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あのちゃん

あのちゃんは、今年紅白に出るそうだ。映画「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」の声優も務めるらしい。気付いていた。彼女はきっと、世渡り上手だ。赤の他人にこんなことを言われて、きっとあのちゃんにとってたまったもんではないと思うので、こんな駄文をご本人様が間違っても目にしないことを願いたい。

初めて彼女を知ったのは、YouTubeに転載された何かのテレビ番組の切り抜きで、頭をゆらゆらと揺らしながら「最近のご飯、節約のためにポテトチップス…」と口にする動画だった。心を射抜かれた。当時中学生で、メイクもロクにしていなかったくせに、いきなり100円ショップで赤いクリームチークを買って目の下に塗りたくり、ヘアアイロンなどは知らなかった為、くるくるドライヤーを何度も固くて太い髪に通し、黒いセーラージャージを着て塾に行った。喋り方も少し似せてみた。黒歴史である。夕飯はお母さんが用意してくれるので、朝昼兼用のご飯はせめて、とポテトチップスだけ食べてみたりしたが、運動部の筋肉、思春期の脂肪は、1日、2日では落ちなかった。ここまで私が彼女に憧れたのは、病んでいた自分の上位互換として彼女を捉えていたからだと思う。彼女には間違いなく病んだ雰囲気があったし、それは今よりも強かった。最近は地雷系だのなんだのと名前をつけられた、病んだ雰囲気の可愛い女の子を毎日のように目にすることができるが、昔はそうではなく、彼女は唯一無二の「希望」だった。マイナスイメージの「病み」と無敵の言葉「可愛い」を結びつけた彼女は、羨望の的だった。
私がInstagramのアカウントを作り、それを扱うのにも慣れてきた頃。高校2年生くらいか。あのちゃんをフォローした。その時からなんとなく、違和感はあった。いつの間にか目の下を赤くするのも、パンダのヘアゴムで子供みたいに片側だけ髪を結ぶのも辞め、なんだかオシャレな服を着てかっこいい写真をアップしている姿に、昔ほど希望を感じられなくなっていた。別に、元から自分の上位互換などではないくせに、別人として切り離された感覚があったように感じる。
それからまた数年経ったある日、King Gnuのメンバーとの熱愛がスクープされた。その少し前、神聖かまってちゃんのの子がKing Gnuにツイートで噛み付いたのは、恋敵として気に入らなかったからでは?!といったツイートを目にした時は、笑ってしまったが、少しの嫉妬心を覚えた。別に私はの子に対してもKing Gnuに対してもガチ恋などはしていないが、好きなバンドのメンバーと仲が良く、King Gnuとも親密な関係になるなんて…と、彼女の生き様に嫉妬したのだ。
それからまた数年。今年は「ちゅ、多様性」「スマイルあげない」などが大ヒット。私達メンヘラサブカルクソ女の中でスーパーアイドルだった彼女は、完全に世間に認められ、親しまれ、馴染みきり、取り残された私達だけが、未だ目の下を赤く塗り、干上がった状態で社会の波打ち際に打ち上げられているかのようだ。不思議ちゃん、毒舌、マイペース。そんなようなイメージのある彼女だが、きっと私達視聴者の目に入らないところではとても立ち回りが上手で、気が使える素晴らしい人なんだと思う。連日メディアでの露出を増やすその姿が証明だ。声優も出来るとなれば、あの特徴的な喋り方をコントロールすることも可能であろう。
方や私は、中学生の頃真似したばかりに未だに抜けないあのちゃんの真似の喋り方を少し引きずり、上手く社会でも立ち回れず、どんどんとイタい人に進化中である。もう、あのちゃんの下位互換ではない。最初からそんなご身分ではなかったんだった。

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