見出し画像

『空想科学読本』という書名にした理由は、拍子抜けするほど単純!

『空想科学読本』は、タイトルと企画の思いつきが同時だった。
当時、僕は宝島社という版元の書籍の編集部にいて、『いきなり最終回』という本を作っていた。これは著名なマンガの最終回だけを集めるという企画で、個人的にも大好きな『巨人の星』の最終回を載せたりしていたのだが、ある日いっしょに昼ごはんを食べていた上司が、この本の話題をきっかけに、10年ほど昔の話を始めた。

「『巨人の星』といえば、かつて別冊宝島に「消える魔球はなぜ実現できないか」という記事を載せたことがあった。その本の新聞広告を打ったら、朝から電話がじゃんじゃんかかってきた。すべて「消える魔球の記事は、どんな内容なのか?」という問い合わせ。記事そのものは、数十行のアッサリした内容なのに、あれには驚いたなあ」

消える魔球の記事が載った「別冊宝島32号」のタイトルは『科学読本』。その書名を聞いた瞬間、僕は「だったら、マンガの現象だけを扱って一冊にして『空想科学読本』と名づければ、もっと電話がじゃんじゃん鳴るのでは?」と思った。自分でも驚くほど単純な発想である。

思い立った僕は、題材を「子どもの頃に見ていた特撮番組やアニメ」に絞ることにし、この本を使って柳田理科雄の学習塾を救済できないかと考え、挿絵は近藤ゆたかさんで『おもしろい物理』ふうに……という具合に、本の仕上がりイメージを固めていった。その間、企画の軸とタイトルは、最初の発想から一度もブレなかった。ゴールまでのまっすぐな道がきれいに見えている、と感じていた。

ところが――。
原稿もだいぶ進んで、モリナガ・ヨウさんにお願いしたカバーのオブジェも完成し、デザインも進行中……というタイミングになって、営業部から「書店に意見を聞いたのだが、どうも『空想科学読本』という書名では内容が伝わらないようだ」と言ってきた。代案を聞くと『ウルトラ科学研究』がいいという。
驚いて猛反対したが、営業部も頑として譲らない。仕方なく、その書名でのカバーデザインも作ってみた。が、やはりパッとしない。頭を抱えていると、また営業部が「そのタイトルでも伝わらないようだ。もっとインパクトの強い書名にしよう」と言ってきた。
そして提案されたタイトルは『ウルトラマンは飛ぶと死ぬ』だった。ひっくり返るほど驚いた。

誤解のないよう言っておくが、売るためにここまで介入してくる営業部を、僕は嫌いではなかった。彼らは本当に熱心だったし、「ウルトラマンが飛ぶと死ぬ」というのも、本の内容には沿っている。だが、とても承諾できる案ではなかった。僕はモーレツに怒り、こんな会社やめてやると騒ぎ、実際に2日ほど無断欠勤し、最初の書名に戻してほしい旨の嘆願書を出して……というドタバタを経て、ようやく『空想科学読本』に戻った。

後に柳田理科雄に聞いたところ、「本当に会社を辞めそうな勢いで怒っていたので、もう本は出ないかもしれない」と覚悟を決めたそうである。いま考えてもあんまりな書名案だとは思うが、僕にとっては『科学読本』から発想した『空想科学読本』が自然すぎて、どんなタイトルであれ、他を受け入れる気持ちはなかったのだと思う。

【文/空想科学研究所所長 近藤隆史】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?