小説メイキング

初めましての方もそうでない方もこんにちは、栗野と申します。
先日マシュマロで文章の書き方を尋ねてくださった方に個人で実践してた文章力の練り上げ方をプライベッターで公開したのですが、
今回、物は試しに小説を書いている時の自分の脳みそを分析してみようと思い立ち、メイキングと銘打ってまとめてみました。

ごく稀に「どうやって書いてるんですか?」と聞かれてもが、「こういう感じのを書きたい!と思って思いつくままに…」としか答えて来ず。その「思いつくままに」のほぼ無意識の所で、自分は何を考えているのかと分析した結果みたいなものとなりました。

めちゃくちゃ長くなりましたが、一個人の考え方、やり方ですので、参考にならなかったら申し訳ありません。

自分の書き方の概要

・一人称(キャラクター視点)で書きます。
・プロットは基本作りません。最初からぶっ通しで書ききります。
(同人誌の原稿時は書きますが、メモ書き程度です)
・話は映像(音声付き)で浮かびます。最初から最後まで映像浮かぶ場合はそれをなぞり、断片的に浮かぶ場合は浮かんだ箇所はその通りに書きつつ、浮かんでいない箇所は書きながら埋めるような形で書いてます。
・書いている時は、一文を書いている間に次の一文の原型が浮ぶような感じです。あとキャラクターが勝手に喋ったりします。一文の原型が浮かんでない場合でも、基本的に頭の中でキャラクターが動いたり、話したり考えたりしているので、それを元に言葉を捏ねくり回す感じです。

話を書く基本軸

・視点になる人間が何を感じていて、どう見えてるか
・視点になる人間の言動に相手は何を感じ、どういう言動をするのか
を中心に話を構成します。

おおまかな書き方

①視点となるキャラクターの心情、キャラクターならではの動き(順番は前後したりします)を描きます。
②そのキャラクターの言動に対する相手の反応、その反応を見た視点となるキャラクターの言動、を続けるような形になります。
(①②が前後する場合もあります)
③↑にいつ(季節、朝昼晩など)、どこ(家、学校など)の情景描写を混ぜるような形になります。
(最初に③を描いてから①②に移る場合もあります)
④比喩を使う
個人的な好みで、比喩表現を使って書いてる時が楽しいのと、後で読み返した時にテンションが上がるので比喩を多用してます。

書く時に考えていること

・どうしても伝えたい所はめちゃくちゃ考えるけど、伝わらなくてもいいかなぁと思った所はこだわらない。
自分が伝えたいこと100%、読んでる方に伝わらないと思っているので、どうしても伝えたいこと以外はまぁ伝わったらいいかなの気持ちで書き進めます。恐らくこう考えてる人の方が少ないと思うのですが、自分が変に止まって唸り続けるよりとにかく書きたいタイプなので…。
・色っぽい空気を出したい。全年齢だけどエッチな空気を出したい。
日常の動作や風景、キスや手を繋ぐなど恋人同士の行動が色っぽいとテンションが上がるのでそういう空気が出るような書き方をしたい。


今回は下記の設定でSSを書いてみます。
「陣さんが風呂上がりにあきやんを抱きしめてキスをした」を陣さん視点で。
書いたSSは↓の画像二枚になります。この内容でメイキングをします。

※下記の説明ではSS内の本文を太字にしております。

1.時間軸と場所から言葉を捻りだす

まず、風呂上がりという場面設定から「キャラクターがどういう感覚になっているか」を考えます。
風呂上がりという場面でも、夏と冬では感覚が全然違うと思います。冬なら気温が寒いので「芯から暖まった」「寒さで固まっていた体がほぐれた」などの感覚になると思うのですが、夏なら気温が高いので「お風呂に入ってさっぱりしたけど、風呂から上がったらまた汗が出てきた」などになるのではないかと思います。

流れたはずの汗が滲み出る。バスタオルで拭いても、温まった体の中の熱は早々に冷めそうにない。
↑今回のお話は夏なので、さきほどの夏の感覚を軸に書きます。芯から温まっている→湯舟に浸かっているという隠喩ですが、今回は特別その状況を伝えたい訳ではないのであえて深く書きませんでした。芯から温まるとのでなかなか涼しくはならないかと思うので。

2.時間軸と場所からキャラクターの言動を考える

こういう状況になった時に今回の視点である陣さんはどういう言動をするのか。私の中でパジャマやスウェットを着ずにパンイチになるな…と思ったのでそうします。パンイチでお風呂から出てきた陣さんを見たあきやんは、まただらしない恰好をして、と怒ります。お小言絶対に言う。
このあきやんが怒ることを十二年付き合っている陣さんがすぐに予測すると思うので、この一連の流れを続けて書きます。

洗い立てのスウェットを放り出して、リビングにでも直行しようものなら、積み上げた文庫本を読んでいるであろうお目付け役は即座にその目尻を吊り上げるんだろう。
↑スウェットを着ないことを放り出すと比喩しています。前後の流れで意味が伝わればええやろぐらいのテンションです。途中で今まさにあきやんがしていることを断定的な書き方で挟むと、陣さんがお風呂に入る前から本読んでたんだなっていうのが分かり、書き出しの前の世界が垣間見えるので、より日常の一部のお話なのが伝わるかなと。ラストは怒るという表現を慣用句で書き換えてます。

怒られる予測を終えた陣さんは次はどういう言動をするのか。多分まぁいいやの一言で片づけてパンイチになると思ったのでそうさせます。

毎年訪れる暑中見舞いなものだということにして、下着だけを履いて、脱衣籠にかけられていたタオルで粗方乾いた髪を搔き乱して、丁寧に畳まれたそのスウェットをわしづかむ。
↑陣さんがだらしないのもその事にあきやんが怒るのも、あきやんのお小言を陣さんが聞き流しているのもいつもの事だろうなと思ったのでそれを含ませました。毎年夏頃に届けられるもので思いついたのが暑中見舞いとお中元なのですが、お中元みたいな喜ばれるものではないし、風物詩的な意味合いで暑中見舞いを採用しました。
あとタオルやスウェットを陣さんが自分で用意しなさそう(あきやんが用意してそう)と思ったので、脱衣籠にかけられていた、丁寧に畳まれたという他人にしてもらったという表現にしました。あと身の回り全般を雑に扱いそうなので、雑な扱いに取れる動詞を使ってます。

3.場面転換する

扉を開けただけで逆戻りしたくなるような廊下ではもう無くなった。
↑脱衣所から廊下を通ってリビングに移動します。冬場だと廊下に出ただけで寒い!と震えたりもう一回お風呂入りたいと思ったりしますが、夏場だとそんなことはないのでそれを描写します。ここも~するようなという比喩にしました(好きなので)

何食わぬ顔で思いっきり開けた扉に、案の定本を片手にしていた眉間が思いっきり歪む。
↑先に描写してたパンイチで堂々とリビングに入る様を書きます。本を読んでいたけどお風呂から上がってきた陣さんを見るとなると手に持ってるだけになるのでそういうのが伝わればいいなという感じで。パンイチで出てきた陣さんを見てめっちゃ機嫌悪くなった所を『眉をひそめる』という慣用句を崩して『歪む』にし、『思いっきり』を付け足しました。

4.そのまま続ける

「何でそんな恰好なんですか」
「暑いじゃん」

↑頭の中の陣章が勝手に喋ったのでそのまま採用。

平然と口にすれば盛大な溜息が落ちていく。
↑陣さんがどうせ注意されるのは分かっていたので堂々と理由を述べる描写を。いつも自分が注意しても言うことを聞かない陣さんに対して呆れるあきやんの様子を続けます。

あきやん着せる?馬鹿言わないください。相変わらず思い付きの軽口には手厳しい。まぁ思い付きじゃなくても、茶化すようなこの口振りに返ってくるのは、往々にして真面目な回答なんだけど。
↑これも頭の中の陣章が勝手に喋ったので採用。「」付の会話にしなかったのは、「」付の会話にするほどのやり取りじゃないなと思ったので。茶化す陣さんとそれに返事するあきやんの、いつもの事という感じを出したかったので、地の文に混ぜました。続きはそのいつもの事を補足するようなテイストで。

「汗がさぁ、出てくんじゃん」
「まぁ気持ちはわかりますが」

↑頭の中の陣章が勝手に喋ったのでそのまま採用。

そう言いながら、テーブルに置いた文庫本にかけられたカバーは、こいつがよく行くデパートのもので。なるほど一冊は片したらしい。
↑あきやんが持っている物がどういう物なのかという経緯を入れると話の中の日常に奥行きが出るかなと。今回文庫本にかけられたカバーが、陣さんがお風呂に入る前の物とは違うという意味合いを書かずに一冊読み上げたと表現しました。書かない方がテンポがいいなと思ったので。

お風呂いただきますよ。背中越しにすり抜けようとした、薄着になった肉体は、引き締まった感触が鮮明になる。
↑『夏という季節の中で』抱き締める行為を強調したかったの。暑くなってるのであきやんも薄着になったのと、陣さんがパンイチなので、抱き締めた時に肌やその肉体の感触が他の季節より分かりやすいだろうなと。あと会話の途中で文庫本を見つめてる陣さんの後ろを通ってしれっとお風呂に入りに行くあきやんに『熟年夫婦み』を出したかったけど出せてなかったらそれはそれでいいかという感じです。

「…暑いんじゃないんですか」
「いやぁあきやんがそこにいたから」

↑頭の中の陣章が勝手に喋ったので以下略。

何ですかそれは、と理由になっていない口答えに、返ってくる呆れは心底から出てきたものではない。それくらい、知っている。
↑暑かったら普通はくっ付かないと思うんですけど、陣さんがあきやんに抱き着きたいと思ったら適当な事言いながら抱き着きそうで、あきやんはそれを分かってそうだなと。呆れてるのはいわば建前だと可愛いなと。あきやんが陣さんに抱き着かれて嬉しくない訳がないなという妄想。
暑いからパンイチになってるのにくっ付いてきたから何故?と聞き返したあきやんへの回答が、『あきやんがそこにいたから』じゃ理由にならないと思うのでそれを書き、お風呂に入ろうとしているあきやんに逆らってるので『口答え』という言葉が浮かびました。
あきやんが話すことが本気なのか建前なのか全部分かってる陣さんが好きなので、返ってきた呆れが本音じゃない(心からの言葉ではない)ことを書きつつ。心底を選んだのは『心底呆れる』という言い回しから。

寒かったらそれが口実になる。暑かったら、屁理屈でも捏ねればいい。
↑陣さんに明確な理由がない時はよく屁理屈を言ってそうなので。『捏ねる』を選んだのは『言う』という単語より考えてる感じが出るかなと思って採用しました。

腕を回した背中は初夏に連れられた体温を纏って、重ねた唇が、ほんのりと冷たいままで。
↑抱き締めた、生地の下にある背中が、夏なので暑いと感じるのと、冷房が効いた部屋に晒されてるので少し冷たくなった唇の対比を。そんな明確に体温違うか?と思いましたが、まぁその話はこういうことにしようと。

燻された柔らかなコクが、晩酌で濡らしたウイスキーが仄かに香る。濃いめと普通。ロックグラスに注ぐにはまぁ不釣り合いの、氷と水割り。
↑お酒って匂い然り味然りなかなか取れないと思うのですが、私だけじゃないはず…。キスした時にお風呂に入る前の晩酌に飲んだウイスキーが香ったらエッチだなぁと思ったのでそのまま書きました。ウイスキーなのは私が好きだからです。ウイスキーの味の説明(私が感じてる感想)を書いて、晩酌をしたというより(舌や口を)『濡らした』と表現した方がエッチかなぁと思ったのでこちらを採用しました。濃いめと普通はウイスキーの量。ロックグラスは普通ロック(氷とウイスキーだけを注いだもの)を飲む時に使われるのですが、今回日常の二人の晩酌ということと、陣さんはその辺無頓着そうなので陣さんが作ったということでロックグラスに水割りを入れたよと言うことを書きました。ここ多分伝わらないけどまぁ良いかなと。

「風呂あがったらもうちょっと飲もうよー」
「…一杯だけですよ」

↑頭の中の陣章が勝手に喋ったので以下略。

お前の好きな銘柄を、こっそり買ってきた甲斐があったとほくそ笑んだ顔は、見せないようにしよう。
↑あきやん、お風呂入ったら飲まなさそうと個人的に思うのですが、好きな銘柄には多少は弱いと可愛いなと。それを分かってて買ってくる陣さんのずる賢さを書きました。何か企んでた顔が見つかるとあきやんに即刻バレると思うので、その顔は見せないようにするかなと思ったのでそれも付け加えて。
書いているうちにこの辺りで終わろうと思ったのでここで終了しました。

おわり

分析するためにSSを解体して説明文を書いてみましたが、多分こういうことだろうな…と思いつつ、無意識で書いている所でもあるので説明が曖昧なところもあるかと思います。
今回はメイキングに使ったSSを突発的に書いたのでどうしてもここが伝えたい!という部分が特になく「伝わらなかったらまぁええか」が多い。
自分が書いている内に話の核となる文章や台詞を思いつくので、もし機会があればそういうお話でもメイキングをやってみようかなと思います。

最後に、自分が過去行っていた文章力の鍛え方というか、文章が上手くなりたい!自分が好きな文体を書きたい!と思っていた頃に実践していた方法をまとめたプライベッターも置いておきます。

自分で分析してみてわりと面白かったので、色んな方のものも見てみたいなぁと思いました。