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黒ネコのクロッキー⑦少食の女神3

(少食の女神)まあ、博士。こちらにいらっしゃったのですね。この人間のエナジーの行方をお知りになりたかったのでしょう?
 (博士)ああ、そうなのだ。この者には多少関わりがあってね。
 (少食の女神)ええ、ええ、存じておりますよ。一刻を争う状態でしたので、博士がいらっしゃる前にこの者のエナジーたちに話をしました。これからもうひと仕事しなくては。
 あら、クロッキー、あなたも来てたのね。
 (クロッキー)ええ?女神さまはどうして私を知っているのですか?私は知らない。
 (少食の女神)おほほ。さあ、こちらをご覧になって。いまから特別な仕事をしていただく少食エナジーの方々ですよ。思っていたより多く集まりました。あまり多すぎてもいけないのですけれど。
 (博士)多すぎると都合が悪いのですか?
 (少食の女神)そうなのです。私の言うことを聞かずに勝手なことを始めますからね。よそで出会ったエナジーたちと徒党を組んで、それは大変なことになります。人間の命を奪うことにもなりかねないのです。
 それも彼らの考えですから私には何も言えません。さまざまな考えがあってそうしているのですから。
 (博士)なるほど。
 (少食の女神)さあ、それでは皆さん。これから私が申し上げますことをよくお聞きになってくださいましね。
 あなた方にはこの人間の体を離れて、お好きなところに行っていただきます。行き先は必ずご自分で決めるように。
 この人間の体に戻るのも結構ですよ。ただ、この人間の体は、皆さんのお仲間の働きにより回復に向かっております。ですから皆さん方には、ぜひ一度、外の世界でご尽力いただきたいのです。
 さあ、この人間の為に何が出来るのかよくお考えになって。お心が決まった方はあちらにどうぞ。少し姿を変えなければなりません。私がお手伝いしますから、さあさあ、急ぎますよ。さあさあ。

          ✳︎

 (クロッキー)わあ、すごい。少食エナジーの皆さんがどんどん変身して飛び出して行きますよ。赤や黄色の、たくさんのホタルのようですね、おじいさん。
 (博士)ああ、ほんとうだ。美しい光だ。あのエナジーたちはきっと誰かを連れてくるよ。
 (クロッキー)誰を連れて来るのですか?誰だろう。
 (博士)さあな。女神にもわからないのだから。
しかし、エナジーたちは知っているのだ。この者に、いま、誰が必要なのかを。
 (クロッキー)誰かなあ、あのお母上でしょうか。それともどこかに逃げたという奥さんですか。それとも…
 (博士)いまに、わかるよ。もうすぐわかるさ。

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 (少食の女神)皆さん、すっかり出発しましたよ。後は彼らに任せましょう。
 私はまた次の仕事がございますので。
 (クロッキー)女神さまは、あの少食エナジーたちの行方を知りたくないのですか?誰を連れて来るのか見たくないのですか?
 (少食の女神)もちろん見ることが出来ますよ。
 クロッキー、安心してお待ちなさい。小さなエナジーたちは間違うことがありません。
 いえ、もちろん大きなエナジーであっても間違うことはないのですよ。でもこの者にとって、大きな変化をもらたすエナジーは必要ないのです。気づかないくらいの小さな小さな変化のほうが、確実に、ゆっくりと、そして穏やかにこの者の人生を変えていくのですから。
 いえね、もしこの人間が無茶なダイエットなどしていたら、もしかしたら私の手には負えなかったかもしれません。
 少しずつ食事を減らしていたから、ちょうどよい数のエナジーが集まってきたのです。
 ほら、彼らが仕事を終えて戻ってきましたよ。
 (博士)こんなに早いとは。
 (少食の女神)おほほ。たいていのことは一瞬で済むのです。
 (クロッキー)いったいどこに行っていたのでしょう。
 (少食の女神)それぞれが自分の考えで情報を集めに行っていたのですよ。そしてまたこの者の体に戻り、集めた情報を他のエナジーたちに伝えるのです。
 (博士)おや、後から来たエナジーたちは少し光の色が違いますぞ。白っぽいようだし、それに弱々しい。
 (少食の女神)この子たちはまた別の人間のエナジーですの。私に何かを知らせるためにやってきたのです。そうよね。
 では私は次の仕事に参ります。この者は、もうしばらくすれば目を覚ますでしょう。
 クロッキー、あなたは余計なことをしてはいけませんよ。小さなエナジーたちの邪魔になってはいけません。
 さあさあ、急がなくては。さあさあ。

 (クロッキー)やあ、女神さまは白い鳥になってしまった。
 (博士)あれは白鷺という鳥だよ。よほど急いでいるのだろう。
 よし、クロッキー。この者が目を覚ます前に、もう一度お母上をたずねてみよう。
 (クロッキー)わあ、またあの氷山が見られるのですね。嬉しいなあ。

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