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社会性飲酒備忘録

 社会性飲酒というのはその名の通り仲のいい友人や学生同士で開かれる飲み会とは異なりある種の社会性(主に労働に関する人間関係によって齎される社会性)が一定以上付与された飲み会のことなどです。まあ早い話職場の飲み会ですね。

 職場の飲み会に関する不満などTwitterでわざわざ探さずとも社会人と思われるアカウントの発言を追えば誰かしら漏らしているので、社会人でなくともその有様について察することは出来るかと思います。

 前回の記事でも言いましたが無職への栄転から一転、再び労働の場に舞い戻ることになり再び社会性飲酒の機運が高まってまいりました。というかこれを書いている今日まさに行ってきたのですが。僕の歓迎会で。

「さて、この職場での若手の人権はどれくらい制限されているのかな……」とOHCHR現地調査員もかくやの目線で参加したのですが……驚くほどに平和でした。前職の職場の飲み会がケサンの攻防戦だったら今日の飲み会はピクニックですね。人権がある。

 しかし喉元過ぎれば熱さを忘れるとはよく言ったもので、やがて前職での辛い飲み会の記憶など薄れ平和な飲み会の思い出ばかりになってしまうでしょう。そこで過去の飲み会体験を文章化しておくことで平和な飲み会の礎となるように、備忘録としてまとめておこうと思います。消されるな、この想い。忘れるな、我が痛み。

治安の悪い飲み会

 前職では男ばかりで、同じ課には女性が一人もいませんでした。男だけの飲み会というものは社会人になるまであまり経験したことがなかったのですが、男だけだと劇的に飲み会は治安が悪くなります。

 基本的に前職の職場の飲み会における若手の人権は非常に制限されており、飲み会の参加者が多くなると店員が給仕する速度が遅くなってしまい、それに比例するように若手の人権は制限されていきます。もうちょっと具体的に言うと4000円払って居酒屋の店員になるようなものです。豪雪地帯の雪下ろし体験ツアーの方が自分で参加する自由意志があるので遥かにいい。

 お酒を楽しく飲んでいる上司の方々にとっても、注文を中々取りに来ない店員を怒鳴りつけるより若手を怒鳴りつけた方が都合がいい。すぐ飛んでくるし社外の人間を怒鳴るよりコンプライアンスは比較的守られますので。若手を飲み会で怒鳴りつけて守られるコンプライアンスってなに?

 あと飲み会の場でのローカルルールみたいなのがあって、それもある程度守らないと怒られが飛んできます。細かいのだと灰皿をあらかじめ各席に配っておいておくとかでしょうか。残酒なきように、というフレーズは有名かと思いますが当然その風習もありました。現職だと飲み会終わりに机に放置されている日本酒一合とかそのまま飲まなくていいんですよ? ていうか日本酒頼む人が居ない。上司の好きな熱燗の具合とか覚えなくてもいい。

 これは豆知識ですが日本酒を徳利で飲まされてベロベロになったらじゃんじゃん水を飲むと復活できる可能性があります。飲み会終わりに徳利二本を一気に飲んだときはやばかったですが水1.5L飲んだら二日酔いにならずに済みました。ついでに糖分とビタミンCを取ると肝機能の助けになると聞いたこともあります。徳利で日本酒を飲む機会がありましたらご活用ください。

飲酒=無条件に喜ばれるもの、という価値観

 これは建前なのか本気でそう思っているのかわからなかったのですが、どうやら前職の職場の一部の人々においては飲酒=無条件に喜ばれるものというような価値観が存在していました。労働の疲れは酒を飲めば全部チャラになるようです。本当にそれ酒か? という疑問は浮かびましたが怖かったので問うたことはありません。

 仕事柄一~二週間の出張はざらにあり、その都度会社が懇意にしている宿に泊まるのですが、そこでは必ず同じ出張者と飲酒の機会があります。その際、飲み会と言うほどの規模のものではありませんが、宿で夕飯を食べながら晩酌するような形で飲酒の機会があります。

 そこで飲酒=無条件に喜ばれるもの、という価値観の人とかち合うと酷い目に遭います。そういう考えの人は往々にして年配の方なのですが、まるでおばあちゃんが孫の好きな食べ物をひたすら食べさせるような勢いで酒が注がれてきます。おばあちゃんは僕らの好きな食べ物を作ってくれますが、彼らが与えてくるのはまったく好きでもなんでもない甲類焼酎です。

 逆に注ぎ返して潰そうとしても歳を理由に断られます。一方で僕らがやんわりとでも飲酒を断ろうものなら空気がピリッとなりますが。あるとき係長と一緒に出張に行ったときに、係長より遥かに前に入社して現在定年退職後にキャリアで働いている社員と宿が同じになったことがありました。その時のおじいちゃん社員の酒の勧めるスピードが異様に早く、杯を満たしていても五分に一度のペースで係長に酒を注ぐように僕に指示を出してきます。

 係長はあまり酒が強くないのであまりビールに口を付けてませんし、僕もそれを察していたので酒を注ぐのを控えていましたが、五分に一度「ぼさっとしてねえで係長に酒を注げよ!」と怒られが飛んでくるのでどうしようもありません。係長の方も仕方がないので軽く口を付けたほぼ満タンのコップを差し出してきて、そこに僕が雀の涙ほどのビールを注ぎます。注いだら注ぎ返すのがマナーのようなので僕も係長からビールを注いでもらいます。僕が飲まなければビールが減りませんので僕はほぼコップを空にしてからビールを注いでもらい、僕の方でビールを処理していきます。

 ビールがなくなったら注がれることもないだろう……という希望的観測からの作戦です。特に係長と打ち合わせをしてなどいないのですが暗黙の了解のように互いにその作戦を瞬時に共有していました。アイシールド21の神龍寺ナーガ戦のチームワークを彷彿とさせます。

 しかし希望的観測に頼った作戦は往々にして上手くいかないもので、ビールを消化したと思ったら夕食をとる場所の座敷の横に据えてある冷蔵庫から次のビールが取り出されるだけでした。どうやら一人二本までビールが飲めるようで瓶ビール八本を消化しないと帰れないようでした。

 結局7時から始まった夕食が終わったのは10時頃のことでした。現場から戻ってすぐの夕食なので着替えも風呂も済ませてません。3時間あったらゆゆ式が7話は見れると考えると恐ろしく時間を無駄にした気分になります。ちなみに翌日も普通に仕事ですし、なんなら早めに宿を出る必要があるくらいです。どうやら彼らは飲酒で全部チャラになるっぽいですが……。

全方位土下座外交

 一番キツかった飲み会の思い出は、県内の営業所の課長クラスも参加した課内の飲み会です。ただでさえ厄介な管理職級の人間が普段の倍以上参加する飲み会で、注文対応にも迫力が出てきます。

 治安が一定以上悪くなると逆に店員に徹した方が精神的に良くなってきます。酩酊しまくって同じ話を何度も聞かされたり内容のない仕事関連の説教で詰められるよりだったらひたすら動いていた方が絡まれる心配がなくなるので、皆さんも臨機応変に対応して精神の安寧を図りましょう。

 二時間動きまくって店員から退店を促されればこっちの勝ちです。ヒラが飲み会を終わらせる音頭を取れるのは店員から退出するよう言われたときだけです。これだけは上司でも逆らえない錦の御旗です。

 しかしそのときの飲み会ではあんまりそれを言いすぎた所為か「融通の利かねえ店だなあ」「サービス悪い碌でもない店だな」「二度とこねえわこんなん」などの暴言が若手を飛び越えて店員に直接飛んでいくことになり、上司が全員出ていったあとで店員に平謝りすることになりました。大学生くらいの女性店員だったので顔が青ざめててマジで申し訳なかった。

 二時間金払って店員してて碌に料理も食えなかったので二次会をするっと抜けて近くのラーメン屋に入って空腹を満たそうとしたら、何故か一次会の店から電話が……「お連れのお客様が他のお客様の靴を間違えて履かれていったようで……」泣きながらラーメン半分以上残して一次会の店へとんぼがえりすることに。

 上司に電話で説明して全員の靴を確認してもらうも誰も間違えてないとのこと(実際には上司の中に靴を間違えて履いていった人が居たがベロベロに酔っぱらってるので気付かなかった)。「もう一度確認お願いします……」という店員となぜそんなに疑われなきゃいけないんだとヒートアップし始める上司。ついでに全然関係ないのによくわからない理由で別の上司に怒られる僕。どういう理屈で僕が怒られてたのか今でもよくわからない。

 結局後日僕が対応するということで一旦決着し解散することに。解散後にまた軽く謎の怒られが飛んできましたがもうよくわからなかったのでどんなんだったか全然覚えてないです。


 いかがでしたでしょうか。

 これから忘年会シーズンが近づいてきて社会性飲酒の危険が高まりますが、労働者諸氏に於かれましては僅かながらでもその飲み会が安らかであることを願っております。


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