近の女性を平頼盛(清盛の異母弟で、清盛とはやや対立気味。のちの平家都落ちにも加わらなかった。)が妻にしています。そんな感じで、八条院は清盛とは非友好関係にあります。
清盛は、鹿ケ谷の始末でもそうでしたが、八条院だったり後白河院だったりといった皇族に対しては直接には手を下さず、周りを潰していく戦法なので、この大江さん一家も覚悟を決めてしまったんでしょうね。つらい…。

この壮絶な一家心中エピソードのあとに出てくるのが、行隆さんのエピソード。こちらが今回のメインです。
平家物語の清盛の愛憎の、極端さがよく出ていて、結構好きです。
行隆とその家族が「もうあかん~!」とあわあわする様子とか、コミカルで(本人達は真剣なんだけど)面白い。

行隆さんは貧乏してるので、借りた牛車で清盛のもとへ向かうんですよ。で、歓待されて邸に戻ったら、牛車がプレゼントされる。この「好意を持ったら徹底的に親切」というのも、ああ平家物語の清盛らしいなぁ~と。

さて、ここで「この栄華だってひとときのものでしかない」とクギを指された行隆さんですが、平家凋落ののちも特に失脚することなく、そのまま都で働いてます。
安徳天皇の蔵人でもあった彼が、平家が西海に消えたあとにやっていた仕事は、なんと、平家に焼き払われてしまった東大寺の再建。重源と協力して再建の責任者として尽力しますが、残念ながらその完成を見ることなく病没します。壇ノ浦後も平穏に、かつ東大寺再建なんて大切な仕事をやってる人なので、ちょっと福福しい感じにしてみました。

また、彼の子息の中には、平家物語の作者に擬されている「信濃前司行長」と思しき人物がいます。というわけで、最後のコマにちょこっと登場させてみました~。