疑惑の黒猫的見解

2023年1月8日 20:57

今朝、「講談社｜現代ビジネス」からこんな記事が出た。最近はネタ追いすると媒体側から出典の明記について厳しく申し入れが入るため、リンクを貼っておこう。

タイトルの通り、「競艇における八百長疑惑」というものだ。またか。ご存じの方も多いだろう、競艇には八百長が行われた過去がある。公営ギャンブルにおける八百長ともなれば、界隈の内外がざわめく。八百長も、またその疑惑も勘弁していただきたいものである。

記事が出た一報は間もなくキャッチしていたが、呑気な朝を過ごしている黒猫に見解を問う声が聞かれた。「（聞かれるのが）さもありなん。」と思ったし、「ああ、あれか。」と思い出せるほどの特徴を持った売上と結果のレースでもあった。

この記事で初めて黒猫を知る方に向けて簡単に自己紹介をすると、
私、黒猫合唱団事務局は競艇に関する様々なデータを拾い集めて分析し、気ままに世の中に発信することをライフワークとしている。所謂、予想屋ではない。
とりわけ、オッズや投票動態周りに興味があり、その手の発信を行う存在も少ないことから、”オッズがどうだった”とか、”八百長でいくら動いた”といった話は、そうだ黒猫だ！とお名指しいただけたのだろう。大変名誉なことだ。有難い。

さて、本題に入っていくとともに、半数以上の関心に先に答えておく。
八百長があったかどうかだ。黒猫の答えは、「存じ上げない」である。
ただし、これから詳らかにするデータや解釈は一定の価値を持っているとの自負はある。八百長の真実ではなく、投票の事実を眺めることで「そういうことが起きていたのね」と知っていただきたいと思い、筆を執った。

舞台は2022年10月27日、下関競艇10Rだ。
何でもない平場（普通の開催）のあるレースが疑惑の舞台。

疑惑の論点

内側の艇が有利になる競艇において、強い選手が①号艇となっているのだから「鬼に金棒」。この前提の下で、疑義は大きく2つだ。
Ⅰ：投票する参加者は的中を求めて①号艇に関する舟券を買うのが自然であるにもかかわらず、そうではない投票が（大量に）あったのではないか？という点。〔八百長における購入の側面〕
Ⅱ：また、そんな「鬼に金棒」が結果は無残にも6着大敗に喫している。ヤラズ（わざと負ける）をしたのではないかという点。〔八百長における結果操縦の側面〕

後者については、上で述べた通り、知る由もない。
仕事（かつて八百長に手を染めた前科者はこう呼んだ）をしたのか、ミスをしたのかは分からない。関係者のみぞ知る。八百長の調査・捜査は競走会業務部公正課と捜査機関の仕事だ。
しかし、前者についてはそうとも限らない。「なんかこのオッズ（投票）、変だよね。」これは、皆がアクセスできる情報（オッズ）であり、違和感を覚える自由がある。この点について、今となっては簡単には手に入らないデータも明かしながら、どの様に変だったのかを示すことにする。

競艇のオッズは消えモノ

JRAではJRA-VANなどを用いて、オッズの時系列データを遡って手に入れることができるが、競艇ではそういったサービスがない。その瞬間示されてそれっきりだ。そのため、私的にアーカイブしていくか、その一部を公開しているサービスで垣間見るかしかない。
ここでは黒猫が私的にアーカイブしてるオッズデータを公開するとともに、そのオッズを用いて各時点でいくら買われていたのかという票数を逆算した推移も示していくのでご覧いただければと思う。

上のオッズ表（確定）は今現在もボートレース公式サイトを数クリックすれば見ることができる。そして、次に示すのは当時その瞬間は見られたが、今は見ることができない締切り15分前のオッズ表だ。

オッズ表を見慣れている方が見れば、それなりに極端な票の入り方をしていることが分かるだろう。競艇は6艇によって争われるため、3連単のオッズは120通りとなる。①の舟券絡みでフォーカスすると、①が舟券に入るのが60通りと①が舟券に入らないのが60通り。上のオッズから、この時点で後者の②③④⑤⑥BOXが買われていることは明白である。

ここで注意しておかなければならないことは、オッズは投票比率であるということ。人気のないレースであれば締切15分前では100万も売れていないなんてことはざらにある。そんな状況下であれば、金持ちの穴党が数十万遊びで入れればこんなオッズはいくらでも起こりうるし、程度の差こそあれ日常的に散見される。重要なのはまずこの時点でどれくらいの票が売れていたかである。

その答えは164,741票。（オッズから逆算した推計票数なので1票くらいズレていてもご容赦願いたい。）1600万が売れる中、このオッズが作り出されているということになる。それを踏まえれば、この穴党、なかなかの腕力を持っていると言える。
さらに前後のレースと比較すれば、9R、11Rともに締切15分前売上は1/5以下の300万円台だったということも言い添えておく。

次に、どのように投票が進んでいったのかをまとめる。毎分のオッズ票とともに語り明かしても構わないが、八百長などという愚かでつまらない行為に割く時間は貴方も黒猫も最小限に止めるべきであり、「①絡み（60通り）」か「①が飛ぶか（60通り）」をそれぞれ合成したオッズ推移を眺めれば十分だろう。

締切15分前、イン①号艇で出場する選手が飛ぶというオッズが1.07倍から推移していくことが分かる。ディープインパクト、ラストランの単勝より安い。そこから徐々にそのオッズを上げ、最終的には締切2分前に逆転、確定を迎えている。
そもそもこの確定2.01倍が不自然に安いよねということでもあるが、その推移を眺めれば歪な投票をより深くとらえることができるかもしれない。

オッズはナマモノ

公営競技はどの競技でも、投票締切時刻という約束のもと、思い思いに投票券が買われていき、その時点でのオッズが刻々と表示される。そのため、当時も15分前に映し出されたオッズに、「おいおい、なんだこれ」となっていただろうし、あるいは上で述べた事情から「票の薄い時間帯に穴にぶち込んだ奴がいるのか」と受け流されたかもしれない。
いずれにせよ、参加者が「こんなに付くの？」と思えば買われ、集合知が紡ぐ「収束すべきオッズ」に向かって市場が動いていく。市場の収束力よりも大きなボリュームで（15分以前の）当初投票がなされていたのかもしれないし、断続的に様々な購入手段で入れ続けたのかもしれない。そのあたりの切り分けは非常に判断が難しい為、本稿では可能性の示唆に止める。
ただ、「オッズが変だから、9千万のうち通常の投票が5千万あって、八百長投票が4千万あります！」みたいな簡単な構造ではなく、異常投票を飲み込むべく売上が膨れ上がっていく市場の収束機能などとも合わせて語る必要があることに触れておきたい。

そうは言っても、オッズの推移を見せびらかして終えるわけにもいかない。売上推移もご覧いただこう。現時点でも誰もが見られる情報として、このような「記録表」がある。

件の10Rの確定売上は、95,958,200円で売上約1億。
また、競艇に関する予備知識として、ほとんどの売上が３連単ということもお伝えする。一日分の売り上げに占める3連単売上をご覧いただくと、全体売上の95％超を3連単券種が占めていることが分かるだろう。

上で取り扱った、毎分示されるオッズをオッズ計算式および処理ルールに照らし矛盾なく成立する最小の票数を求める手法で、売上票数の推移を求めたのがこちら。疑惑はさておき、やや特殊なオッズであるため、確定値の推計結果候補がいくつかあった。実際との多少のズレはご容赦願う。

この推移に目をむくほどの違和感はない。この面子、レース格、当日の他レースの売り上げ状況に鑑みれば、売れ過ぎであることは上の通りで、強いて言えば、中間の売れ方が規模に対して弱く、市場がその異変を甘く見た感はある。少しだけ架空の話として踏み込むなら、初手で入れすぎかもしれない。是非、あらゆるものを賭して悪事に手を染めるなら参考にしてほしい。

おわりに

さて、あとはデータを資料として残しつつ、締めくくる。今注目が集まっているこの競走において、自然とは言い難い規模で一般的に確率の低い出目への投票が行われた。これは言って良いだろう。
取り沙汰されても仕方のない水準の特異的な投票であるとともに、結果のボールもそちら側に転がっていった。蛇足だが、仮に疑惑の事実があったとしても、八百長の玉が数千万に上ることは数字上厳しいかもしれないと、八百長の有無より数字の動きに興味がある黒猫は申し添えておく。

かつて、競艇において八百長が発覚したことは事実。その禊も済まぬままに、こうした話題で社会に振り向かれることは残念としか言いようがない。どこかの金持ちが再生数4000回くらいの「【神回】①飛びBOXに800万賭けてみた！【八百長⁉】」というネタバラしYoutubeを上げてくれるのを願っている。

八百長のダメな点は2つ。賭場の信用低下で全体売上が下がること。非対称情報で勝負を強いられること。純朴な参加者としてできることは、そのメカニズムを正しく理解し、知識として備えることと、卵を一つの籠に盛らないことだ。
疑惑のある愚行に関わらず、1レースで死んだり、まくれたりする賭け方はそれ自体が破綻している。自分も下手、選手も下手で、スッたレースに「八百長だろうが、この野郎！」と叫ぶ前に、”どのレースでも八百長が起きうる、死なない資金管理をしよう”と兜の緒を締めながら臨むくらいが良いかもしれない。そんな気付きを与えてくれる良いニュースではないかなどと冷やかしつつ、ローデータをお目に掛けておさらばです。

ここまでのご披見に感謝申し上げて
黒猫合唱団事務局　拝