誕生日プレゼントの話

あたたかな幽霊
りっとんさんと草渡の卓、晃一くんと紅葉の話
頭空っぽにして読んでください
(最後の自分感想でふわクリの事に触れています。スクロールに気をつけてください)




「紅葉くん、誕生日近いよね?何か欲しいものはある?」
「たん、じょうび?」

お風呂からあがり、明日の夕飯の献立をなににしようかベッドに座って考えている僕に、こちらもお風呂からあがって隣に腰かけてくれた晃一くんが問う。
そんな彼に僕はなんとも間抜けな声を出して返答をしてしまった。

「その…楓くんと、同じ日だよね?だからなにか送りたいんだけど…何か欲しいものとかあるかなって」

誕生日。生まれたことをお祝いする日。仲のいい友達からプレゼントをもらったり、特別な食事や、おいしいケーキを家族みんなで囲む特別な日。そこでも、家族からプレゼントを貰う日。
たくさんの人におめでとう、と言われる日。

そっか。普通の人は何かをする日なのか。と他人事のように思う。

楓と僕が生まれた日。その日楓は色んな人にお誕生日おめでとう、と声をかけてもらっていた。今日の夕飯は楓の好きなものよ、という話を遠巻きに聞いた気がする。夜になればお祝いの言葉を歌にのせてケーキのロウソクを消して、なんてこともきいた。
もちろん僕にはそんなものは無い。あったとしても、1年越しに楓が飽きたからとプレゼントを押し付けてくるくらいだ。それも、家中の人に見つかれば捨ててしまわれたけど。

「紅葉くん、どうしたの?急にぼーっとしちゃって…」

晃一くんに声をかけられて思考が現実へと戻される。急に黙ってしまった僕を心配そうに見ていた。

「あ、ううん。気にしないで、ちょっと考え事」
「そう…ならいいんだけど」
「プレゼント、だっけ?うーん…僕は晃一くんと一緒にいるだけでもらえてるようなものなんだけど」
「それはそれですごく嬉しいけど…形として残るものを送りたいな」

「形として残るもの………食洗機………?」
「確かに前に欲しいね、とは言ったけど…それは共同で使うようなものだし紅葉くんが個人的に欲しいって思った物をあげたいんだけどな」

間をたっぷりと開けて口にした欲しいと思っているものはどうやら晃一くんにとって誕生日に送るようなものでは無いらしい。

「僕が、個人的に、ほしいもの…」

晃一くんの言葉を鳥のように繰り返し呟く。
そんなこと、この人生で考えたこと無かった。
誕生日を祝ってもらえる。という事だけでもとても珍しいものなのに。自分で言うのもなんだが楓と違って無欲の人間に個人的に欲しいものなんてあるのだろうか。(…晃一くんの事は欲しがってしまったが。)

誕生日。
あたたかなお祝いの言葉。
誕生日プレゼント。
特別な食事。
誕生日ケーキ。

「…ケーキ。」
「え?」
「誕生日ケーキが欲しい…かな」

1度だけ楓がもってきてくれたケーキ。
なんのケーキか忘れてしまったけど、楓が甘すぎて食べきれなかった。と言っていた残り物。
持ち出した際、乱暴に扱ったのか形が崩れてしまった、僕がはじめて食べた誕生日ケーキ。
同じ日に生まれたのに紅葉だけ祝われないのは変だろ。と笑いながら楓が贈ってくれた特別なもの。
嬉しくて泣きながら食べてたのも笑われたっけ。

「もちろん、ケーキも用意するよ?他になにか…」
「ううん。僕、誕生日ケーキがいいんだ。僕の名前のプレートがのってて、形が崩れてなくて、僕の年齢分ロウソクが刺さってて、僕のために用意された…佐々木紅葉の誕生日ケーキが欲しいんだ…」

彼の声を遮ってまで欲しかったものを伝えた。
生まれてずっと用意されてなかった佐々木紅葉、僕だけの誕生日ケーキ。
普通の家庭なら当たり前のものを欲しがるのはやはりおかしいのかなと声が小さくなり、不思議そうに見つめる彼の目線がつらくて僕は俯いてしまった。

晃一くんがせっかく欲しいものをきいてくれたのに僕は満足に返答することができない。
欲しいものって何?普通の人は何を欲しがるの?
普通ってなんだ?僕は普通じゃないのか?
普通じゃないよな。片割れを殺してまで晃一くんを欲しがって。
なにを、欲しがればいいの?
僕は、これ以上何を求めるの?
僕は、僕は、ぼくは、ぼく、は

「爪、無くなっちゃうよ」

ぐるぐると思考が巡っていたが晃一くんに抱きしめられ驚いて身体が跳ね上がってしまった。右手も彼に手に包まれている。
また無意識のうちに爪を噛んでいたらしい。よく見れば親指の爪がだいぶ削れてしまっている。
冷や汗もかいたのか、背中に嫌な汗が流れた気がした。

「ごめ、ごめんなさい…」
「ううん、謝らないで。僕の方こそせっかく紅葉くんが欲しいもの教えてくれたのにすぐにわかったって言ってあげられなくて、ごめんね?」
「ちが、ちがうの。ぼく、たんじょうびに、もらうのはじめてだから、わかんなくて」
「うん。」
「かえでから、もらったケーキ、おもいだして、ぼくも、ぼくのがほしくて」
「うん。」
「でも、おかしいのかな、ふつうじゃないのかなって、おもって…」

晃一くんは、涙を流しながらしゃくりあげて喋る僕を急かすことなく僕の背中を擦りながらゆっくり話を聞いてくれた。
僕にとって誕生日とは、誕生日ケーキとは。先程思い浮かべたことを、ぽつりぽつりと話す僕に晃一くんは嫌な顔ひとつせず、穏やかな顔で聞いてくれた。

「話してくれてありがとう、紅葉くん。楓くんの話も聞けてよかったよ。紅葉くんだけのケーキ、必ず用意するね」
「ありがとう…ごめんね、晃一くん」
「謝らなくていいのに」
「普通じゃなくて、ごめんね」
「そんな事言ったら、僕も普通じゃないよ」

晃一くんは僕のことを否定しない。
今までの僕を存在してもいいんだと教えてくれる。
きっと、甘やかしてくれてるんだろうなと思うと心がなんだかむず痒くなる。

晃一くんに抱きしめられていてあたたかいのと、泣いて疲れてしまったのか眠気を感じてきた。
そんな僕に気づいたのか「もう寝ようか」と声をかけてくれた。
あの日と同じように彼の隣で眠る。
あの日と違って向き合うように、お互いを守るように抱きしめあう。

「おやすみ、紅葉くん」
「おやすみ、晃一くん…」

こんな日がずっとずっと、永遠に続けばいいのにと祈り目を閉じた。




誕生日当日。誕生日おめでとうとプリントされチョコペンでもみじくんと書かれたネームプレートがのった、僕の年齢分のロウソク刺さった近所のケーキ屋では見かけないとても綺麗なザッハトルテを晃一くんから贈られた。
嬉しくて泣きながらロウソクの日を消したことはここだけの話だ。











最近ふわクリをやったのでロウソクの所打ってる時candle service ですってのを思い出してしまった
この先きっと欲が出てちゃんと欲しいものが言えるようになるといいね、紅葉。
口調とかなんやら迷子になってはいますが楽しんで頂けたら幸いです
小説難しい

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