電話の記憶

あの日、あの時のことは今でも鮮明に覚えている。

大学時代、僕はとある事情でネットの居場所を半追放された身の上だった。

その時の出来事から、もう女性を悲しませるようなことはしたくない、そう思うようになっていた。困っている女性を助けようとそう思うようになっていた。

しかし、そんなのは結局建前で、僕はネットで偶然知り合った女の子と仲良くなるにつれ、ネット越しの性的な関係を結ぶようになっていた。

相手も、自分の事は体目当ての遊びなのだと思ったのだろう。

それでも僕は身を削って、彼女の相談に乗ってあげた。彼女には多数の性的な関係を結んでいる男性がいることが分かった際も彼らとの関係を絶つように説得した。

しかし、同じく体の関係を結んでいた自分の声など、彼女に届くはずもなかった。

ずっと一緒にいようねという約束は30分で反故にされた。

それからも彼女の相談には乗り続けていて、ちょうどバイトに向かう途中、時間が空いたので彼女に電話をかけた、そんな時分だったように思う。

彼女が僕との電話の途中で他の男との……彼女にいわせればご主人様との……性行為を電話越しに聞かせてきたのは。

僕は顔が真っ青になって、心臓が早鐘を打って、何度も彼女にやめるよう言おうと試みた。でも僕が電話をかけていたのは田舎の道の真っただ中。不意に大声を出せば近所迷惑として通報されるかもしれない。

それを気にして彼女を強く止められなかった。

そして最後に彼女は全てを聞き終わらせた後、僕に気持ちよかった?と聞いてきたのだ。心底愉しそうな声で。

ふざけるなと言いたかった。大声で怒鳴りつけたかった。でも場所が場所だけにそれも叶わず、電話はそのまま切れた。

最悪の気分でバイトに向かい、なんでこんな状態のときに笑顔を浮かべなければならないのだろう、接客をしなければならないのだろう、逃げだしたい、強くそう思った。

それからだ、僕の人生がだんだんとおかしくなっていったのは。

寝取られが嫌いになり、それを思い出させるものをすべて破壊したい衝動に駆られ、エゴサーチをしては怒りを爆発させる……。

なりきりチャットやR垢もそうだ。中に入り込んで全てをめちゃくちゃにして、僕の思い知った絶望を皆にも味わわせてやりたい。

でも、それは結局できなかった。

なんでわざわざ嫌な場所に入り込んで遊ぼうとするのと人は聞くだろう。

嫌な場所を跡形もなく破壊したいからだと答えれば、みんな満足するのだろうか。

実際、2つほどのなり茶サイトが僕が起こした騒動が原因で潰れている。

それでも僕の心の穴は埋まらないまま、僕は彷徨を続けるのだ。

あの時あの場所で、僕を陥れた彼女への憎しみの言葉を胸に抱いたまま。

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