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小説『煌(ひかり)の天空〜蒼の召喚少年と白きヴァルファンス』

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カナダ極北、夏。白い獣の仔を助けた少年・蒼仁(アオト)は、天空の大精霊より特殊能力を授けられる。 翌年の春、日本の学校に通う蒼仁に正体不明の集団が襲いかかる。危機を救ったのは、か…
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#創作大賞2024

『煌(ひかり)の天空〜蒼の召喚少年と白きヴァルファンス』 第1話 消えた白夜

<あらすじ> カナダ極北、夏。白い獣の仔を助けた少年・蒼仁は、天空の大精霊より特殊能力を授けられる。 翌年の春、蒼仁に正体不明の集団が襲いかかる。危機を救ったのは、かつて彼が助けた白き狼犬が変化した、雪のような美しい少女・シェディスだった。 極北では、地球を震撼させる天変地異が発生。「闇のオーロラ」が空を侵食し、極北から太陽が消えた。 黒の世界から襲いくる脅威に立ち向かえるのは、蒼仁が大精霊から受け継いだ召喚能力のみ! 世界を救うため、蒼仁はシェディスと共に再び極北へと旅立

『煌(ひかり)の天空〜蒼の召喚少年と白きヴァルファンス』 第2話 白の獣と黒の獣

 カナダ北部、十二月。  昨年までは、クリスマスの準備に住民も観光客も心浮き立つ時期だった。  八月の「太陽光消失」現象襲来から、約四ヶ月。  多くの犠牲を出したあの日以来、極北は依然として先の見えない混沌を極めている。  天空が「闇のオーロラ」と呼ばれる黒い宇宙現象に覆われ、太陽光が極北の大気圏まで到達しなくなった。  オーロラと呼ぶには発生の原理が元来のものとかけ離れているが、カーテン型のひだの動きやブレイクアップなど、人の目にはまるでオーロラそのもののように見えるた

『煌(ひかり)の天空〜蒼の召喚少年と白きヴァルファンス』 第3話 転入生は予言者

 日本、四月。  森見蒼仁は小学六年生になった。  蒼仁の朝は早い。  毎朝の日課である、漢字の書き取りと百マス計算を十分で片づける。  寝る前に覚えた国社理の暗記物、算数の難問の解法を再確認する。  それから新聞に目を通す。一面ニュースの概略を頭に入れ、ノートに書き出す。「今年の熱いニュース」が何なのか、少なくとも見出しタイトルを覚えておけばいつか必ず役に立つ。社説を要約し、これもノートに書く。  この日の一面と社説は、カナダの天体現象に絡めながら「気候危機」に関する

『煌(ひかり)の天空〜蒼の召喚少年と白きヴァルファンス』 第4話 現れた白き守護者

 悪夢の再来だった。  今まで何度フラッシュバックしたかわからないあのシーンが、目の前で再現されている。  空を覆い尽くす闇色のカーテンが、風に反応したかのように大きく揺らめく。  次に来るのが「ブレイクアップ」。一点を中心に黒い光が爆発し、天を裂きながら無数の矢をまき散らす。天空一帯に黒のプラズマが走り抜ける。  次に来るのは―― 「逃げろ! 校内へ!」  あのユーコン川を逆流させるほどの突風。叩きつけるような氷塊。  ここでは川に流されることこそないものの、それ以

『煌(ひかり)の天空〜蒼の召喚少年と白きヴァルファンス』 第5話 煌く氷結の召喚術!

「きれい……」  パーシャがそうつぶやくほど、美しい一本の「棒」だった。  外側には光の粒子を振りまきながら、内側に命の存在さえ感じさせる、青白い煌きが躍動する氷結柱。  これが、パーシャが蒼仁に「雪と氷の中から取り出す」ようにと告げた、蒼仁が召喚した「力」なのか。  感慨に浸る間もなく、蒼仁は棒をつかんだ。  この棒の主はもう決まっている。  その一連の生涯を蒼仁は目撃し、光と氷を呼び寄せてひとつの形にしたのだ。 「『天空』の狼! 煌の空への道を示せ!」  蒼仁

『煌(ひかり)の天空〜蒼の召喚少年と白きヴァルファンス』 第6話 ここが蒼仁の帰る家

 目が覚めると、自分の部屋のベッドの上だった。 「あれ? 夢……?」  ちょっと待て。目覚まし時計をつかむ。  もう夜の九時を過ぎている。完全に、塾へ行きそびれた……。 「やっぱ疲れてんのかな、俺……」  せめて今日の分の課題を済ませようと、机へ向かう。リュックから取り出したノートをめくる。  夢にしては、あまりにリアル。でも何もかもがめちゃくちゃ過ぎて、やっぱり夢だったんだろう。  金髪女子に因縁つけられた(?)と思ったら、学校でいきなり狼に襲われるとか、嵐が吹

『煌(ひかり)の天空〜蒼の召喚少年と白きヴァルファンス』 第7話 ハムスター・ザ・シャーマン

『ハム。またの名をイルハム。彼こそは、数奇なる運命をたどる地上最強――いや、宇宙最強の孤高の戦士――』  カナダの景色に浸るのもつかの間、蒼仁のPCで勝手に映画『ハムハム物語』が始まってしまった。二時間ものの映画だったら困る。 「うざいナレーションいらないから、どうしても見せたいなら二倍速にして。俺、スマホで塾の宿題やってるから」 『倍速で映画流しながらスマホいじるとかッ! いまどきの若者みたいなことをッ!』 「塾の配信授業もいつも一・五倍速だから、慣れてるんだよ」

『煌(ひかり)の天空〜蒼の召喚少年と白きヴァルファンス』 第8話 ムース(ツノが立つ方じゃなく生えてる方)との遭遇

 森見蒼仁の朝は早い。 「お母さん、弁当できた?」 「あんたほんとに塾に行く気なの?」  母は呆れ顔だ。 「あんなこと」があった翌日、しかも今日は午後までガッツリ模試を受ける予定なのだ。 「今日は休んで後日受験にしたら?」 「そしたら順位下がっちゃうじゃん」  蒼仁はこれでも、全国規模の中学受験塾でいわゆる成績上位陣に属している。  模試の順位が下がれば塾の席順も後ろに下がり、成績表の表紙に名前が乗らなくなる。モチベーション低下が甚だしいのだ。 「でも、もしまた

『煌(ひかり)の天空〜蒼の召喚少年と白きヴァルファンス』 第9話 黒銀の狼王

 ヘラジカが倒れ込む瞬間、黒銀の狼「ウィンズレイ」は牙を離して身をひるがえし、三メートルほど離れた地点へ着地した。巨体の下敷きになるのを避けるためだ。  敵に背は見せない。着地と同時に向き直り、倒れた獲物を鋭い視線で見定める。  なんとか立ちあがろうと声を上げてもがくヘラジカの周囲を、タイミングをはかりながら、時に慎重に、時に俊敏に移動する。  ――タイミングが定まった。  まさに電光石火!  角の攻撃が届かない絶妙な角度で、巨体の懐に入り込んだ黒銀色の肉食獣。  鋭い

『煌(ひかり)の天空〜蒼の召喚少年と白きヴァルファンス』 第10話 公園でバーベキュー

 日本、四月。  桜はだいぶ散ってしまったが、ぽかぽかとよい天気の下、公園で緑の空気を吸い込むのがとても気持ちのいい季節だ。  蒼仁の家からそう遠くない場所にある、市営の広い公園。  豊かな木陰に涼みながら、遊歩道をのんびり散策することも、風を感じながらサイクリングコースを駆け抜けることもできる。  バーベキュー広場もあるので、気心知れた仲間同士でわいわいとランチをつつくのもいいだろう。  木々の合間から見える湖の景色に、心が洗われてゆくのを感じる。 「シェディスの分

『煌(ひかり)の天空〜蒼の召喚少年と白きヴァルファンス』 第11話 極北への第一歩

 あの夏の日、自分以外は助からなかったと思っていた。  でも、小さかったシェディスは生きていた。  さらに、ゲイルとブレイズまで!  蒼仁は、体内のどこかで冷え固まっていたものが、じんわりと少しずつ温度を取り戻していくのを感じた。 「あの、この二頭、どうやって?」 『十二月、調査中に偶然逢った。強い二頭だ。極寒の森林で、ほとんど食べることもできなかったろうが、たくましく生きていたよ』  画面の向こうで語る折賀は、誇らしげにゲイルの頭をなでた。  人に飼われていた狼

『煌(ひかり)の天空〜蒼の召喚少年と白きヴァルファンス』 第12話 ヤンキー料理フェスティバル

 なしてこうなったんや……。  金髪ヤンキー青年・北橋達月は、出汁と醤油と香水が混ざったにおいの中、かしましいおしゃべりに翻弄されながら顔面をひくつかせていた。 「相棒」の強引すぎるプロデュースに根負けし、料理教室などを開くことになったのだが。  プロでもない、ただの「料理好き男子」である若造に。  まして、金髪でガラの悪い正体不明の不良男子に、料理を教わろうなんて奇特な人間がいるはずがない。  参加費はほぼ実費のみに抑えたので、ひょっとしたら世間知らずのお姉さんや中年

『煌(ひかり)の天空〜蒼の召喚少年と白きヴァルファンス』 第13話 ヤンキー、恋に落ちる?

「蒼仁くんがいないのに、なぜ!?」  ハムのつぶやきを、漆黒のブレイクアップがかき消してゆく。  空一面に拡散する黒色の極光は、まるで天上の神が放つ審判の矢だ。  人の無力を嘲笑うかのように、勢いを増した矢が容赦なく世界に降り注ぐ。 「達月くん、逃げて!!」  ハムの声に、達月もただならぬ異変を感じとった。  どこへ逃げるべきなのかと、急いで周囲を見回す。周囲には、静まりかえった住宅街と、営業中かどうかもわからない店舗と――おかしい、屋内も屋外も、いくらなんでも人の気配

『煌(ひかり)の天空〜蒼の召喚少年と白きヴァルファンス』 第14話 召喚した二つめの「力」

 シェディスは苦戦していた。  驚異のジャンプ力を誇るクーガーたちに、階段を昇りきるよりも先に余裕で追いつかれたからだ。  後方から飛びかかるクーガーに氷結棒の後方突きを放ち、そのクーガーが落下すると同時に階段を数段飛びで駆け上がる。横から飛びかかる個体を回し打ちで払い落とす。  次のクーガーは後方から、大きく頭上を飛び越えてシェディスの前方へ躍り出た。着地と同時にターン&ジャンプ!  前方から飛びかかる個体に、シェディスは自身の体ごと大きな回転払いを食らわせた。  ど