見出し画像

27

美容院を予定していた2日前の朝、数年変わらずにいた髪の分け目が突如真逆になった。
するとどうだろう、内向的な性格だった私が堰を切ったように饒舌となり、友好的になり、必要な場面では対立も厭わないような堂々とした立ち振る舞いをする。異性の扱いはおてのもの、喜怒哀楽に忙しく、たまに羽目を外し、可愛らしい失敗をして場を和ませる。果たしてこの姿が理想かと言えば、それはまた別の話。
もちろんここまでのほとんどがうそ。
結局のところ美容院では「どこにでも分けられるようにしますね」と察していただき、“遅れた反抗期”に倣って明るくしてもらった。

2年2ヶ月前に更新したnote『僕は、大人になれない』を書いた当時と変わらず、もしくはそれよりも荒んだ状態でいる私はいまだに何も見つけられていない。何に悩んでいるのかも、何に躓いたままなのかもわからず、どす黒いわだかまりが居座り続けている。
助けを求めれば「どうすることも出来ない」、「では黙認して我慢し飲み込んでくださいということですか」と尋ねた返事は確かにもらったはずだが、一切に納得できなくて忘れてしまった。
あれからしばらく経っているので、どうやら世界の目線からすると既に解決した問題となっているらしい。
問題は起こさないに限る、納得出来なければ黙って飲み込めばいい。そうだろ。そうなんだろ。

好きな歌手の新しいアルバムを1度聴き、その直後12年前に出したアルバムを聴いた。馴染むまではしばらく時間がかかるようだ。
好きだったバンドの名前で検索した。新譜が3年前に出ていたらしい。
むかし観に行ったバンドの名前で検索した。3年半前に改名し、2年前を最後にSNSは更新されていなかった。もちろん新曲は出ていない。まるで私と同じだな、と鼻で笑ってやった。

どんなに辛くても、反論出来ると思い込んで武器を集めるのが楽しくて仕方なかった仕事にも興味が薄れてしまった。武器に詰める火薬は握りしめ続けたせいで湿気て撃てなくなったようだ。いつしかセーフティバーの解除方法も忘れてしまうのだろう。
モチベーションなんかない、ただ惰性でやるだけだと語っていた先輩はいまでも尊敬している。
他人が余計に垂らした汗水の塩を含む土に種を蒔く仕事をするくらいなら、さっさと家に帰って自炊するし、部屋の掃除をするし、愛情込めただけきちんと育つ観葉植物に水をやる。
もし泣く日があったならば、植木鉢に涙を落としてやるのが飼育係の役目だ。
もう対話すらしなくなったことを当人以外は知らないだろうし、この環境においてはそれが上手くいっている状態と呼ぶようだ。

以前書いたnoteで、自分と自分を監視する私がいるといった話を書いた覚えがある。それはいまも変わらない。
この2年で変わったことといえば…、以前よりも死が近くなったと感じている。
ただ、世間で事件を起こす“無敵のひと”とは違って失うものがあるだけ、まだ自ら終わらせたいという感情にならないことだけが救いだろう。
それでも同じく迎えがきたら「あーあ」と言いながら未練もなくぱたと倒れられる。

非常に下品な話だが、最近は意図して本能的に動くことも増えた。考えるのをやめる、といちいち考えそして踏み込む。
極端な話、自ら死ぬくらいならやってから死を選んでみたら、というトレードをよくおこなってきた。
結果だいたいが良い思いをしないので「苦しくていますごく生きているな」と感じることが出来た。
本能的に動く人間を散々軽蔑してきて、いざ自分がそうなることにより直観が正しかったことの証明になってもちろん後悔したが、勝手に疎かになる五感のぜんぶで“生”を感じるためには、このくらいが自分にとってはちょうど良いようだ。なんとも皮肉が過ぎる話である。
基本的に自分がおかしいか、極端におかしい環境に飛び込んだせいで正常な自分だけが相対的におかしい側になるような場面にしか遭遇しないために、人間との関わりを減らすことが正解に思えてきてしまう。おかしいと思う環境に居る時間が長いと正常なほうにも合わせられなくなってくる。
正常って、普通ってなんだっけ?

最近読んだ本から文章を紹介したい。


思い出になっちゃえば、もう傷つくことも、人から笑われるような失敗をすることもない。思い出になって、人を支配しようとしているんだわ(中略)
死者は卑怯なのよ。だからあたしは死んだ人をがっかりさせてやるの。思い出したりしてあげない。心の中から追い出して、きれいに忘れ去ってやるの。

中島らも『今夜、すべてのバーで』


飲酒は慢性自死と言われ、さらにはそれに自覚があったために心に刺さった。行きつけの店やよく会う顔見知り程度のひとに覚えられるのは苦手な私だが、もっと大切な距離にいる死んでもずっと忘れないでいて欲しいと思う人間がいるのも、傲慢ながら事実だ。
死が悲しいのではなく、死はもう何も生まれなくなると決まるから悲しい、これだけは確実に言えることだろう。
いまでもたまに、意味もなく自分の書いた文章を読み返したくなるときがある。

数年前、もう連絡を取らなくなった友人から言われた言葉を載せても時効かな。誰かにとっての救いになれば私だって嬉しい。
…と思ったらデータ無くなってた。笑
“綺麗なものだけが綺麗じゃなくて、汚いと思う感情もぜんぶ綺麗だよ、人生は綺麗だよ”って言ってくれた子がいた。いつまでも覚えているよ、ありがとう。

この前好きな歌手のライブに行ったら、たぶん気のせいだろうけどこっち見て手を振って(ちゃんと楽しんでる?)といった素振りを見せたあとに、ふと一瞬悲しむような顔を見せてからMCでこう語っていた。
「生きていれば嫌なこととかたくさんあるだろうけど、今だけは一旦ぜんぶ忘れて楽しんでって。それで、辛くなったら今日のことを思い出してまた会おうね」

もうすぐ27歳になる。あっという間だね


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?