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研究の世界で、結果が再現できないのは当たり前(残念ながら)

 こんにちは、黒都茶々と申します。
 現在は定職(not研究職)についておりますが、かつて大学院の博士課程というものに在籍しておりましたので、その頃の体験をつらつらと綴っております。
 今回は生物系の実験についての実態をお伝えしたいと思います。

 ちょっと誤解が生じるかもしれない内容なので、書こうかどうか迷っていたのですが、研究ってこんなもんですというのも伝えておこうかなと思って書くことにしました。生物系の研究が全部そうでもないとも思いますが、少なくとも私がやっていた実験系ではこういうものでした。

マテメソに表現しきれないやり方がある。

 論文を読んだことがある人なら分かるでしょうが、論文は、タイトル、概要、イントロダクション(研究の背景)、マテリアルアンドメソッド(実験のやり方)、結果、考察、謝辞、引用文献、という構成で成立しています。(順番は前後したりすることもある。)
 このうち、実験のやり方の部分を、通称「マテメソ」と呼んでいます。マテメソは、料理で言えばレシピに当たる部分で、実験に使ったモノ、やり方を記述する部分となります。理想的には、この「マテメソ」に書かれたやり方をその通り実行すれば、実験は再現(論文に書かれた通りの結果が出ること)できるはずなのですが、そうはならないことも多くあります。

 理由としては、生物系の実験は、結構デリケートで微妙なことが多いからかなと思います。生物のコンディションも様々な上、実験作業者の手技もピンからキリまであります。実験道具も全く同じものを使っているわけではないので、その辺りでも差が生じてきます。
 またもや料理で言いますと、「にんじんを乱切りにして鍋で煮込んでね」と言っても、そもそもにんじんの形も様々で、同じ乱切りといっても、それぞれの人が考える乱切りにはちょっとずつ違いがあります。なので、同じように火を入れたつもりでも、Aラボでやったのだとちゃんと火が通っているのに、Bラボだと硬いままだったりするわけです。使っている鍋のサイズとか、火力とかも違うかもしれないしね。
 電子レンジとかオーブンでイメージしてもらってもいいかもしれない。一応、料理のレシピには〇〇度で〇〇分、〇〇Wで〇〇分、って書いてありますが、実際その時間でやるとうまくいかないこと多いじゃないですか。そんな感じで、マテメソに書ききれないコツというか、そういうものがあるものなのです。(※マテメソでも、使った機械のメーカーとかを書いたりして、できるだけ再現できるようには工夫されています。)

悪意がある場合もないわけではない

 ここまで書いてきた通りの理由で、実験結果が再現できない場合は結構あります。実際学部生の時、書いてある通りのやり方をしたのに、結果が再現できないことがありました。私がやっていたのは、割と再現性の高いはずの、培養細胞を使ったウェスタンブロットだったんですが、何をどうやっても無理で諦めましたね、その実験は。

 その論文がそうだったとは言いませんが、他のラボで同じ実験を再現されるのを防ぐために、あえてコツを書かない場合もあるみたいです。他のラボで実験されちゃうと、そのラボの優位性が失われるからかなとも思います。あるいは、再現できないと筆者に連絡を取ることになるので、筆者が競争相手を把握できるというメリットもあるのかな。ま、故意にコツを書かないっていうのは、私は支持しないけど。

再現できない論文は自然に駆逐されるだけ

 論文に書かれている実験が再現できない、となった場合、どうなるのかと言えば、極論はどうにもならないです。よほど自分のやっている研究の肝になる実験なら、その論文の筆者に連絡を取ってさらに詳細な条件を聞きだしたり、実験の手技を習いに行ったりするかもしれませんが、そうでもなければ、次の別の実験をすることになると思います。あえて、この実験再現できませんでした、なんてことを声高らかに言うことはないでしょう。

 そんなわけなので、再現できない実験というのは今も生きてる論文に沢山ありますが、特に否定もされず放置されます。なので、かなりの数の捏造結果も存在しているのではないかなと推測しています。こういう論文は、再現できないので、引用される回数が減って自然にその業界から忘れ去られる、あるいは、研究者仲間の間で、あの論文の結果は再現できないということが噂になって、もやっとぼんやりと捏造認定される、という末路をたどります。いずれにしても、とても温い対応です。特に、あまりホットではない分野だと、この再現できない結果というのは検証されないので、放置されます。競争相手がいなくて、あんまりホットではない分野だと、多少不正をしても生き残れてしまう現実があると思います。

積極的に再現性が追及されたレアなケース

 ホットな分野でこの不正をやってしまったのが、もう何年も前になりますが、女性研究者の万能細胞の話でしたね。あれは、内容がセンセーショナルすぎたので、数多くのラボが追試してしまい、その結果、報告内容が嘘っぱちであることが判明しました。(私は個人的に、叩かれて騒がれたあの女性研究者は、結果が本物であると信じていたと思います。ただ、実験の途中で、細胞の取り違えなどが故意ではなく発生していたのかなと推測しています。それを検証できる構造になっていなかったのは残念だと思いますけどね。)
 非常に怖いことですが、私はあのニュースを見て、あの事件は結果がインパクト大だったので大きく取り上げられましたが、それよりも小さなたくさんの研究で、同様のミスは起こっているのではないかなと思いました。本当なら、同じ結果を違うラボで(あるいは、同じラボでも、結果を知らない違う人が)再現できることを確かめる必要があるのですが、私の時代はそうやって実験結果を確認する習慣がなかったんですよね。

 将来的に、このあたりのルールもより厳格に指導されるようになればいいなとは思うんですが、いかんせん「再現実験をする」=「お金と時間が余分にかかる」ということなので、難しいのかもしれませんなぁ。再現実験できないってのも、実験者の手技によるものだとすると、練習の時間もかかるわけなので。

 以上、実験の再現性について、生物系(私がやってた研究対象の話)の実態についてお伝えしました。
 化学の分野(有機合成系)では、実験が再現できないなんてことはほぼないらしい(友人は、N=1でも問題ないと言っていた)ので、分野や対象動物で状況はいろいろだとは思いますが、こういう世界もあるのです。

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