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『空想科学読本』のイラストを、近藤ゆたかさんにお願いした理由。

『空想科学読本』25周年なので、当時の話をもう少し書こう。

本を企画した目的が「柳田理科雄が経営する学習塾の危機を救う」だったことは、前回書いたとおり。それまでの経験から「この本は、面白く作れば5万部くらい売れるかも」とも思っていた。だが、柳田に本を書いた経験はないし、アニメや特撮にも詳しくない(当時、柳田がよく知っていたのはウルトラマンとマジンガーZだけだった)。
それだけにイラストレーターがとても重要だと思った。初めて本を書く柳田は、それがどんな仕上がりになるか想像もできないだろうから、先にイラストレーターに本の完成形をイメージしてもらわねばならない。

そこで、お願いすることにしたのが、近藤ゆたかさんだ。
特撮に詳しく、マニアたちにも一目置かれる人格者で、早稲田の理工学部を出ている。それだけでも『空想科学読本』にうってつけだったが、僕がとても気に入っていたのは、そのタッチだった。ウルトラマンを描くと「ゆたかさんのウルトラマン」になり、サンダーバードを描いても「ゆたかさんのサンダーバード」になる。線には哀愁が漂っていて、決して「上から目線」にならない。好感度が高い。同時に、マニアックな読者には「この人、わかっている」としっかり伝わる。もう、この人しかないと思った。

ゆたかさんにお願いするにあたり、僕がイメージしたのは『おもしろい物理』(著/ペレリマン・訳/金光不二夫・東京図書)の挿絵だった。下の写真のように、トーンやベタは使わず、線画だけで生真面目に描いてある。その味わいが素敵で、本を見せて「『空想科学読本』は“夢の世界に現実の科学を持ち込む”という無粋な本だから、文章もイラストも武骨な感じにしたい」と仕上がりのイメージを伝えると、ゆたかさんはたちまち理解してくれた。

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ゆたかさんのイラストが、本のイメージアップにどれほど貢献してくれたことか。哀愁あるそのイラストは、しばしば過激に走る柳田の筆致の印象を和らげ、難解な内容を「なんとなくわかる」と思わせてくれた。「文章は好きになれないけど、イラストが魅力的で…」というマニア系の読者の声を何度も聞いた。ゆたかさんのイラストに大笑いして、いまでも覚えてくれている読者もとても多い。

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また、柳田の考え違いや計算間違いをゆたかさんに指摘され、事前に原稿を修正したことも10回や20回ではない。『空想科学読本』は、近藤ゆたかさんの存在なくては成立しない本であった。

残念ながら、ゆたかさんのイラストを使った『空想科学読本』は2016年の17巻を最後に刊行が途絶えている。空想科学研究所のメインの書籍が、子ども向けの『ジュニア空想科学読本』に替わったからだ。希望される高校に送っている「空想科学 図書館通信」では、いまもゆたかさんに絵を描いてもらっているから、いま彼の筆致を楽しめるのは中高生だけなのだ。

しかし、ゆたかさんのイラストを見たいという声は絶えないので、このnoteで始めた原稿公開では、ゆたかさんのイラストを使わせてもらうことにした。スタートしてみると、やはりモーレツに魅力的である。
近藤ゆたかさんにイラストをお願いして本当によかったと、いまも思う。この人選については、25年前の自分を褒めてあげなければ。

【文/空想科学研究所所長 近藤隆史】

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