ゆきのまち幻想文学賞の記録

雪と幻想の小さな物語です。ビターからハートウォーミングまで、ふり幅が大きいですが、「利き蜜師物語」シリーズがお好みの方→『メロディ』『春の伝言板』、「眼球堂」があう方→『春夏秋冬』が、作風の目安です。

20回佳作『スノードーム』10枚
(「ゆきのまち幻想文学賞小品集20 もうひとつの階段」に収録)
 若くして亡くなった母が美砂に残したスノードームは、魔物との契約の証だった。美砂が16歳になった冬、彼女を花嫁として異界へ連れ去ろうと、魔物がやって来る。

22回長編入選『メロディ』30枚
(「ゆきのまち幻想文学賞小品集22 大きな木」に収録
 あずみは河童の娘。かつて奪われた母の手を取り戻す為、人の子に姿を変えて通う学校で、音楽教師佐々木と出会う。彼の一族は河童に祟られており、佐々木もまた動かぬ左手を抱えていた。その時、あずみの母が残したメロディが……

23回準長編賞『春の伝言板』30枚
(「ゆきのまち幻想文学賞小品集23 とんでるじっちゃん」に収録)
 小さな駅には駅長さんと手のひらに乗るほどの小さな魔法使いが暮らしていた。今では誰も見向きもしない古い伝言板にある日、避難所で暮らす女の子が、こんな言葉を残していった。「はるへ 早くきてください ちせ」。駅長さんと魔法使いは、女のこのために「はる」を探そうとする。

25回長編賞『春夏秋冬』30枚
(「ゆきのまち幻想文学賞小品集25 小さな魔法の降る日に」に収録)
 クローンナニーのカウンセラーである「私」は、担当するナニーの死期が近いことを知る。誕生した子どもから作り出されたクローンナニーは、オリジナルが子守を不要とする頃に、その生涯を閉じるのだ。オリジナルを「かわいい」と感じなくなる。それが終わりの始まりだった。春、夏、秋、そして冬。ナニーの最後の望みは、降る雪に抱かれることだった。

佳作『最後の授業』10枚
 学校教育はPCを使った個人学習が主流となり、僕の学校ではカード教師システムが試験運用されていた。教師はカード上のデータ、単なる記号であり、そこに人と人のふれあいはない。だが卒業間近なある日、トラブルに巻き込まれた僕を迎えに来てくれたのは、実体を持たないとされていた「僕の先生」だった。

26回入選『五月の香る雪』10枚
(「ゆきのまち幻想文学賞小品集26 冬の虫」に収録)
 ブラック企業に勤める俺の布団には、もうずっと、季節はずれの雪が降り積もる。体が重く起き上がることが出来ない。そのまま目覚めなければ命を落とすだろう。幻覚かもしれないが、俺の父親は事実、その雪に押しつぶされ死んだのだ。

27回佳作『月球儀』10枚
(「ゆきのまち通信 174号」に掲載)
 幼い息子を事故で亡くした私は、雪の夜の縁日で「月球儀」と言う不思議な球を手に入れた。小さなのぞき穴から見ると、球体の中には私の街があるのだった。かつての、息子が生きていた時の街だ。私は息子の姿を探す。けれど、月球儀は月の満ち欠けに支配され、新月の夜、のぞき穴は消えてしまう。私は月球儀を売る男に、自分も球の中に入れてくれるよう訴える。

28回入選『蒐集家』10枚
 落ちぶれた探偵は、老作家のゲームに付き合っている。一冊の推理小説を前に、どちらが多く作品の瑕疵を見つけ出せるか競うのだ。こきおろされた作品は、老作家のコレクションに加えられる。だがある日、渡された小説に、探偵はいかなる瑕疵も見つけることができなかった。

29回長編佳作『夢の囚人』30枚
(「別冊 ゆきのまち通信」(非売品?)に掲載)
 世界から隔離された第七刑務所には「夢の囚人」と呼ばれる一人の男がいた。凶悪殺人犯である彼は夢を見る才能に恵まれ、その夢は商品として売られている。彼の罪を知らず、世界中の者たちが、最上の夢、生きる力を与えてくれる夢を求めていた。


幻想文学賞小品集は現在のところ26回まで出版されています。(ISBNコードもあるので注文可能なはず)。27回以降の作品集も、いつか出ることを祈っています。品切れの巻も含めて、電子書籍にならないかなあ。