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キョージンナリズム 第41話

 から続く

後藤くんに会ったのは3年前だろうか。今カクラバさんの演奏を見つめる、あの真剣な目と同じ目で私の演奏を見つめていた後藤くん。

場所はライブハウスのクロコダイル。私はまだコンガを習いはじめの頃で、セッション的なライブに呼ばれての出演だった。そして後藤くんは『森林倶楽部』というバンドのドラマーだった。ニューウェーブぽいバンドなのに、ヴォーカルの女の子の声がキュート。でも後藤くんのドラムの音はしっかりと重くて存在感があった。後藤くんはライブ後に私に話しかけて来た。「コンガって、ちょうどドラムの音の隙間をぬうように叩くんですね」と言われた。私はこれを言われるまでは、あまりそんな事を気にしてなかった。でも、後で気づいたら後藤くんの言う通りだった。

(彼が参加していた『森林倶楽部』のヴォーカルのもりばやしみほさんは、実はその後90年代にファッション・アイコンになって行く)

カクラバさんの快調なコンサートが続く。その後何曲か演奏して、一度おじぎをしてステージから去った。会場一体となってアンコールの嵐。ややあって、再びカクラバさんが出て来た。おもむろに再びコギリの前に座り、曲が始まった。カクラバさんの左右の手の動きの速さ。カクラバさんの「どういう法則で動いているのか分からない」動きにただただ圧倒される。私は絶対あんなに自在に左手が動かない。

曲が終わり、また拍手喝采があり、コンサートは終了した。人々が帰り始める中、私はさっき見かけた後藤くんを探すが、これが見つからない。ささっと、帰っちゃったのだろうか?

「誰かを探してるの?」

「いや、知り合いを見かけたけど」

「これだけ人がいるから見つからないんじゃないかな」

「そうだよね」

その後、植木さんと用賀の環七沿いのレストラン『イエスタデイ』に寄った。食事をしながらカクラバさんのライブの事や、これからやりたい音楽のことなど語り合った。私は勝手に「植木さんはどんな風になればもっとミュージシャンとして売れるだろうか」などと頭の中で考えていた。…まず、植木さんはもう少しおしゃれになるといいな。そして音楽そのものも何かしらおしゃれな雰囲気を纏うといいな。このままだと単にジャズやファンクに詳しい人の音楽になっちゃう。もったいないと思う。今の「音がファンクぽくて歌詞がコミカル」だと、米米クラブを超えられない…何か違うテイストを獲得すればなあ…などと考えながら、それはいっさい口に出さずにいた。だって、男ってそういう事を言われるのけっこうショックでしょ。自分が尊敬する人からしか言われたくないでしょ。

ひとしきりいろいろ話して、その日は別れて私は帰路についた。1時間ちょっとで自分のアパートに戻った。

私は机の引き出しの中を探した。確か、3年前にクロコダイルで会った後藤くんから連絡先を書いたものをもらった記憶があったから。今日来ていたのは後藤くんに間違いないもの。

そして机の引き出しから、ライブのチラシの裏側に書きつけた彼の電話番号が出て来た。


 に続く

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