見出し画像

2022年2月17日 衆議院憲法審査会 橘幸信 衆議院法制局長発言

橘幸信・衆議院法制局長の発言を文字起こししました。
配布資料は玉木雄一郎議員(国民民主党代表)のブログからお借りしました(近日中に衆議院憲法審査会ホームページにも掲載される予定です)。

(森英介・憲法審査会会長)
衆議院法制局当局から説明を聴取いたします。衆議院法制局長橘幸信君。

(橘幸信・衆議院法制局長)
衆議院法制局の橘でございます。
幹事会でのご協議に基づきまして、本日の集中討議のテーマである、憲法56条1項の出席をめぐる諸問題について論点整理をさせていただきます。よろしくお願い申し上げます。

(森会長)
お掛けください。

(橘局長)
ご配慮ありがとうございます。このままで結構でございます。

お手元に表紙を含めてA4 5枚ほどの資料を配付させていただいておりますので、これに基づきまして順次ご報告をさせていただきたいと思います。

1. 現行法における「出席」に関する主な規定

まず、表紙をおめくりいただきまして、2枚目の【資料1】をご覧願います。現行の国会関連法規における出席に関するいくつかの条文を掲げたものでございます。

・憲法および国会法

オンライン審議の関係で、最初に問題となる条文は、冒頭に掲げた本会議の定足数に関する憲法56条1項でございます。
そこでは、両議員は、各本会議の定数に関する両議院は、各々その総議員の3分の1以上の出席がなければ議事を開き、議決することができないと定めて「出席」という表現が使われております。
これに続く57条では、両議員の本会議が公開のもとで行わなければならないことが規定されております。この条文もオンライン審議との関係で問題となるのですが、この点については最後にご報告させていただきます。
なお、憲法にはこれ以外にも出席について規定する条項がいくつかございます。
以上の憲法規定を受けて、国会法では、本会議への出席のみならず、委員会への出席など、随所に「出席」の表現を使った条文が定められております。また、証人や参考人については「出頭」といった表現も使われております。
いずれにいたしましても、国会法では基本的に憲法と同様に出席といった表現が使われているところです。

・衆議院規則

その上で、これらの規定を踏まえた衆議院規則の関連条文を見ていこうと思います。

そこでは議員の表決に関する重要な条項である148条において、表決の際、議場にいない議員は、表決に加わることができないと定めて、憲法および国会法において、「出席」と表現されていた行為対応について「議場にいること」と定められていることに気づきます。
議場にいることとなりますと、オンライン審議を認める余地はなくなりますから、ここに憲法56条1項の「出席」は、衆議院規則の「議場にいること」と同じ意味なのか、それとも、より広い意味を包含すると解釈できる余地はないのかが、オンライン審議との関係で問題となってくるわけでございます。

2.「出席」の解釈

そこで次に【資料2】をご覧ください。

憲法56条1項の「出席」に関する憲法学説を整理したものでございます。大きく二つの見解に分けられます。

・【A説】物理的出席説

まずA説は、仮に「物理的出席説」と名づけてみましたが、「出席」とは、衆議院規則と同様に、現に議場にいること、すなわち、物理的にそこに現在することと理解するもので、従来からの自然な解釈と言えるかと思います
その理由としては、「日本語の出席とは物理的にそこにいることであって、それ以外に解釈の余地はない」とか、あるいは「全国民代表といった抽象的で目に見えない存在を代表する、リプレゼントするといった代表制の理論からは、代表者は目に見える形で存在、presentしていなければならない」とか、さらには「日本国憲法は国会議員に対して、全国民代表としての厳格な出席義務を課している」このような理由などが挙げられているようです。

・【B説】機能的出席説

他方、これに対して近年になって、というのは、このような論点自体が極めて新しい論点だからでありますけれども、近年になって、「機能的出席説」とでもいうようなB説のような見解が有力に唱えられるようになってまいりました。出席にはオンライン出席も含まれるとする解釈です。
その理由としては、出席を要求する趣旨、すなわち出席の機能的意味は、全国民から負託を受けた国会議員が自ら議論に参加し、その過程を通じて賛否の意思を形成し、最終的に表決に参加する、そのような一連のプロセスを実践するためであって、かつて、例えば憲法が制定された70数年前などは、一堂に会しないとそのようなプロセスを踏むことができなかったけれども、現在のICT技術を活用すれば、必ずしも、空間的場所的な議場に現在していなくても、そこにいるのと同じような議論の環境を整えることは十分に可能であること。
そして何をもって出席と認めるかは、日本国憲法が両議院に認めている広範な議員自律権に基づいて決めることができること、このようなことを理由とするものと拝察しております。
ここに議員自律権というのは、衆参それぞれの議員が有しているその組織や運営などに関して、行政権や司法権からも、また他の議員からも干渉されることなく、自らが自由に決めることができる、そういう権能のことと理解されています。

・本会議のオンライン審議を認めるための方策

このような学説を前提として、本会議におけるオンライン審議を認めようとする場合には、A説の立場からは、憲法上、憲法改正が必要ということになりますし、他方、B説の立場からは、憲法上認められる出席の範囲を衆議院規則によって限定しているだけでございますので、基本的には、衆議院規則の改正で対応可能ということになるように思われます。
もちろんB説に立つ場合であっても、解釈上の疑義をなくしたり、また、その際の条件などを明確にするという意味での憲法改正を行うことが封じられるわけではございません。

さて、以上のように、出席の解釈さえ決めれば、オンライン審議に関する議論は終わりかというとそうではございません。
むしろ議論はここから始まると言っても過言ではないのです。

3.「オンライン審議」の制度設計に関する基本的な考え方

【資料3】をご覧願います。

・オンライン審議の位置付け

憲法改正によって対処するA説の場合であろうと、また、衆議院規則の改正などで対処するB説の場合であろうと、具体的にオンライン審議を実現しようとする場合には、その制度設計にあたって、少なくとも次の二つの基本的な考え方を整理しておかなければならないように思います。
一つは、このオンライン審議を新しい時代の新たな議会像として一般的に捉えて、いつでも実行可能な一般的な選択肢として位置づけるのか。それとも、あくまでも原則は物理的出席であって、例外的な制度として位置づけるのかといった論点です。
この論点の背景には、議会とはそもそもどのような存在であるべきかといった先生方お一人お一人の議会観が問われるような論点であると拝察いたします。
理論的には両者ともに立論可能な見解と思料いたしますが、私どもが調査した限りでは、あくまでも例外的な制度として位置づけるのが多数の見解であるように思われます。
その理由としては、議会の本来的な姿は、メタバースのようなものが日常的になった時代ならいざ知らず、少なくとも現時点においては、全国民代表である議員が一堂に会して、対面によるコミュニケーションにより、熟議をすることと考えるべきこと。
また、識者の指摘の中には、尖塔に象徴される、威厳のあるこの白亜の殿堂、そしてその中にある半円形の議席配置やガラス天光による採光などの本会議場、このような議会の構造の象徴性これが、そのような中で行われる国家意思の決定に権威を与え、国民の法規範遵守の意識を醸成するといった観点から、原則は議場への物理的出席が本来の姿なのだ。といった指摘をする論者もおられると拝察しております。

・例外性についての考え方

このようにオンライン審議をあくまでも例外的な制度と理解した場合に、次に問題となりますのは、ではどのような場合に、その例外に当たると考えるのか。といった事柄であります。
これについては二つのケースが念頭に置かれているように思います。
一つはいうまでもありません。
現下のコロナ禍のような時代において、国会全体の機能を維持するためといった趣旨による場合、①の場合です。
この場合も総議員の3分の1の定足数を満たすことができないほどのギリギリの場合に限定するのか。あるいはもう少し予防的な観点も含めて、前広に認めるのかなど、様々な選択肢があり得るかと思われます。
もう一つは②の場合で、妊娠出産中の女性議員や、疾病や障害などを理由として、議場に赴くことが困難な議員を念頭に、その全国民代表としての表決権をはじめとする権限行使を特例的に保障するためといったケースです。
この二つのケースに関しましては、議員自律権の行使として、いずれも選択可能なものと位置づけることができるようにも思われますが、他方、両者は本質的に異なるとの見解も唱えられております。
例えば、先に挙げた物理的出席説を取る代表的な識者においても、オンライン出席を認めない限り、国会としての最低限の機能を果たすことができないような客観的事情がある場合には、必要最小限の範囲内でオンライン出席を認めることができる旨述べられており、このように解することによって、単に出席の範囲を拡張解釈した場合には、56条1項の定足数規定のみならず、他の条項の出席規定、例えば63条の国務大臣の国会出席の権利と義務の規定なども同様に解しないと整合性が取れなくなるではないか。しかし、このような限定的解釈によって、56条以降の出席規定のか解釈拡張だけを合理的に説明することができるのだ。
このような見解が唱えられていると拝察しております。

いずれにいたしましても、例外的な事由に該当するか否かの判断については、あらかじめ明確なルールを定めた上で、個別的、具体的には、議長および議員運営委員会などによる公的な認定手続きが介在することになるように思われます。

さて、このような思考過程に基づいてオンライン審議に関する基本設計ができたとしても、その実現にはまだ多くのハードルがあるように存じます。

4.「オンライン審議」の制度設計の際の条件・論点

最後に、【資料4】をご覧ください。

・「本人性」および「出席」機能の確保

まず【資料2】で言及した出席の意味・機能から自然的に導き出される論点として、選挙で選ばれた議員本人が自由な意思表示ができる状態にあること。このことが確認されなければなりません。
また出席の機能、すなわち、現に行われている議論や表決に参加することができるオンラインの環境を整備しなければなりません。

・公開性の原則(憲法57条)

さらにもう一つ、憲法上避けられない論点として、冒頭で言及した憲法57条の改正の論点がございます。本会議の議事は、広く国民に公開されなければならないからです。

・実務上の論点

以上のいずれの論点についても、資料の右側に実務上の論点として掲げてあるような事項について、議会とはどのようであるべきかといった大所高所からの観点も含めて、実務的な議論をすることが必要になってくると思われます。
なお、今申し述べました公開性の要請に含まれる中核的な制度は、「傍聴の自由」とされておりますが、これは本会議の傍聴席に赴くことによって、議事が行われている議場全体や、1人1人の議員の様子を直接に見ることができるといった傍聴制度として現在運用されております。
憲法57条に照らせば、オンラインで参加している議員の様子についても、一定程度、傍聴人に見せる必要があることになります。
その際、この公開の解釈についても、機能的出席のような解釈と同様に、オンライン視聴による公開、例えばインターネット中継なども含まれると解釈できないか。そのような論点に波及していく可能性もあるように思われます。

・立法政策上の論点

最後に、以上の憲法上の論点のほか、立法政策的な論点として、当面、オンラインによる出席者には表決権は認めるが、発言権は認めないこととするとか、またその現在場所も議員会館などに限定するとか、このような論点も指摘されているところでございます。

いずれにいたしましても、具体的な制度設計は、議員の議事手続きに関する事項ですから、議院運営委員会の所掌になると思います。
憲法審査会におきましては、その前提となる憲法規定の解釈問題およびこれに密接に関連する基本法制に関する問題として、ご議論されるにふさわしい重要な論点であると拝察する次第です。

以上、拙いご報告でお耳汚しであったとは存じますが、少しでも先生方のご議論の参考になればと思います。ご清聴ありがとうございました。

(森会長)
以上で衆議院法制局当局からの説明聴取は終わりました。これより自由討議に入ります。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?