きれいなふりを、したいだけ

夏の自販機がやけに眩しくて瑞々しかったのは、おじいちゃんが買ってくれたジュースで潤した喉が、火照った手のひらが、脳みそなんかよりもよっぽど覚えているからであったら、うれしい。
最近は、110円で、ほんとうはちょっとだけ高いジュースを買えると知った。ひとりぼっちにも思えるこの街で、自立したような指でボタンを押してみた。昨日の消え方は、虚ろな甘さに身を委ねることだった。
うがいをしながら目をつむったら、オレンジ色の光が見えた。目をひらいたら、白熱灯がひとりぼっちを突きつけた。歯ブラシも、ひとりぼっちでかわいそうだった。ゆらゆらと、かわいそうだった。
消えかけるわたしを、私が、乱暴に塗り重ねて、愛しさを重ねたはずの背中のごちゃごちゃが全部まっさらになってしまってさびしかった。腕のボーダーが膨らんでいる。まだ、今なら、まだ。夏に戻れそうだと思った。

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