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かわいいだけじゃダメみたい

おんなのこきらいをみるたび、私もキリコだったことを思い出す。ブスなキリコ。

可愛くないことで嫌な思いをたくさんしてきたし、惨めで泣きながら帰ったことも数えきれないほどある。だから、中学生で自分がどうしようもないブサイクだと気づいて以降、死ぬほど努力した。どうにか可愛くなりたくて、というよりせめて人間として扱って欲しかったから、とにかく痩せてお金をかけた。やっと人並みになれたと思っていた矢先、同じ大学の顔見知りの女に「ブス」とSNSで書かれ、絶対殺すと思ったと同時に希死念慮マシマシのメンヘラ女になったこともある。とにかくそんな人生だからこそ、「かわいい」ことは私の中で絶対的に価値があって、正義で、免罪符だった。

若いころ、とくに大学生なんてルッキズムの宝庫だ。可愛ければそれだけで感謝されて愛される一方で、可愛くない女に価値はない。めちゃくちゃ真面目で授業に全部出ているとかなら違う意味で価値があるかもしれないけれど、とにかく可愛い女と可愛くない女では学生生活が全く変わる。
大学生になった頃の私は、少しはマシになっていたとしても、いくら良く見積もっても「ふつう」もしくは「かわいくないけどコミュ力でグループにいる人」の程度だった。飲みに呼ばれても主役は常に可愛い子たちだったし、男の子にご飯に誘われても「(めちゃくちゃ顔のかわいい)友達も連れてきてほしい」というお願いがセットだった。SHISHAMOの「あの子のバラード」みたいな経験なんて両手足の指じゃ足りないくらいある。

若さを失いつつある今、そして仕事を始めた今は、「かわいい」ことよりも大事なことがあるのかもしれない、と思えるようになってきたけれど、当時は「かわいい」を必死で拾い集めて息をしていた。50000000回のブスをかき消すために、たった1回の「かわいい」をお守りのように握りしめていた。かわいくなれないなら死んでしまいたかった。「可愛くなれないから死にたい」と遺書を書いたこともある。
だってどれだけ頑張っても私は可愛くなれないから。頭もそこそこ良くて、人に恥ずかしくない暮らしをしていて、お金もあって、自分の自由もあって、でも「かわいい」はどれだけ頑張っても手に入らない。努力で手に入るものなんてひとつもいらないから、唯一無二の「かわいい」で無双したかった。男は全員私を好きになり、女は全員私が可愛いせいで気が狂えばいいと思った。可愛いことで認められたくて、誰より上に立ちたくて、でもそれはどうしたって叶わなくて、歯痒くて泣いた。

「私のほうがずっとずっと好きだし私のほうがずっとずっとかわいいもん」

キリコがユウトに放った台詞は、キリコの生き方の全てだった。キリコと、そして私の価値観。可愛いものが勝ちで、可愛くなければ負けの世界。
たまたま顔が良く生まれただけでそれだけ人生得してるんだからちょっぴり不幸になってくれたっていいはず、私の方がずっとずっとかわいくなりたくて、なれなくて、死ぬほど足掻いてきて、でも結局可愛い女が全てを攫っていく。だからといって、私よりブスなのに幸せそうな人がいるのはどうしてなのかわからない。可愛ければ幸せになれると思ってきたのに、前より可愛くなってもしんどいまま。私の方がずっとずっと頑張ってきたし、私の方がずっとずっとかわいいもん。

「お前は結局自分のことしか見えてない」

ユウトの答えは単純で、でもキリコという人間をこれ以上なく正確に描写している。
私もそうだ。「かわいい」のは私のためで、私以外の人なんてどうでもよかった。可愛くない人は全員見下していたし、可愛い人は全員死ねばいいと思っていた。他人も私を「かわいい」と認めてくれればそれでよかったし、認めてくれない人は要らなかった。さやかみたいな女は絶対に許せなかったけど、それだって誰かのためでもなく、自分の思い通りにならないことが不快なだけだった。

「かわいいだけじゃダメみたい」
「じゃあキリコちゃんには何が残るの?」


空っぽだ。
必死にしがみついてきた「かわいい」がなくなった時、私が私を肯定してあげられる要素は何もない。「かわいい」以外でだって、いろいろ頑張って生きてきたはずなのに。

「ブス」は呪いだというけれど、私は「かわいい」に縛られていた。可愛くなければいけないと呪いをかけて、可愛いこと以外目を塞いでいた。
ラストシーン、「君かわいいね」の声に「はい!」と清々しく返事をしたキリコに安堵した。可愛いことはいいことだ。可愛くあることで幸せになれるのなら、可愛くあるべきだと思う。でも、「かわいい」はお守りであって、呪いではないのだ。

重要なシーンについて触れないように書いたら、「おんなのこきらい」が薄っぺらい映画のようになってしまったけれど、「かわいい」の呪いに気づけたし、それを解きたいと思えるようになった。そう簡単に解けないし、私もまだまだ全然キリコではあるけれど、少しずつでも肩の荷が降りればいい。

"女の子は世界一可愛い可愛いって言われたくて
変わりたい変われない
そう世界を変えればいいの"

だからこの話はもう終わり。

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