チノニナ前日譚

注意⚠️⚠️
CHINO・NINAメインでシリアスめなVALIS二次創作です。過去編です。

オリジナル設定あり、そこ以外も公式設定と差異があるかもしれません。解釈違いとかも気をつけて。
また、展開の都合上メンバーの身内、家族が酷い発言をするシーンがありますが、実際はそんなことないはずなので、あくまでこの創作ストーリーの時空のみの出来事として受け取ってください。

良ければどうぞ↓↓↓

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深脊界の一角に佇む中華料理店「瓦利斯飯店」。ここでは、様々な中華料理を楽しみながらアイドルグループ「VALIS」のショーを観覧することが出来る。
瓦利斯飯店では、6人のVALISメンバーがショーのみならず、ウェイターや料理人も担っている。そのため繁忙期ともなると食材の仕込みや明日のショーの確認などで、夜遅くーー深脊界は常に夜だが、それでも夜と深夜の区別はあるーーまで家に帰ることが出来ない事も珍しくない。
そんな時のために瓦利斯飯店の2階には簡素な居住スペースがあり、狭くはあるがベッドやシャワーが敷設されているため、余程帰りが遅くなる時は宿泊をすることが可能となっている。

繁忙期のある日だった。配達担当のメンバー、ニナは遠方までの配達が連続してしまい、上がりの時間がかなり遅くなってしまった。
誰も居なくなった瓦利斯飯店の扉を開け、入口から1番近い机の上に、空の食器が沢山入ったおかもちを置き、それから椅子に腰かけて一息ついた。

ーーこれから洗い物か…今日はお店に泊まろうかな

ニナの家は決して今からでも帰れない距離では無い。しかし、残りの仕事と疲労感がニナから帰宅の意志を根こそぎ奪い取る。

ーー正直めんどうだけど、そのままにしておく訳にも行かないし、ササッと洗ってシャワー浴びちゃおうかな

よいしょと腕まくりのジェスチャーで席を立とうとしたその時。

「おかえり、ニナ」

居住スペースに続く階段の方から、足音と共に聴き心地のいい優しげな声が聞こえてきた。
声に反応したニナが顔を向けると、瓦利斯飯店の店長代理兼VALISのリーダーであるチノが立っていた。

「あ!ちの!お疲れ様〜!!てっきりチャンニナが最後かと思ってたよ」

「鍵、かかってなかったでしょ?」

「あ、確かに!!」

「私も会計業務で遅くなりそうだったから。せっかくだから待っていてあげようと思ってね」

「チノ先生…!優しい〜!!チャンニナポイント10点!!」

「ふむ…そのポイントが貯まると良いことが起きるのかい?」

「ポイントに応じて、チャンニナを独り占め出来るぞ!」

「ふふっ、それは頑張って貯めないとだ。どれ、洗い物はやっておくからニナはシャワーを浴びるといい」

「え、それは流石に悪いよ…チノも疲れてるでしょ?」

「良いから良いから。それよりも明日のレッスン眠そうにしていたら、またララの雷が落ちるよ。私はもう寝るだけだから、シャワー浴びといで」

ニナはチノにチャンニナポイントを100点進呈し、シャワーを浴びるため居住スペースに続け階段を登っていった。

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ーー

シャワーを浴び終わったニナは、チノの様子を見に、階段を降りて店舗スペースを覗いたが、そこには綺麗に洗われた食器が乾かされているのみでチノの姿はなかった。

ーー流石チノ、テキパキしてるなぁ。シャワー浴びてる時間、そんなに長くなかったはずなのに…

まぁ、気を使わなくて済んだかな。とニナは心の中で付け加えて居住スペースのベッドのある部屋へ引き返した。

ーーー
ーー





ニナだっけ?少し可愛いからって調子に乗っちゃってさー!

ーー違う!そんなことない!


アイツに関わると男盗られるらしいよ

ーー私じゃない!そんな事してない!!



調子乗ってる                   可愛こぶっちゃって何様??          持って生まれた子は違うよね        そうやって何人も落としてきたんでしょ?          人生楽そうで羨ましいわ〜!         私の気持ち考えたことある??         正直痛いよね〜

ーー嫌!!

ーー止めて!!


「うるさい!!!!黙れ!!!!!…はっ…はぁ…はぁ…夢?」

夢を見ていた。何年か前の記憶だ。ニナが、6人が深脊界に来る前、VALISになる前の記憶。

それらがフラッシュバックして襲ってきた。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

汗が凄い。息も上がってる。

何より、うなされながら全身を掻きむしっていたようで、所々破れた寝間着用のTシャツと手のひらに血が滲んでいる。その一方でニナ自身の身体には傷一つない。深脊界に来る時に得た「力」で外傷は跡形もなく、瞬く間に回復してしまうのだ。
深脊界に来て日も浅い頃、メンバーの1人と文字通り手が出る程の言い争いをしたことがあった。その時、相手の爪がニナの顔に深い傷をつけたが、一呼吸置く頃には元の顔に戻っていた。傷一つない、世界一かわいい顔に。

「…水、飲もうかな」

誰に聞かせる訳でもない言葉が、静寂にかき消される。

ニナはゆっくり立ち上がり、店舗スペースへと歩みを進めた。

階段に差し掛かったところで、ニナは店舗スペースの電気がついていることに気がついた。もしかして、消し忘れてたかな?と思いながら階段を降りていくと、カウンター席に見慣れた人影があることに気がついた。

「チノ?起きてたの?」

ニナは後ろ姿のチノに疑問の声を投げる。

「うん。ちょっとね。ニナもそろそろ来る頃だと思ったよ。凄い声が聞こえてきたから」

「うぁ…まぁそうだよね…聞こえてるよね」

ニナは赤面しつつも、チノの方に顔を向けると彼女の目元が少し腫れていることに気がついた。チノもチノで眠れない理由があるのだ、とニナは気づいたが、あえてそこに触れるような事はしなかった。

この世界に来る選択をした者、特にVALISの6人は「元の世界」ではいわゆるワケあり。表向きは深脊界をエンジョイしているように見えても、それぞれが抱えている闇は、本人以外に推し量ることは出来ない。

それゆえ、個々の事情について特段探るようなことはしない。それが暗黙の了解となっていた。

「少し、2人でお話ししない?」

そう言って、ニナはチノの横に座る。

「そうだね。実を言うと、私もニナと話したかった。『昔』みたいに」

「こうして2人でいると、色々思い出すよね」

「流石に、こんな夜中まで2人でいた事はなかったけどね」

「いやいや!一回だけあったじゃん!忘れないでよ!あの時ーーー」

ーーー
ーー

‪✕‬年前。10月某日の朝

感覚でいえばとっくに秋も終盤だと言うのに、空から照りつける太陽は夏と変わらず、朝日ですらチリチリと肌を焼く。地球が季節というものを放棄したのではないか、と思えてしまうような陽気、その直射日光を浴びる校舎があった。

とある教室の中は、志望校がどうとか部活を引退してやる事が無くなっただとか、推薦が決まっただとか、いかにも「高校三年生の秋の会話です!」といった話題に支配されていた。

その空気の中、一人だけ黙々と電子工作の書籍に目を落としている少女がいた。

「そういえば、今日転校生来るらしいよ!!」

「まじ?男子?女子?」

「女子!女子!しかもモデルやってるらしい!!」

電子工作の書籍を読む少女は、浮き足だつ周囲の会話を微塵も気にとめず、小型化した赤外線センサーを、作成途中のヒトデ型ロボットにどう着けるかという事で頭がいっぱいだ。

ーーやはりここは中心にセンサーをつけて、天球のように周囲を知覚させて…いや、そうなると必要個数が増えるから小型化の利点が打ち消されてしまう。

ーーそうじゃないな、小型化したからこそ従来の面積にセンサーを複数個詰めるわけで…

ああでもない、こうでもない。もしかしてこれが、いや違う。

こうして自分の思考と対話をして、作業場で答え合わせをする。これが電子工作の書籍に没頭する少女、もとい千乃(チノ)の趣味である。

ーー機械は良い。人間相手と違って、機械は嘘をつかない。ゼロはゼロだし、TrueはTrueだ。詮索も空気を読むことも、ご機嫌取りも必要ない。機械は嘘をつかないから私も嘘をつかない。

千乃は作業場に置いてきた愛しのロボットを思い、ページをめくる。

「………………です!今日からよろしくお願いします!チャンニナってよんでくださーーい!!」

教壇から放たれた声に、千乃は思わず目を向けた。
鈴を転がしたような楽しげな声だった。

ーーホームルーム、始まってたのか。

チャンニナと名乗った転校生は、担任の先生に促され今日のために追加されたであろう空き机に荷物を置いて、わたわたと荷物をしまい始めた。

ーーそれにしても3年生のこんな時期に転校生とは、大変そうだ。まぁでも、私とは関わりがなさそうなタイプだし、別に気にならないな。

「はい、じゃあホームルームは終わりな。受験前の大事な時期だから、気を抜くなよ」

担任は、いかにもな台詞と共に教室を後にする。

千乃は名残惜しいが、書籍に栞を挟んで手下げにしまい、一限目の準備を始めた。

ーーー
ーー

転校して初めての昼休み。先生も教科書もクラスメイトも、何もかもが初めての教室は意外と疲れる。今まで経験してきた進学やクラス替えとは違って、この空間が初めてなのは自分だけ。

となれば当然…

「ねぇ!モデルやってるって本当??」

「彼氏は?いるの??ねぇねぇ!ニナちゃんて呼んでいい??」

「すらっとしててスタイルいいよね〜!ハーフ?」

「なんで転校してきたの??」

「お昼一緒に食べようよ!!」

ーーうおおお、これが転校生が受ける洗礼か…

二奈(ニナ)の周りには、受験期で刺激に飢えた生徒たちで人だかりができていた。
特に「モデル」という肩書きは男女問わずお年頃の高校生の興味を引くのには十分だったようだ。

ーーそうだ、質問に答えなくては…

「そうだよ〜!一応モデルかな?バイトというか、ホントに名前が乗る時の方が少ないくらいだけどね…あとは、えっと…こっちに元々住んでて、でも、モデルの事務所がこっちにあったからで…そう、それで前の家の近くのアパートにね…」

ーーあわわわわ、混乱するなぁ。あとは何聞かれてたっけ?ご飯のこと?…だめだ、思い出せない。仕方ない、奥の手を…!!

「そうだ!このクラス座席表とかってないの?チャンニナ友達100人作りたいから、まずはクラスメイトをコンプリートしちゃおうかな〜、なんて…」

ーーこれで話逸れる??

二奈の作戦は半分成功と言ったところだろうか。確かに質問攻めは終わったが、今度はクラスメイトによるエンドレス自己紹介タイムに入ってしまった。

実の所、二奈は元々今のように明るいキャラではなかった。特別暗いわけでもなかったが、良くも悪くも「普通」で「目立たない」お行儀のいい子、自分の長所を聞かれたら「真面目な所」としか言えない、そんな感じ。
今のキャラになった、正確には今のキャラを使い始めたきっかけと言えば、モデルにスカウトされたことだった。
コンプレックスだった背の高さが、ここでは武器になる。真面目で目立たない女の子だった私が活躍できる場所、それがモデル活動だった。ありがたいことに、怪しげな仕事もなく、本当に楽しんで活動が出来ていた。
しかし、進路を考える歳になってから、少しづつ焦りと悩みが出てくるようになった。専属でモデルを続けるべきか、大学に行きながらモデルを続けるか、進学と同時にモデルを辞めるか。
二奈自身にはモデルを辞めるという選択肢は無かったが、将来を案じた両親にモデル活動の継続を反対された。
当然二奈は食い下がった。結果、家族会議を経て二つの条件が課された。

ひとつは「大学に進学すること」

こちらは問題じゃない。元よりそのつもりだったし、元来の真面目な性格もあって難関大学でなければ、今のままの学力で十分進学できるだろう。

そして、二つ目の条件。こっちが二奈にとって鬼門となる。

「高校生の間にモデルとして結果を出すこと」

これが出来なければモデル業はすっぱり諦めて、大学に進学し地元で就職する。という条件が二奈の心をじわじわ追い詰めていた。

そして高校三年生になった頃、二奈は「明るい性格になった」。モデルとして仕事を貰うために、現場で見かける有名モデルの真似をした。その方が、偉い大人達に可愛がってもらえるから。元々の二奈を知る人たちからは驚かれたが、悪い方向に向かった訳では無かったため、受け入れられるのに時間はかからなかった。と同時に、同年代のモデル仲間からは少し嫌われてしまった。「あいつは媚びを売り始めた」って言われ、影で後ろ指をさされるが増えたがモデルを続けるためには気にしていられなかった。

二奈の「キャラ」が定着して少し経ったある日、彼女の元に大きなチャンスが舞い込んできた。二奈の所属する事務所は毎年、ファン感謝祭を開催しており、名物企画の一つに若手のモデルを何人かステージに立たせ、歌ったり踊ったり、要するにアイドルのような事をする、というものがあるのだが、そのメンバーに二奈も選ばれた。

ーー頑張って掴んだチャンス、絶対離さない!ステージが盛り上がればきっと、パパとママもモデルを続けること、認めてくれる…!と思ったんだけどなぁ。アイドルの真似は止めろって言われちゃった…


「チャンニナ!早くご飯食べないとお昼休み終わっちゃうよ!みんなも、転校生が珍しいのは分かるけど初日から疲れさせんな〜!」

クラスメイトの言葉で、二奈は思考を引き戻された。

「…あれ、もうこんな時間か!お昼食べないと!みんな色々聞いてくれてありがとう!!明日までに名前覚えてくるから〜!」

そんな二奈の言葉に、クラスメイトは「明日までに全員は無理くね〜?」「そんじゃ明日テストな!」「チャンニナいい子すぎるー!」と思い思いに言い残し、自分の席に戻っていった。

ーーーいい子、、か。


ーーー
ーー


10月にもなれば日が短くなったことを肌感覚でも十分知覚することが出来る。
夏は帰りの時間も日が差していた駅のプラットフォームもすっかり夕日の影になる。

改札から1番遠い車両の停車位置、千乃は定位置に立ち電車を待つ。

ーー転校生というものはそんなに珍しいだろうか。

千乃は思う。

ーー確かに、遭遇率という点で言えば巡り会う事は多くは無い。

ーーしかし、転校生といえど同じ高校生だ。物珍しい生き物や有名人では無い。

ーーあんなに、騒ぎ立てる程のことなのだろうか。

千乃の思考は皮肉や嫌味でなはい、純然たる疑問だった。が、それを声に出せば角が立つことは想像にかたくない。

結果、千乃は昼休みの間に、話に混ざる事や聞き耳を立てることをせず、喧騒を耐え書籍に目を落としていた。

ーー明日か明後日には、気にならない程度の雑音にまで落ち着くだろう。そんなことよりも…

千乃は珍しく「ワクワク」していた。
朝、書籍で目にした小型センサーが学校から数駅先の場所にある電機屋に置いてあるらしいのだ。作業場の上に待っている愛しのヒトデロボに、またひとつ新機構を追加できる。

想像しただけで口角が上がりそうだ。

家の方向とは逆だが、そんなに遅くならなければ家族に心配をかけることはない。

~~数時間後~~

ーーしまった。少し道に迷った上に夢中になりすぎてしまった。

千乃は方向音痴と言うやつで、初めての場所は大抵迷う。スマホのナビゲーションに従っても何故か迷う。機械は得意なはずなのに、なぜかそこだけは苦手だ。

電機屋には閉店間際に駆け込むことができ、目当てのものを手にすることは叶ったものの、腕時計の針は21時を指している。

ーーこれは、帰宅後お叱りコースかな。まぁ、いいや。

千乃の両親は若干過保護の傾向があり、帰りが遅くなったり、メッセージアプリの返事が遅いと過剰に心配される。千乃は少しばかりうんざりしていたが、それも愛情だから、と自分に言い聞かせて耐えていた。

ーーそれにしても、駅はどっちだろう。時間も時間だし、もう人の流れもまばらだな。

心なしか同じ道をクルクル行ったり来たりしているような気もする。スマホ
の充電も少なくなってきており、さすがの千乃にも焦りが見え始める。治安が悪いわけではないが、この時間に一人で(しかも制服で)出歩くのは少々恐ろしい。悪事に巻き込まれることはなくとも「ヤバい人」はどこにだって、いるときはいるのだ。

と住宅街の曲がり角をうろうろしながら早数分、そんな折、千乃は数メートル先に同じ制服を着ている人影を見つけた。
こんな時間に同じ学校の生徒…。もう恥を忍んで声をかけよう。
タタタっと駆け寄り、申し訳なさそうに声をかけた。

「あの…」

制服の人影は振り返り、私の名前を口にした。

「あれ??確か…千乃ちゃんだよね?」

「あ、えっと、はい。え?」

千乃はその顔に見覚えがなかったのだが、相手は旧知の仲のように話してくる。

「私!私!今日同じクラスに転校してきた、チャンニナ!!」

「・・・・・?」

「あれ・・・・?人違い・・・・でした?」

「・・・・あ、思い出した。朝から楽しそうだった二奈さん。」

「そ、そうそう!あ~よかった!人違いだったらチャンニナめっちゃ恥ずかしい奴になっちゃうところだったよ~。」

ふぅ~、と大げさに額の汗を拭うジェスチャーをする二奈。

「てか、二奈ちゃんかチャンニナって呼んでよ〜友達じゃんか〜」

「えと…じゃあ二奈ちゃん、で」

「…で、千乃ちゃん、こんな時間にどうしたの?」

怪訝そうな顔の二奈に、千乃は事情を話し始める。

「あの、恥ずかしながら、道に迷って・・・・・

ーーー
ーー

数分後、二人は駅前のハンバーガーチェーン店で、向かい合いながらポテトをつついていた。

「しなしなポテトとサクサクポテト、どっちが好き?私はしなしな派〜!」といいながら二奈はポテトを選別しつつ適度に口に運ぶ。

「あの…駅の近くまで送ってくれてありがとう。私はこれで…」

「えー!せっかくだから一緒に食べようよ〜!サクサクポテトは譲るからさ〜!!!」

「うぅ…」

ーー正直気まずい…私とは正反対というか、今まで相対したことの無いタイプだ、なんというか眩しい…

千乃の思いはつゆ知らず、二奈は話し続ける。

「千乃ちゃんは今日はバイト…のわけないか、バ先からの帰りに迷うとかありえないもんね」

「ちょっと欲しいものがあって、ね。それで、買い物を…」

「へぇ〜そっか!もしかして、なんか機械みたいなやつ?」

言い当てられ、千乃は少しギョッとした。

「なんで分かったの…?二奈さ「二奈ちゃんね」…二奈ちゃんは今日転校してきたばかりだよね?」

「だってさ休み時間、機械の本読んでたよね?チャンニナアイは鋭いのだよ」

フフン、とドヤ顔をする二奈

「そっか…」

ーーう…会話が途切れた

千乃はあるトラウマから、人と親しくなる事、友達になることに苦手意識を感じている節がある。失礼にならないよう、距離をたもちつつ、恐る恐る言葉を選ぼうとすると会話のテンポが悪くなることが多い。

「ちなみに私がここにいる理由はね!バイト…っていうのかな?噂になってるの聞こえちゃったから隠すつもりはないんだけど、私モデルやっててさ、小さな事務所なんだけど。そこでのレッスンしてたんだ。引っ越してきたのもレッスン場が近い方がいいからだし」

そんな千乃の事を察してか、もしくは単に話したかっただけか、二奈が話題を作る。

「そ、そうなんだ。凄いね。」

「それほどでも〜。最近は歌とかダンスとかもやらせてもらってて、これが結構楽しいんだよね!ストレス発散!みたいな!」

ーー二奈ちゃんはやりたいことをやれてるんだ

「…羨ましいな」

「千乃ちゃんも歌とかダンスに興味あるの!?」

千乃は、しまった!声に出てしまった!と焦るが、言ってしまったものはしょうがない。訂正しなくては。

「あ、いやそうじゃなくて、好きなことを全力でやれるって羨ましいなって。私、機械いじりが好きなんだけど、お父さんとお母さんから女の子らしくないから辞めなさいって言われて、喧嘩しちゃうんだよ。だから羨ましいなって、思って…」

千乃はふと気がついた。ほんの一瞬だけ二奈の顔に影が落ちたことに。

「…でしょ?チャンニナは自由なのだ!!」

しかし、瞬きの間にいつもの二奈に戻っていた。

「そう、だね」

ーー見間違えだったのかな?

「そういえばさぁ、千乃ちゃんは喋るネズミに会ったことある?あ、夢の国の話じゃないよ!ちょっとリアルな方で!」

「…??ミ〇キーは小さい頃見たことあるけど、リアル?な方で喋るネズミは見た事無い、ていうか、ネズミの構造上鳴き声をあげることはあっても発話をする…」

「そ、そうだよね!見たことないよね〜!!ごめんね変な事聞いて!あはははは〜…」

「え、あ、うん」

明らかに二奈の様子がおかしいようなきがしている千乃だが、なにをどう聞くべきか思い浮かばない。

「なんだか、千乃ちゃんて落ち着いてて大人っぽいよね。頭も良さそうだし先生みたい」

「そうかな?ありがとう。あ…」

急に褒められて気恥ずかしくなった千乃がポテトに目線を逃がそうとしたら、既にポテトの大半が無くなっていることに気づいた。
同時に二奈も、あらら無くなっちゃったねぇなどと言っている。

「そろそろ帰ろっか!ありがとね付き合ってくれて!」

「あ、え、、うん。幾ら払えばいい?ポテトのお金」

千乃はカバンから財布をとりだし二奈に確認をする。しかし、

「いいよいいよ!私が無理言って連れてきたんだし、食べたのほとんど私だし!」

「でも…」

「そしたら、またこうしてお話に付き合ってよ!それでチャラね!」

「わかった。そんなことでいいなら。…なんか思っていた楽しかったし」

「あ、千乃センセのデレいただきましたー!!」

「えぇえ!?」

ーーー
ーー

それぞれの家まで行くのには上り下りが反対だったため、二奈と千乃は駅の改札に入ってすぐに別れた。

ーー嫌だな…家に帰るの

二奈は電車に揺られながら鬱々としていた。

「羨ましい、か…」

ーーウソ、ついちゃったな

引越しの理由や、モデル活動がのびのび出来ているとか、色々なウソ。

二奈が引っ越してきた本当の理由は、モデル活動の為ではなく、色恋沙汰の発展から多数の同級生から嫉妬の対象にされ学校に居づらくなったからだ。二奈本人は転校する意思はなかったが、ふと両親に愚痴を零してから、あれよあれよという間に転校が決まってしまった。

生きがいのモデル活動だって本当は反対されている。

ーー千乃ちゃんも、親に反対されているんだ。もしかしたら似たもの同士なのかも。 

「悩んでおいでですねぇ?」

ーーうわでた。

「うわでたとは失敬な!」

例の喋るネズミ。どうやら私にしか見えていないみたいだ。そして、当然のごとく思考を読んでくる。コワイ。こんな幻が見えるほどストレスフルなの?私。

「あなたには天性の才能があります。人を惹きつける特別な才能です。」

ーーだとしたら、前の学校で陰口ばかり言われないでしょ

「妬み嫉みは立派な人気の証です。」

ーーそんな人気、嬉しくない

「ですから、あなたがもっと、真っ当に輝ける世界に招待しようと、こうして声をかけているのでは無いですか」

ーーそんな世界どこにあるの?部活動?習い事?

「いえいえ、世界というのは、そういう比喩表現ではありませんよ。もっとずっと遠いところ…距離ではなく概念的な話ですが」

ーーもういいよ。私は、ここで、この世界でやりたいことがあるんだから

「そうですか。気が変わったらいつでもお待ちしていますよ…といってもタイムリミットは近いですがね」

喋るネズミの幻と脳内で話していたら、いつの間にか自宅の最寄り駅に着いていた。

二奈は重い腰を上げてホームへ降り立ち、改札をでて、普段よりも気持ちゆっくり目に家へと歩みを進める。

二奈は歩きながらふと、千乃の事を思い出した。

転校生の自己紹介に気づかず、難しそうな本を読んでいた少し不思議な子。千乃はモデルである二奈から見ても驚くくらい美人で、全く話さなくても印象に残るほどに二奈の網膜に焼き付いた。

ーー千乃ちゃん、隠れファンの男子めちゃくちゃ多いだろうな〜チャンニナも負けてられないぞ!…なんてね。無理やりテンション上げないと病みそ。

ーーー
ーー

家に着いた千乃は恐る恐る玄関を開いた。

「…ただいま」

時刻は22時をとうに過ぎている。高校生の帰宅時間としては、いささか遅すぎる時間である。

千乃はリビングの扉をゆっくりと開き部屋の中を確認すると、テレビもつけずに席に着いてる両親と目が合った。

「千乃、こっちに来なさい」

「…はい」

いつもより声のトーンが低い父親に呼ばれ、千乃は自分の席に座る。

ーーこれは、お怒りだなぁ…

「千乃、今何時だ?」

「夜の10時半ちょっと過ぎ…です」

「別に寄り道をするなとは言わん、けどな、遅すぎる」

「ごめんなさい。ちょっと道に迷って…」

それを聞くと千乃の父親は、千乃の足元辺りを指さして聞く。そこにあるのは千乃の戦利品が入った紙袋。

「それを買いに行ってたせいか?」

「そう、です」

それを聞くと、父親は大きなため息をひとつ吐き、頭を抑えた。
こういう話の流れの時はいつも決まってこう言われる。

「もうそんなものに時間を使うのはやめろ。普通じゃない。」

って。

「た、確かに少し変わってるかもしれないけど、工学の知識だって身につくし、それに」

「そんなこと言って、工学の知識を女が使う時なんて来ないだろう。」

「…っ!!?」

千乃は一瞬で全身の血が沸騰したように熱くなるのを感じた。怒りだ。

ーー許せない。男とか、女とか、そんなに大事なの??

ーーいつもそうだ。お父さんもお母さんも、女の子らしくしろとか、機械いじりは辞めろとか、何かにつけて私の好きなことを否定してくる!!

いつもの千乃なら感情的に言い返していただろう。しかし、一人の友達が頭によぎる。

ーーけど、乗っちゃだめだ。二奈ちゃんみたいに好きなことを、好きなように全力でやるには理解してもらわないと。私の好きなこと、何より私のことを。

千乃は、ふぅと一呼吸おいて頭を冷やし、父親の目を見て、話始める。

「私、工学部のある大学にいって、専門的に勉強したいと思ってる」

「あのなぁ、理系なんて男社会なんだぞ?第一、そんなとこに行ったって結局は将来仕事では使わないんだから…」

「そこで研究者になる。それが私の夢だから」

「無理だ、だいたい…」

「お願い。話を聞いて…。帰りが遅くなったのは本当に反省してる。次からは絶対に門限を守る。なんなら、外出は休日の日中だけで構わない。…だから、私の好きなことを否定しないで…っ!!」

「千乃…」

ーー伝わってるよね?私のこと…私の思い

「ちょっとお父さん!!こっち手伝ってくれない!!?」

突然、空気を変えたのは母親の声。夜遅くにも関わらず何か大仕事をしているようだ。
母親がリビングの戸を開けると千乃とも目が合った。

「あら、千乃帰ってたの?あんたの部屋片付けさせてもらってるから」

「は…?え、な、なんで!!?」

千乃の脳裏に最悪の光景がよぎる。
こめかみの先まで鼓動が感じられる程に心臓が大きく動くのが分かる。つま先から熱が引いていくのを感じる。

「っ!!?」

千乃は一目散に自分の部屋がある二階に駆け出した。

急ぐあまり登り慣れた階段で何度も踏み外しかけ、それでも構わずに部屋まで駆け上がる。

そしてドアを開けて

千乃は絶望し

「あああ、あああ…!!!」

膝から崩れ落ちた。

今まで作り上げてきた作品、作り掛けのガジェット、集めてきた専門誌、良き思い出となった失敗作。

ーーない、ない、ないないないない!!!

千乃の宝物が殆ど姿を消していた。

「千乃!夜遅いんだから騒がないでよ!!」

遅れて階段を登ってきた母親が不機嫌そうに千乃を叱りつける。

「ねぇ…どこ?ここにあったやつ…どこ…?」

いつのまにか千乃の頬には大粒の涙が絶え間なく伝っている。

「捨てたけど」

「…っぅ。なん、で…?」

過呼吸になって上手く言葉が発せない。

「こんなものがあったから、帰りが遅くなるんでしょうが。あなたのためよ」

ーー私のため??好きなものを奪い取って、それが私のため??

ーーそんなことがあってたまるか。それは、やってる側の自己満足だ。大嫌いだ、そんな大人は。

ーー…もういいや。きっと、このまま好きも夢もこの人たちに否定される。

「…千乃、私たちもう寝るから。さっさとお風呂はいって寝なさい!」

ーーいいよ

「…わかった」

ーーもういい。嫌いだ。何もかも。でも、言い返しても意味が無い。

母親が立ち去って、五分、いやそれ以上経っているかもしれないし、もしかしたら十秒も経っていないかもしれない。時間の感覚が分からない。すっと千乃は立ち上がってゆっくり階段を降りて

ーー好きを手放せば、楽になれる。胸を焦がす思いに苦しむこともない。嫌いを黙っていれば、平穏でいられる。誰かとぶつかることもない。

玄関に手をかけ、目的もなく歩き出した。

一時間、二時間、歩いた。

一時間、二時間、走った。

一時間、二時間、泣いた。

ずっと、ずっと、ずっと、帰らなかった。

ーー何時間、どこに向かっているんだろう。明日の学校どうしようかな。

ほんの少しだけ冷静になり、明日のことを、考え始めた千乃に、暗闇から声をかける者がいた。

「おや!ここに迷い込む者がいるとは珍しい」

「誰っ!!?…ネズミ??」

突然話しかけられ、千乃は少しびっくりしたが、声を発している者の姿を見て更に仰天した。

「二奈ちゃんの言ってた…喋るネズミって…これ?」

「二奈…あぁ!彼女の知り合いですか!なるほどなるほど。きっと【誘発】されたのでしょう。いやぁ珍しい珍しい!」

「何を言って…」

「失敬失敬、自己紹介がまだでしたね。私は操桃(そうと)。簡単に言うと…簡単に言うと…そうですね、スカウトマンと言った所でしょうか」

ーーこんな幻覚を…私疲れてるんだ。ずっと走って、泣いて。しかもこんな真夜中に…あれ?

月の位置がずっと変わってない。

「その顔、気づきましたか。ここはあなた方の世界と私どもの世界の狭間、三途の川のイメージが近いですかね。まぁ、渡りきったところで命を落とす訳では無いので少々語弊はありますが。」

「えっと、世界が?私の世界と…?」

「混乱されるのも無理はありません。なにせ十数年と生きてきた世界の理から片足が外れているのですから」

「私はどうなるの?」

「今ならまだ、戻ることは出来ます。しかし、私どもの世界で、新たな世界にて、新たな物語を始めることも出来ます。どうなさいますか?」

ーーなんだそれは。全く意味がわからない。ネズミが喋る幻覚の理由も、内容も、夢なのだろうか。

ーーでも、夢だとしても…

「…もう戻るつもりはなかったんだ。ちょうどいいや。連れていって、その新しい世界に」

「…様々なものを捨てることになりますが?」

「もう捨てられたよ。全部ね」

千乃は涙の跡が残る顔で、悲しげに笑って見せた。

「そうですか。では…こちらへ」  

ーーー
ーー

こうしてわたしは、心をすりつぶした。どんどんすりつぶして、真っ平らにして、誰にも見つからないように、息を潜めて、何にも動じず、動かず、時を止めた。

ーーー
ーー

「二奈、事務所に話は通してきたんだろうな?」

二奈は、二奈もリビングで両親と向き合っていた。

「話してないよ。歌もダンスも、やめないもん」  

親との約束では、事務所に歌とダンスについて辞退する旨を伝えることになっていた、がしかし、二奈はそれをせずに帰宅した。

「俺も母さんも、それを許した覚えはない。モデルは…百歩譲って写真だけだから目を瞑っていたけど、そうやって大勢の前に出るなら話は別だ。そんなアイドルの真似事みたいなこと…二奈にはやらせられない」

「二奈、いい子にしてちょうだい、ね?ママも心配してるの。そうやって目立つことを沢山してたら、またお友達から嫌なことされちゃうんじゃないかって」

「いいよ別に。ガマンするから」

「ガマン出来ないだろ、知ってるんだぞ?夜だってひとりで泣いて、うなされて…」

「なに?私の部屋に聞き耳立ててたの??信じられない!!」

「ああもう、そうじゃなくてだな!…確かに高校卒業までに結果を出せとは言ったが、無理してアイドルごっこなんてやらなくても、大人に愛想良くしておけばそれなりに仕事は来るだろ!社会ってのはそういうもんだ!」

「違うよ。私はやりたいんだよ。歌とダンス。仕事のために愛想良くしていたいんじゃないの。全力で、頑張って、それを認めて欲しいの!!」

「お願い、二奈、いい子だから、パパの言うことを聞いて、お行儀よくしていれば結果は出るのよ」

ーーそうやってまた、いい子いい子って…

「わたしは、いい子なんかじゃない。わたしは、お行儀良くなんかしたくない。わたしは、おとなにペコペコなんかしたくない。」

「二奈…私は…!」

「わたしは……ママのお人形じゃない!」

「二奈、おまえ、母さんになんてこと…!」

「わたしは、好きに歌ったり、踊ったりしたい。」

ーーそれを許してくれないなら…

「わたしは、もうこんなところにいたくない!」

ーーわたしは、わたしは!

「二奈!わがままを言うな!!」

「お願い二奈、私の言うことを聞いて!」

ーー…ねぇ操桃?見てるんでしょ?聞いてるんでしょ?

二奈が脳内で呼びかけるとどこからともなく、件のネズミが姿を現す。

「えぇ、もちろん。あなたが不貞腐れている所も、大声を出すところも全て、ね」

ーー行くよ。私。向こうの世界に

「契約、成立ですね」

トンっと操桃は手にもっていたステッキを地面に押し付けると、二奈の瞳が黄色に輝き始める。

「お父さん、お母さん…じゃあね」

そう言い残すと、いつのまにか二奈の姿はリビングから消え去ってしまった。

ーーー
ーー

そして、瞬きの間に二奈は見慣れない公園に立っていた。

「凄っ、ほんとに不思議な力が…」

「初めから説明していたのですがねぇ」

「信じるわけないじゃん、ていうか、まだ夢だと思ってるから。正直」

操桃はやれやれといったふうに手を左右に広げるジェスチャーをし、

「まぁ別に良いですけど、じきに夢では無いことをいやでも自覚しますよ…ほら」

操桃はステッキで二奈の右側を指し示す。

そこには

「千乃…ちゃん!?」

「え、あ、二奈ちゃん…」

「言ったでしょう?夢では無いのです」

「千乃ちゃん、喋るネズミ見たことないって言って…」

「私も信じられないけど、ついさっき見えるようになって、そのまま着いてきちゃったんだ」

「即決でしたよ、千乃さんは。貴方のように何日も悩んで先送りにしませんでしたよ〜!」

ーーいちいちちょっと嫌味だよなぁ…

「それで操桃、私と二奈ちゃんは、元の世界ではどうなるの?」

「あ、確かに。ちょっと気になるかも」

二人は操桃に問いかける。

「元からいなかったことになるか、行方不明扱いとなるか。ある程度融通は効きますが、代わりを用意するなどは出来かねます。とりあえずこの二択から選んでください。」

「ふむ…それなら、私は元からいなかったことにして欲しい。最後の最後にケンカしたけど、それでも無用な心配はかけたくない。責任に感じて欲しくもない」

「私も。なんだかんだ情は残ってるんだなぁ…あれ?なんか、なんでだろ。覚悟決めたはずなのに…涙がっ…!」

「ちょっと…やめてよ、私もつられちゃうじゃないか…!」

二人は深夜の公園でボロボロと泣いた。泣いて、泣いて、改めて覚悟を決めた。

「やれやれ。今からこの調子じゃ、先が思いやられますが…言っておきますが、もう戻れませんからね。今頃、あなた達の家族も友達も、戸籍や写真、通話履歴もSNSからも貴方がたの記憶は消されています。元の世界から、あなた方二人は完全に忘れ去られたのです」

試すような視線が二人に突き刺さる。
それに怯むことなく、二人は言い返す。

「構わないさ」「大丈夫だよ」

「「もう、元の世界に未練なんてない」」

操桃はニヤリと笑い、世界の扉を開けた。

ーーー
ーー

「なーんてこともあったよねぇ!いやぁ、懐かし懐かし!」

瓦利斯飯店の座席で、ニナは満足気に伸びをして、昔話に区切りを付けた。

「あぁ、そうか。その時はニナにとっては深夜だったんだね。」

「なにそれ、意味深なんですけど〜!!」

「ふふっ…さて、お互いだいぶ落ち着いたようだね」

いつの間にか互いに精神が落ちついている。これならきっと、ぐっすり眠れるだろう。

「…そうだね。いつもありがとう、色々話して、気にかけてくれて」

「珍しくしおらしいね。明日は雨か、いや雪…深脊界なら本当に槍が降ってもおかしくないが…」

「ちょいちょいちょい!激レアモードのチャンニナなんだから!茶化さないでくれたまえ〜」

「ごめんごめん。ほらあの日約束したじゃないか。「またお話しに付き合って」って」

「うん…そうだね」

二人の目が合ったまま数秒、沈黙の時間が続く。しかし、既に二人の間に気まずさなどなく、むしろ、沈黙さえ心地よいと感じられる。

積み重ねた時間が、あの頃とは違う関係性を作っている。

「じゃあ、そろそろ寝ようか」

「うん。おやすみ」

ーーー
ーー


翌日、二人は揃って寝坊し、ララに怒られることになるのだが、それはまた別のお話。

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