メカオーは大会に強い?弱い?
はじめに
こんにちは、くりりんです。
今回、ツイッターで以下のようなツイートを目にして、面白い題材だと思い少し考察してみました。
これは、相性差の小さいデッキを使用した方が連勝する確率が大きい、例えば
勝率50%の相手に二連勝する確率(0.5×0.5)の方が勝率30%の相手と勝率70%の相手と一戦ずつして二勝する確率(0.3×0.7)よりも大きく、これは連勝したければ、デッキ相性の差が小さいデッキを使用するべきだと言うことを示唆しているのではないかと言うことだ。
確かにそういわれるとそんな気がする。
これをもう少し一般化してみると
勝率$${a(0≤a≤1)}$$の相手と勝率$${b(0≤b≤1)}$$の相手と一戦ずつしたときに2連勝する確率は$${ab}$$であり、
$${\cfrac{a+b}{2}≥\sqrt{ab}}$$ (等号成立は$${a=b}$$の時)
より勝率の相加平均を固定した時、$${a=b}$$のときに最大値$${{(\cfrac{a+b}{2})}^{2}}$$をとる。
($${a=0}$$や$${b=0}$$の時は本当は別で考えるべきだが、今回は大した問題にはならないので省略する。)
これが、最初のツイートでも暗に仮定しているように、勝率の相加平均を固定した時、連勝する確率を最大化するには各デッキに対する勝率の差が小さい方が連勝しやすいことを表しているのではないかと言う予想だ。
今回はこれをちゃんと定量的に考えてみた。
よく「比較的デッキ相性差の小さいと(言われる)メカオーは大会に強いのか、弱いのか?」といった話題が上がるが、この記事はそういった問題に対する一考察である。
この考察ではかなり状況を単純化して考えており、実際の状況からはかけ離れている。なので、この記事での結果がそのまま実践に応用できるわけでは全くもって無いので注意していただきたい。
また同時に、メカオーが大会に強いのか弱いのかを結論づけるものでも全くもってない。
ランクマッチにおける考察
ここではランクマッチにおける勝率などを定量的に扱うために、まずはかなり単純なモデルを立てて考えてみる。
今ランクマッチではデッキAとデッキBという二つのデッキのみが拮抗しており、同じ割合で存在するとする(もしくは他のデッキの影響は無視できるほど小さいとする)。
つまり、ランクマッチを一戦行った際に確率$${\cfrac{1}{2}}$$でデッキAとあたり、確率$${\cfrac{1}{2}}$$でデッキBとあたる。
そして自分はデッキ Xを使うとする。注意点としてこのデッキXはデッキAやデッキB以外のデッキでも良い。
自分の使うデッキXは
デッキAに対して$${x_a (0≤x_a ≤1)}$$の確率で勝利し
デッキBに対して$${x_b (0≤x_b ≤1)}$$の確率で勝利するとする。
この時ランクマッチで連勝するには自分のデッキをどう選んだらいいか、つまり連勝する確率を最大にするには$${x_a,x_b}$$をそれぞれどのような値にすれば良いかを考える。
(例えばゲオルグ天門とトリーヴァケンジの完全な二強環境に対して、どのようなデッキで臨むべきかを考えていると言う状況などを想像してみるといいだろう)
しかしこれだけだと当然$${x_a=1,x_b=1}$$にするのが最適だということは明らかだろう。
そもそもそんなデッキがあるのなら先ほど仮定したようなデッキAとデッキBのみが拮抗して存在しているような環境にはなっていないだろう。
そこで、最初のツイートと同じように勝率の相加平均(の二倍)は一定値として考える。
つまり
$${x_a+x_b=C}$$ ($${C}$$は$${0≤C≤2}$$を満たす定数)
と言う条件をつける。
例えば$${C=1}$$と与えられたら$${(x_a, x_b)}$$は$${(0.5, 0.5)}$$, $${(0.4, 0.6)}$$, $${(0.3, 0.7)}$$などと$${x_a+x_b=1}$$を満たすように動かせる。このとき1を$${x_a}$$と$${x_b}$$に、どう振り分けるのが良いかと言うことを考えている。
この時まず
デッキXでランクマッチを一戦行った時に勝利する確率$${P_1}$$は
デッキAとあたり勝利するかデッキBとあたり勝利するかなので
$${P_1=\cfrac{1}{2} x_a+\cfrac{1}{2} x_b=\cfrac{C}{2}}$$と計算できる。
つまり一戦した時に勝利する確率は$${x_a,x_b}$$の値によらず一定であるとわかる。
またこれより即座にデッキXでランクマッチを$${n}$$戦行った時に$${n}$$連勝する確率$${P_n }$$も$${P_n=(P_1)^{n}=(\cfrac{C}{2})^{n}}$$と計算できる。
つまり連勝する確率も$${x_a,x_b}$$の値によらず一定であるとわかった
※同様に考えると
ランクマッチにおいて、デッキ1~デッキNのN個デッキの使用率が拮抗して存在している($${\cfrac{1}{N}}$$ ずつの割合で)際は一勝する確率は
$${\cfrac{x_1}{N}+\cfrac{x_2}{N}+⋯+\cfrac{x_N}{N}=\cfrac{1}{N}(x_1+x_2+⋯+x_N) }$$ ($${x_i}$$はデッキiに対する勝率)
なので$${x_1+x_2+⋯+x_N}$$を固定したら$${x_1,x_2,…,x_N}$$の取り方に寄らず一定となる。
これが言えるには上記の式で$${\cfrac{1}{N}}$$でくくれる事が大事、つまりデッキの使用率が拮抗しているときにはこのようなことが言えるということがわかる。
これは当初の
連勝するには相性差の小さいデッキを使うと良さそうという予想とは反する。
では、この予想と実際の結果との違いはどこからくるのかを考えてみる。
上記の予想は2連勝することを想定しているので
先ほど導出したn連勝する確率$${P_n}$$の式$${P_n={P_1}^{n}=(\cfrac{C}{2})^{n}}$$で$${n=2}$$として2連勝する確率について考えてみよう。
ここで、$${P_1=\cfrac{1}{2} x_a+\cfrac{1}{2}x_b}$$であったので$${P_2={(\cfrac{1}{2} x_a+\cfrac{1}{2}x_b)}^{2}}$$
となり、この右辺を展開した
$${P_2=\cfrac{1}{4} x_a^{2}+\cfrac{1}{2} x_a x_b+\cfrac{1}{4} x_b^{2}}$$
と言う式に注目する。
この一項目はデッキAに2連勝する確率、二項目はAとBに一勝ずつする確率、三項目はBに2連勝する確率に対応しているが、最初の予想の0.5×0.5>0.6×0.4>0.7×0.3
と言うのはこの二項目のみを見たものになっている。
実際は一項目と三項目、つまり相性の良いデッキと連戦したりする項(0.7×0.7や0.3×0.3の影響)もあるので、ここに予想と結果の差異が生まれている。
しかし、逆に言えばこの考察から、上記のような「連戦の項」が無いような状況であれば最初の予想と同じような結果が得られるのではないかと考えられる。
つまり同じデッキと複数回当たらないような場合だが、少し考えてみるとまさにそのようなことが起こりうる状況があった。
それは次のようなものだ
トーナメント方式(シングルエリミネーション方式)における考察
四人でシングルエリミネーション方式のトーナメントを行うことを考える。
今環境ではA、B、Cという三つのデッキが拮抗していて、自分以外の三人はA,B,Cのデッキを使用するプレイヤーがそれぞれ一人ずついるとする。
またA, B, Cの中から二つのデッキを選んで対戦させた時の勝敗は全て五分であるとする。
このトーナメントに自分はデッキXをしようして出場するとする。
この時、例えば次のようなトーナメント表で戦うことになる。
このようなトーナメントであれば同じデッキとの連戦が起きないので、ランクマッチにおける考察の時の「連戦の項」のようなものはないと考えられる。
今回は事前に推定されているのは自分以外の三人はA,B,Cのデッキを使用するプレイヤーがそれぞれ一人ずついると言うことのみで、トーナメント表は予想できない状況だとしよう。
そこで、考えうるトーナメント表の全てが等確率で発表されるとしよう。
つまり4×3×2×1通り(A,B,C,Xの並べ方)のトーナメント表のうちの、特定の一つのトーナメント表で実際の試合を行う確率が$${\cfrac{1}{4×3×2×1}}$$であると言うこと
自分のデッキXは
デッキAに対して$${x_a (0≤x_a≤1)}$$の確率で勝利し
デッキBに対して$${x_b (0≤x_b≤1)}$$の確率で勝利し、
デッキCに対して$${x_a (0≤x_c≤1)}$$の確率で勝利するとする。
またランクマッチの時と同じように
$${x_a+x_b+x_c=C }$$($${C}$$は$${0≤C≤3}$$を満たす定数)
と言う条件をつけよう。
この時、自分が優勝する確率を最大にするには、$${x_a,x_b,x_c}$$をどのような値にすれば良いかを考えてみよう。
今回は初戦であたるデッキがAかBかCかで場合分けすると楽に考えられる。
まず初戦の相手がデッキAである時(例えば下図のような場合)
自分が優勝するのは初戦でAに勝利し、2戦目にBに勝利する場合、もしくは初戦でAに勝利し、2戦目にCに勝利する場合のいずれかである。
最初の仮定から、2戦目にBが勝ち上がってくるかCが勝ち上がってくるかはそれぞれ確率$${\cfrac{1}{2}}$$なので
自分が優勝する確率$${Q_A}$$は
$${Q_A=x_a×\cfrac{1}{2} x_b+x_a×\cfrac{1}{2}x_c=\cfrac{1}{2}(x_a x_b+x_c x_a)}$$
と計算できる。
同様にして初戦の相手がデッキBである時に自分が優勝する確率$${Q_B}$$
初戦の相手がデッキCである時に自分が優勝する確率$${Q_C}$$は
$${Q_B=x_b×\cfrac{1}{2}x_a+x_b×\cfrac{1}{2}x_c=\cfrac{1}{2}(x_a x_b+x_b x_c)}$$
$${Q_C=x_c×\cfrac{1}{2}x_a+x_c×\cfrac{1}{2} x_b=\cfrac{1}{2}(x_c x_a+x_b x_c)}$$
と計算できる。
仮定から、初戦の相手がAかBかCかはそれぞれ確率$${\cfrac{1}{3}}$$なので、
このトーナメントで自分が優勝する確率Qは
$${Q=\cfrac{1}{3} Q_A+\cfrac{1}{3} Q_B+\cfrac{1}{3}Q_C=\cfrac{1}{3}(x_a x_b+x_b x_c+x_c x_a)}$$
と表せる。
つまり
$${x_a+x_b+x_c=C}$$
$${0≤x_a ≤1}$$
$${0≤x_b ≤1}$$
$${0≤x_c ≤1}$$
という条件の下
$${x_a x_b+x_b x_c+x_c x_a}$$
の値を最大化することを考ればよい。
条件つきの多変数関数の最大値を求める問題なので例えばラグランジュの未定乗数法などを用いて考えれば良い。
(他には高校までの数学を使うなら、等式条件から一文字消去して、二変数関数になるので、二変数関数の値域を求める問題のいい練習になる。
また対称式であることに注目して基本対称式を使った変数変換をしてみるのも面白いだろう)
しかし今回は、少しトリッキーではあるが簡単でかつ当初の予想の拠り所であった相加平均相乗平均の関係を用いて最大値を求める方法で考える。(値域は求まらないことに注意)
$${x_a,x_b}$$について、相加平均と相乗平均の関係を用いて
$${\cfrac{x_a+x_b}{2}≥\sqrt{{x_a}{x_b}}}$$ (等号成立は$${x_a=x_b}$$の時)
と言う不等式が成り立つ。またこの不等式の等号成立条件は$${x_a =x_b}$$である
$${x_a x_b+x_b x_c+x_c x_a}$$ の各項に対して同様にこの関係を用いると
$${x_a x_b+x_b x_c+x_c x_a≤{(\cfrac{x_a+x_b}{2})}^{2}+{(\cfrac{x_b+x_c}{2})}^{2}+{(\cfrac{x_c+x_a}{2})}^{2}}$$
となり、この等号成立条件は
$${x_a =x_b かつx_b =x_c かつx_c =x_a }$$
つまり
$${x_a =x_b=x_c=\cfrac{C}{3}}$$
となる。
$${0<\cfrac{C}{3}<1}$$なので、この等号成立条件を満たし
$${x_a+x_b+x_c=C, }$$
$${0≤x_a ≤1,}$$
$${0≤x_b ≤1}$$
$${0≤x_c ≤1}$$
もみたす$${(x_a ,x_b,x_c)}$$の組が存在することが重要
この時
$${{(\cfrac{x_a+x_b}{2})}^{2}+{(\cfrac{x_b+x_c}{2})}^{2}+{(\cfrac{x_c+x_a}{2})}^{2}=\cfrac{C^2}{9}+\cfrac{C^2}{9}+\cfrac{C^2}{9}=\cfrac{C^2}{3}}$$
なので
$${x_a x_b+x_b x_c+x_c x_a≤\cfrac{C^2}{3}}$$
等号成立条件 $${x_a =x_b=x_c=\cfrac{C}{3}}$$
つまり$${x_a =x_b=x_c=\cfrac{C}{3}}$$とした時優勝する確率$${Q}$$が最大値$${\cfrac{C^2}{9}}$$をとることがわかる。
これはこのトーナメントで優勝したければ各対面との相性差が小さいデッキを使用するのが良いということを示唆している。
おわりに
かなり単純なモデルを考えたが、今回のような設定の状況では、ランクマッチにおいては連勝する確率は相性差の大きい小さいによらず、大会で優勝するには相性差の小さいデッキを使うのが良いと結論づけられた。
ただしやはり注意していただきたいのは、実際の状況はもっと複雑であるので、ここでの結論を安直に実際の大会などに反映するのは非常に危うい。
あくまで、デッキを考える際の有象無象の指標の一つとして捉えていただければ幸いです。
補足(ランクマッチでの勝利数の期待値)
デッキXでランクマッチを$${n}$$戦行った時の勝利数$${m}$$の期待値$${〈m〉}$$も計算してみる
定義どおりに計算するのは面倒なので次のように工夫すると楽に計算できる。
$${i}$$試合目の勝敗に対して確率変数$${σ_i}$$ を
$${σ_i=1 (試合に勝利した時), σ_i=0(試合に敗北した時)}$$と定義すると
$${〈σ_i 〉=1×P_1+0×(1-P_1 )=\cfrac{C}{2} }$$
これより
$${〈m〉=〈\sum_{i=1}^{n}σ_i 〉}$$
$${ =\sum_{i=1}^{n}〈σ_i 〉}$$ (期待値の線型性)
$${=\sum_{i=1}^{n}C/2}$$
$${=\cfrac{C}{2} n}$$
と計算できる。
これにより、勝利数の期待値も$${x_a,x_b}$$の値によらず一定であるとわかる。
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