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飼い猫のユラが家出してしまった話

日曜日の朝。寝ぼけ眼でリビングの雨戸を開け・・・た瞬間、見計らった様に猛ダッシュで外へ飛び出した。
しまった。ユラっっ!!!
すぐに追いかけたものの、少し先の角のお家へ入り込んだところで見失ってしまう。

一昨年の夏に保護したときからずっと悪かった口内環境が一気に改善したおかげか、ここ最近のユラは絶好調で元気いっぱいだった。もともと野良猫だったのを保護したこともあり、久々のお外の世界に興奮してしまったのかもしれない。いくら名前を呼んでも戻ってこない。

すぐさまネットで「猫 脱走 探し方」で検索し、あれこれ試してみる。いつものご飯を置いて使っていたトイレの猫砂を撒き玄関のドアを少し開けておく。昼間は暗くて狭い所に隠れてしまうだろうし、この時間帯はもう出てこないかもしれない。

ふと思い立ち「猫が寄ってくる音」をYouTubeで探してみるといくつか出てきた。早速流してみるも何だかルナがソワソワしている。途中突然始まる広告の音量がやたらデカくてイラッとする。

そんな中、鉢合わせしたお隣のIさん(=猫飼いさん)にもユラが逃げ出してしまったと話すと、すぐさま洗濯ネットを片手に家の周辺を探してくれた。Iさんのお隣Yさんにも事情を説明してくれて、さらにそのYさんも最後に見失ったお宅のFさんに声がけしてくれる連携プレー。昔可愛がっていた犬が何日か戻ってこなくて辛かったことがあるから気持ち良くわかるわーと涙ぐんでくれるFさん。つくづく良いご近所さんばかりでありがたい。

夕方の薄暗くなってきた頃から再び捜索開始。
引き続き猫が寄ってくるという音を垂れ流しながらチュールを持ってウロウロ歩く。何も見つけられない。一体どれだけ歩き回ったのか、一気に疲れが襲ってきて帰宅するなり寝落ちしてしまい、雨音で目を覚ます。こんな雨では出てこないだろう。ルナが甘えてくっついてくる。今日はユラに邪魔されないね・・・。

2日目の朝、撒いた猫砂は崩れる仕様なので雨を吸って砂状になってしまっていた。しょんぼりとそれらをホウキで掃く。仲の良い同僚二人にLINEでユラが居なくなったことを伝え、仕事は休むことにした。
雨が上がるのを待って検索するも、朝の町はそこそこ人が多い。やはり全く猫の気配はなし。人や車等が多い昼間は警戒するため、夜に比べると見つけづらくなるらしい。しかし片付け切れずに少し残っていた猫砂を見てみると、さっきまでは無かった猫の足跡らしきものが。こ、これは・・・。

ひとまず捜索は諦めてポスティング用のチラシを作る。ネットの無料テンプレート、「猫 探しています」と太くて赤い文字。
ユラは写真写りがあんまり良くないな。本物はもっと可愛いのに。
試しにまずは60枚程刷るも、あっという間に無くなる。このエリアだけでこんなに沢山のお宅があるのか。あと謎にスタイリッシュなポスト、どこから入れたら良いのか全然わからないやつ。本当にわからなくて諦めたお宅も何軒かあった。

慣れないポスティングの最中、とあるお宅の屋根の上でくつろぐ猫ちゃんに会う。第一村人ならぬ第一猫人発見。
「白黒ハチワレのユラって子がいたらお家に帰ってくるように伝えてね」と言ってみる。チラシも見せながら。猫は賢いから人間の言葉もわかっているに違いない。あんまり興味無さそうな顔をしている猫様。お願いしますね。

引き続き家にいるうちはひたすら「猫が寄ってくる音」とやらを流す。猫は来ないのに何故か鳥が寄ってきている。
追加でチラシを印刷して配りながらまた探すも相変わらず気配はなし。あまりの進展の無さにさすがにこれは1人では無理だなとどんどん焦りが強くなる。ここでテレビで見たこともある猫探偵に依頼してみようと決心。(正直お金の面ですぐには飛びつけなかった。)
電話してみたものの営業時間内にも関わらず受付終了とのこと。依頼が多いと早い時間でも打ち切るらしい。世の中一体どんだけの猫ちゃんが脱走しているの。何より愚かな飼い主のなんて多いことよ。(私だよ)

そんなこんなで心が折れかけていたところ、仕事を終えた仲良しの同僚二人(+旦那様)が応援に駆けつけてくれる。一人より何倍も何十倍も心強い。みんななんでこんなに優しいんだろうか。
二時間ほど捜索するも手がかりは何も出てこない。でもおかげでかなり気持ちが軽くなった。本当に感謝しかない。
皆を見送って、さてどうしようかと考えているうちに疲労感からこの日も寝落ち。結局朝まで寝てしまった。玄関は少し開いたままである。さすがに危なかったな。(何事もなくてよかった。)

3日目の朝、玄関に置いてあったご飯を首輪付きのサビ柄にゃんこが食べている。昨日の屋根の上の子とは違うな。あの足跡も君なのかい。白黒のユラって子知らない?
こちらの念に気付いたのかすっと逃げてしまった。んー今日はもうさすがに仕事は休めないな、しぶしぶ出勤する。

案の定仕事は溜まっていたし、未読メールの量にもクラクラしてしまうが全然捗らない。要領を得ない営業くん(通常運転)にイラッとして確認メールを送信してからそっと抜け出し、10時になった瞬間に猫探偵に再び電話をかける。繋がった!
なんでもいい、とにかく早く来てくれという気持ちを抑えて冷静にやり取りをする。依頼が混みあっていて明日になるかもと言われたけど、その日の夕方に来てくれることになり2時間早退。

来てくれた猫探偵さん(駐車に少々手こずっていた。わかるわかるよ、私も暫く苦労してたもの)は物腰も柔らかく優しそうな人でほっとする。
まずは近隣の聞き込みとポスティングをしながら捜索してくれるらしい。大きなポスターも貼ってくれるとのこと。何か手伝うことは無いかと聞くと、戻って来るかもしれないから家で待機して欲しいと。役立たずの猫の奴隷は、捜索を手伝ってくれた同僚に借りた漫画を読みながらおとなしく待つことにする。

そんなこんなでプロによる4時間に渡る捜索活動をもってしても結局殆ど手がかりは掴めず。ユラめ、かくれんぼの天才かよ。
猫探偵さん曰く遠くに行ってしまった可能性も無くはないが、まだ近くに居る気がすると。きっとそう、そうであって欲しいよ。

次はカメラを玄関に設置するとのこと。動きを検知すると自動的に録画が始まる。ただし我が家は賃貸物件。勝手に撮影は出来ないので、許可を取ってくださいと言われる。
管理会社(Googleのクチコミでは酷評だらけの☆1個、ヤ○ザとの噂)にドキドキしつつも電話。ひとまず許可を貰えてほっとする。許可と言うより、はいはいどーぞ勝手にやってくれという感じだったがまあ何でも良い。

早速カメラをセッティング。映る場所に置いておくご飯は極々少なめにしておくようにとアドバイスを貰う。沢山置いて一度で満腹にさせてしまうと満足して戻ってこないこともあるので、無くなる度に少しずつ補充するのだそうだ。すると何回もご飯を求めてやって来てくれるらしい。なるほど。こう言うノウハウは、やっぱりプロの知識が頼りになるな。

ふと目覚めた午前2時の丑三つ時、カメラが気になる。玄関を開けると既にご飯が空になっていた。急いでカメラをチェックすると、朝目撃したサビ猫ちゃんらしき姿が映っている。いくつか画面を送っていると見慣れた白と黒の柄、左脚だけ黒いタイツ履いている様な・・・ああ間違いない、ユラだ!やっぱり近くに居たんだ!

元気そうな姿にひとまず安堵。良かった、良かった、生きていた・・・。
進捗があれば猫探偵さんに連絡することになっていたけども朝まで様子を見ることにし、再びカメラとご飯をセットして就寝。

4日目の朝。目覚めたらすぐにカメラチェック。映るのは新聞配達の人、前を通るバイク、お隣さんの脚と、あのサビ猫ちゃん。ユラの姿はなかった。
しかし近くに居ることがわかったと言うのは大きな進展だった。猫探偵さんにも連絡したところ、夜になったら再度の捜索、場合によっては捕獲作戦を遂行することになった。ということは今夜の内にでも解決出来るかもしれない。

退勤後、猫探偵さんへの報酬料をコンビニのATMで下ろす。今日お渡し出来ますように。
帰宅後早々にカメラチェック。沢山の録画ストックに期待するも、映っていたのは関係の無いものばかり。人の出入りが多いお隣さん、犬の散歩をしている人、鳩がご飯を食べているし、あとはあのサビ猫ちゃん。余程うちのご飯が気に入ったのか、餌付けしてしまったかも。
残念ながらユラは映っていなかった。また新しいご飯を用意して待とうか。

すると近くで聞こえる猫の鳴き声。
えっ、まさか・・・。
「ユラ?」
「ニャー」
はっきりと鳴く。
「ユラ!」
「ニャー」
どこだ、声がするのはお向かいのお家の方だ。
あれ?白い影、あ、あ、あ、あれは
「ユラーーーーーー」
「ニャー」

居る!居るぞー目の前にユラが!!
やっと帰ってきたーーー!
「早くお家入りなよ。ユラー。」
「ニャー」
話しかけてもひたすら鳴くだけで、一向に近寄ってこない。こちらから近付こうとすると後ずさりしてしまう。

一旦家に戻り、玄関の扉を少しだけ開けて待つことにした。ご飯には大好きなチュールを足しておく。するとドアの向こうから聞こえる咀嚼音・・・食べている!すぐ近くに居る!!
ドアの隙間から残りのチュールをチラつかせると、直接ぺろぺろしだした。いいぞいいぞ、そのままこっちへ・・・と誘導して遂に玄関の中までのおびき寄せに成功。

まだまだここは慎重に、ここで驚かせて逃がしてしまったらもう帰ってこないかもしれない。
ドアノブに手を伸ばすと、ユラは振り返って外へ出ようとしてしまう。焦るな。ダメダメこっちこっち、まだチュール残ってるよ。チュールの吸引力、ダイ○ン以上。物凄いな。
ああ、指も一緒に舐められている。生あたたかくてザラザラした感触。そうだよユラ、チュールはやっぱり美味しいねえ・・・良し、今だ!

(バタン)

やった!ドアはしっかり閉まっているしユラは確かに中に居る。
少し驚いたユラは二階へ駆け上がって行った。
はぁぁぁぁーー、よ、よかったあ・・・。
一気に力が抜ける。

が、いかんいかん。まだまだお腹を空かせているはず。ぬくっと立ち上がりご飯を持って2階へ向かう。
少しまだ興奮しているかな。でも攻撃してくる感じはない。ご飯を置くと物凄い勢いで食べる。
「どーしたの、4日間も一体何処行ってたのよー」
触れてみる。うん、撫でても大丈夫そうだ。じゃあ、お水も持ってくるね。
そっと襖(ユラの部屋は和室)を閉める。

猫探偵さんはもうすぐこちらにやって来るし、電話はせずに直接報告しよう。
外のご飯を片付け、カメラを回収した。
しばらくして猫探偵さん到着。ピンポンを押される前に玄関のドアを開け、ユラが戻ってきた事を伝える。驚きつつも笑顔の猫探偵さん。

「良かったです。こちらが出る幕もなく、何だか役立たずですみません。」
いやいや、あまり悪い方へ考えず概ね落ち着いていることが出来たのも、無事保護出来るまで導いてくれたのも、やはり猫探偵さんのおかげが大きいです。
それに見方を変えれば、自ら帰ってきてくれたってことはやっぱりお家が良いって思ってくれたってことだし、一番のハッピーエンディングでは?
とにかく嬉しい。嬉しい。
・・・
・・・
・・・
う、うん。嬉しいことには違いないが、契約上、猫探偵さんが捕獲しなくてもお支払いする報酬料は満額であることは変わりない。報酬料、107,800円也。
先に払っていた交通費、ポスター・チラシ代を含めるとトータル約12万円。じゅ、じゅうにまん・・・。(白目)

ついこの間の全顎抜歯手術の時にも10万飛んでますけど、ねーユラさん?聞いてますー??

「ニャーー」

聞いてるけど聞いてない。
もういいよ、おかえり。

~完~

【あとがき】
その後のユラはストーカーばりの甘えんぼに戻りました。病院でノミやダニ等の虫駆除の薬を付けてもらい、ルナとはもう少し隔離。
噛まれたり怪我も見られなく、感染症の疑いは薄そうです。(可能性はゼロではないが、発症するまで1ヶ月、2ヶ月かかるものもあるため、今は判断できないらしいです。)

今回の件で猛省しとにかく懲りたので、脱走防止の柵等対策をしようと思っています。

なるべく感情の部分は入れないよう淡々と綴ったつもりでしたが、気付けばなかなかの長文となってしまいました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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