じゃあね。またね。(五百城茉央-第1部)
夕暮れの駅のホーム。〇〇は、これから東京に向かう五百城茉央を見送るために隣に立っていた。
二人は幼い頃からずっと一緒で、どんな時も、当たり前のように隣にいた彼女。
遠い先のよう感じていた、いや感じようとしていたその日がついにやって来てしまった。
今日、茉央は東京へ旅立ち、アイドルになるという夢を追いかけるために彼の元を去っていく。
〇〇「ほんまに東京行ってしまうんやな、茉央、、、」
〇〇の声には、言いようのない寂しさがにじみ出ていた。
茉央「うん。私、やっぱりアイドルになりたいんだ。東京で絶対成功するって決めたの。」
茉央の声は力強く、しっかりこれからの未来を見据えていて、その目からは迷いが微塵とも感じられなかった。
〇〇「東京か、兵庫からだと遠いよな…。俺、茉央のこと応援するしかできへんのかな。」
〇〇は無意識にポケットの中に入れていた手のひらを切ない気持ちを押し殺すように、ぎゅっと握りつぶした。
茉央「〇〇が見守ってくれるだけで十分やで。これが一生の別れでもないやろうし。」
茉央は優しく微笑みながら、そう言った。
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列車がホームに到着する音が響き渡り、二人に残された時間がわずかだと知らせる。
〇〇は茉央といられるこの瞬間が永遠に続けばいいのにと願いながらも、茉央のキラキラした目を見ていると、そんな彼の気持ちをとても言い出すことは出来なかった。
茉央「じゃあね、〇〇。また会おうな。」
茉央は軽く手を振りながら、普段と変わらない調子で言った。
しかし、その言葉は彼の胸に重く響いた。普段なら軽い挨拶で済む「じゃあね」が、今では永遠の別れのように感じられた。
〇〇「じゃあな、茉央…。」
〇〇は同じように手を振り返し、自分の後ろ向きな気持ちが彼女に伝わらないように、必死に口角をあげ、無理をして作った笑顔で彼女を送り出した。
茉央が列車に乗り込むと、ドアが閉まり、しずかに列車が動き出した。
〇〇は窓際の席でずっと手を振る茉央の姿をじっと見守りながら、その姿が見えないほど小さくなるまで、その場を離れることができなかった。
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