彼は今どこで何をしているのか

そろそろ叔父の相続放棄の手続きを進めようと郵便局に切手と収入印紙を買いに行った。ついでにレターパックも赤いのも買う。昼過ぎに家庭裁判所に電話して確認した限りでは普通郵便でも書留でも何でも良いということだったので、出すのが一番簡単なレターパックにした。

この一月くらいの間に家庭裁判所には何度か電話したけれど、今日が一番しどろもどろだった自信がある。あらかじめ箇条書きにしておいた要点を順番に聞いただけなのに、ところどころで言葉が出てこなかった。なんとなく頭がうまく切り替わっていないのを感じた。

姉と妹からの書類はすでに届いていて、必要な戸籍謄本もぜんぶ取得済みだ。残された懸念は弟だけである。2週間前を最後にメールの返事が来なくなっていて、一昨日に電話をしたけれど留守電だった。そして折り返しの返信はいまだにない。何が起こっているのか想像してみるも、なかなか明るい想像にはならないのでちょっと困っている。

いくらでも待ちたいけれど、相続放棄の手続きには期限があるからそうもいかない。とりあえず弟の分は後回しにして、僕ら3人の分だけを提出することにした。そういった事情を裁判官への手紙にしたためて提出書類に同封すればいいだろう。ついでに妹は海外在住だから回答書のやりとりにも日数がかかりますというような断りもつけくわえた。もう遅い時間になっていたので、明日の午前中に最終確認をしてからポストに入れることにする。

それまでに弟から連絡が来るだろうか。ダメ押しでメールか電話するべきだろうか。なにぶん事情がわからないので何が正解かもわからない。だけど、ちゃんと提出しないと面倒なことになるぞ!と脅すのは、悪手のような気がしてならない。どうしてこんなに気を使っているんだか我ながら笑っちゃうくらいなんだけど、どうやら僕は子供の頃にあまり良い兄でなかったことの負い目を、最近になって急に感じ始めているようだ。