ショックなこと

このあいだ、ぼくがきみに見せたゲームのスクリーンショットを覚えていますか。

それは、とあるアドベンチャーゲームだったのですが、そのあらすじは以下のようになります。

・英国のとある架空の街で、住民がつぎつぎと失踪してしまう事件が起きる。はじめは頭痛と鼻血の患者が急に増えたことだったが、前触れもなくいなくなることから、住民たちは「これはただごとではない」と気づき始める。住民で科学者のスティーブン・アップルトン博士は、事態の究明と住民の救済のために動きだしたが、事既に遅く、事件に巻き込まれて自らも失踪してしまう。

....なんか設定が無理くりなんですが、一応普通にアドベンチャーゲームのストーリーです。

ぼくは「住民が失踪した街で手掛かりを探し、事態の究明を」という説明書きに惹かれて購入しました(2160円!)。

ちなみにFFXⅢもおなじぐらいの値段でしたが、ニーアオートマタは8900円でした。何が言いたいかと言うと、かなり安いゲームにぼくはひどい衝撃を受けてしまったということです。

ストーリーを追いながら街をさまよい歩く感覚でプレイが進んでいきます。それは個人の記憶と思しいイベントを閲覧することを繰り返して、すべて見終わったら「成仏」としか表現しようのないイベントが起きてひとり分が終わり、主な住民の数だけそれを繰り返して、やがて核心を握る人物のそれに迫っていくというものでした。

それはいいんです。失踪の原因なり事態の真相なりを掴むための記憶探しなら、頷きながら閲覧すればいいわけで。

ここからが問題でした。いや、問題「です」。まだ俺はエンディングに納得できていないので、これは現実問題なのです。

個人のイベントですが、それは価値観を交えない、事実のみで構成されていました。日常風景あり、事件の真相を思わせるシーンあり、だったのですが、その中に散りばめられていたのが、ドロドロの人間関係だったのです。

①スティーブンの母親ウエンディは、スティーブンの恋人ケイトのことをよく思っていない。彼女がアメリカ人であることは無関係ではないかもしれない。

②スティーブンもケイトも共に科学者だが、ケイトはスティーブンの才能と学歴に対しコンプレックスとジェラシーを抱いたまま付き合い続けており、最近は意見のすれ違いが目立つようになっている。

③イギリスというお国柄のせいか、結婚しないまま同居している2人は地域の中でもはみ出者になっていて、科学者であることがその偏見にも拍車をかけているが、いちばん偏見の酷いのが実の母親であるウエンディと、父親フランクである。フランクは大地主で農場を経営している。

④同じ街の中に、スティーブンが婚約までして別れた過去の恋人、リジーが住んでいる。スティーブンが就職のために一度街を出たため、今は別な男と結婚している。

この人間関係を、スティーブンの母親が意図的にかき回していくという、恐ろしい真実が明らかになっていくのです。事件の真実では決してなく。

まず、街にケイトを連れて戻ってきたスティーブンの新居を母親ウエンディが訪ねるところからその画策は始まっていました。彼女はまともにケイトのことを気に入らないとスティーブンにぶちまけます。それから、事もあろうに、既に結婚しているリジーのもとを訪れて、スティーブンを飲みに誘うようそそのかすのです。「間違いはただせる」とリジーを説得し....つまり、過去に婚約までした仲を再燃させようと目論んだのです。

それは早々に成功してしまいます。スティーブンはたびたびケイトの目を盗んでリジーと外で会うようになり、リジーも夫の酒乱に嫌気が差していたため、たやすくスティーブンのほうに心を傾けてしまいます。2人はベッドを共にするようになり、ついには街に迫っている危機をどうにかしようと、密やかに2人で逃げる計画まで立ててしまうのです。

ぼくはそのイベントをつぶさに(なにせ、どこに事件の真相が隠れているのか、場所だけでは判断できないのですべてクソ真面目に見る必要があるのです)見ながら、言いようのない嫌気と絶望に打ちのめされていくのがわかりました。そして恐ろしいことに、きみとの結婚生活がなぜかこのまま壊れていってしまうような妄想に駆られていたたまれなくなる一方になっていたのです。あの日、ぼくがいつになく執拗にきみを責めて、傷ついたとぶちまけたとき、ぼくの心の中はあの街の景色が占めていました。スティーブンの裏切りがそのままぼく自身の架空の裏切りとなって、リジーがきみの顔に重なって見え、あるときはこのまま結ばれることのない未来が待っている気までして恐ろしかったのです。心の中は破綻した結婚生活と、絶望の未来と、孤独でした。景色がリアルだったのも、心にまともに刺さる感じがしていました。夕焼けと、地面の血のしみ、放置されたままの車などが、神経を追い詰めていくのがわかりました。ああ、これをやったから病んでるんだな、と思いました。

画策された不倫なんて書かなくても、事件の真相は掴めたはずなんです。なぜ、こんな不幸を織り込まないとこの話は形にならなかったのだろうと、いまだ疑問が絶えません。

愛が謀略に負けた話なんて見たくなかったのです。愛は勝つべきなんです。

もしかしたら、ぼくはバッドエンドを見たのかもしれません。それだとしても、おそらくゲーム内で起きるイベントに変化はないと思われます。だから、やっぱり見たくなかったし、見せられたくもなかったのです。ぼくはウエンディをとても憎みました。何やってくれるんだこのクソババアと思いました。そして、めぐさんのことは何があっても誰からそそのかされても絶対に離すもんかと思ったのです。(同時に、優しく包まないと、ともなぜか必ず思うのです)

いまだそのショックは続いているので、ぼくはしばらくゲームを開かないことにしたのです。きみとの仲を悪くするようなもんに金を払ってしまった自分なんて大嫌いです。最低でした。