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2022/6/26 佐野元春 神戸国際会館ライブ

 2022年6月26日 日曜日。

 姫路から新快速に乗り、神戸は三ノ宮の神戸国際会館へと向かう。

 佐野元春のコンサートに参戦する為に。

 何年振りだろうか。ライブに参加するのは。佐野元春に関して言えば、相棒の金平と行った、サムデイの再現ライブが最後ではなかったか。2013年だから、およそ10年振りになる。

 ライブ後、電車に揺られて帰る体力がないであろうことを予測し、ホテルを予約した。

 今そのホテル、ユニゾイン神戸三宮の11階で、美しい百万ドルの夜景を見ながらこれを書いている。結果は正解であった。

 もし電車に乗っていたら、寝過ごして岡山まで行ってしまったことだろう。

 アダルトチャンネルの視聴カードは通路に販売機があったがスルーし、一人で泊まるホテルの寂しさから、ホテトル嬢をコールしようと受話器を持ち上げたが、良い子なのでそのまままた戻した。

 シャワーを浴びて、ノンアルビールで一人祝杯を上げ、先ほどまでの興奮の余韻を噛み締めていた。

 開場は16時30分、開演は17時30分。やはり同世代、50代が多そうであった。永く愛される佐野元春。彼の音楽が流行り廃りの類いのものではなく、本物である証だ。

 全25曲、20時まであっという間だった。

 彼の姿は若々しく、ボーカルも三十周年ライブの時の不調はなんだったのだ、と思わせるくらいの、ベストなキーのポジションで、このままライブ盤を出しても充分なクオリティであった。

 さぁ、その最高な夜を振り返ってみよう。しかしここでセットリストを書き出すような野暮な真似はしない。ライブを楽しみに待っている人にはネタバレになるからだ。

 だから、ここからは回りくどく書く。猛烈なファンなら見抜けてしまうので、ネタバレを望まない方はここでお帰り願いたい。

 マナーを守りつつ、備忘録として私にだけ分かる残し方をする。なのでネットにこの文章が上がっても問題はないはずだ。

 照明が落ち、観客の拍手が響く。自然と会場に一体感が生まれた。歓声と共に元春がステージへ。

 髪の毛も銀色。ブラックジーンズに白いシャツ、そして革ジャン。男子の佐野元春ファンならば60代、あのような格好良さを目指さねばならない。

 いきなりフルスロットルの演奏が始まった。

・爆音で心地よいギターが会場を包み込む。私の青春は佐野元春と共にあった。その中には結婚もあった。嫁さんに佐野元春を聴かせた。嫁さんも好きになった。結婚とはチープスリルな人生の中の出来事かもしれない。しかし一度きりの人生、そこに命をかけてみるのもいいだろう。
なんて懐かしい響き。こんな曲から演ってくれるのか。

・トークも挟まず次の曲になだれ込む。ツインギター体制になってからのコヨーテバンドのライブは初参加だ。感じたのはどの曲も総じてオリジナルに寄せていること。
元春の曲には東京ビーバップや、スカパラホーンズが絡んだ曲が多いが、それでもギターやシンセで違和感なく演奏されている。若い頃から趣味に生き、周りからはまともな暮らしが苦手な奴だな、と誰もに言われた。仕事も適当にやっていた。そんなダメ人間が今、元春のライブに参戦出来ているのは、しっかりものの嫁さんが私を軌道修正してくれたからなのかもしれない。

・そういえばナイアガラ2もサムデイも40周年、だからメモリアルなナンバーが続くのか。これまでのライブでは聞けなかった曲が続く。幼馴染の相棒、金平守人は夢を叶えて漫画家になった。そんな彼と私の部屋で漫画を描きながらよく聴いたナンバーが演奏される。この辺りですでに涙腺が緩くなっていた観客は、会場広しといえども私だけだろう。教えてもらう一つ一つのことは、いつの間にかすぐ役立たずになるもの。だからその時感じたものを表現する。カタチにする。技術ではなく感性を磨く事を元春から既に教わっていたことを40年後の今日気付く。

・人生、行くあてなんて特にあるわけじゃない。が、ここにずっといるわけにもいかない。今日も何も生み出せなかった。気付けば街明かりは滲んでいく。あかん、ここで私の涙腺も滲んでいく。

・そんな気分を察してか、バンドは再び爆音を奏でだす。バーテンダーが時折夢の中に出てきては喋りかけてくる。「オマエの夢は一体なんだい?」ハッキリ言う毛恥ずかしさのまま、こんな歳になってしまった。世間に溶け込むこともなく、街並みの一隅でさえ抱きしめることもなく。

・佐野元春のブルースハーブは学生の頃、熱中して観たビデオ『トルゥース』のまま、優しく響く。そうさ、今ではすっかり社会のネジさ。歯車みたいな世界からはサヨナラなんて出来ない。食いっぱぐれてしまうから。何もかもインチキに見えそうにもなる。富裕層だけが優遇され、上級国民だけが享受する。真実はもっと残酷なものだろう。だからせめて二人の恋心、嫁さんとのミクロな繋がりだけは、リアルに揺れながら繋ぎ止める努力をしていたい。

・元春はニューアルバムからも演奏してくれた。昨日までの自分はもういいじゃないか。明日からの自分が大切なのだ。だから尚更

・かなしい話なんてもう沢山なのだ。

・ロシアの侵攻は本当に驚いた。ショックの方が大きかった。無条件に平和が続く、みたいに呑気には構えてはいなかったが、第二次世界大戦から、人類は多くを学んだはずだ、と勝手に思っていた。全世界の人が等しく。人と人とが殺し合う世界なんて、理解できなかった。

・日用品も値上がりが続く、ガソリンだって安くならない。子供たちは独立し、扶養から外れ手当も減った。嫁さんと二人、嵐のような中で精一杯。でもなんとかやっている。時々空を見上げてみよう。あの星の瞬きの事を思えば、家計で揉める夫婦喧嘩なんて小さいことだ。

・経験は色々と積まねばならない。穏やかでも未経験なら、色々とやりきれなくなって、自滅することだろう。彷徨ってもたどり着いた時には意味もない。成長しなければ何年経とうが何も変わっちゃいない。慈悲は待つものではない。与えるものなのだ。そういう強い人間にならねばならぬ。

・夫婦とは同じ殻に入る豆なのかもしれない。一人じゃない。だから風来坊じゃいられない。邪悪なものから身を遠ざけよう。正しい道へと嫁さんはいつも導いてくれたような気がする。それは亭主の役割のような気もするのだが。

・コロナにロシア侵攻に、こんな時代が来るなんて思ってもみなかった。日本は愛に溢れている国だと思っていた。しかし世界のニュースは残酷な事実を突きつける。ウクライナの一般市民を、ロシア兵は理由もなく殺したという報道だ。目の前で夫を殺された妻がカメラに向かって泣いていた。世界は残酷なことで溢れている。いくら愛だと叫んでみても。ライブで元春はこの節を2回歌った。レコードでは一回なのに。そこで魂が震え涙腺は緩んだ。今、言わなければならない事だったから2回言ったのだ。

・生活をしていると、時々人は疑い深くなって、本当のことが言えなくなる。歳を重ねると若い頃は流せた事でも、心のどこかに引っかかり、そこにイライラしたりする。そして人々は段々と辻褄が合わなくなって、涙の海に沈むのだろう。親密すぎるから甘えるのだ。流す事も愛情ではないか。この先の人生、悲観的なシナリオを望むのか?

・そんなつもりで結婚したのではない。君がいなければどうだ? 考えてみたことはあるか? きっと心は闇の中を彷徨うだけだろう。一緒にいるのが当たり前になって気付かないだけなのだ。それにしても元春、どれだけ強力なヒットチューンを持っているのだ。コヨーテとの曲、オールタイムベストではないか。

・嫌な事を忘れる それは束の間だなんてそれも嫌だ。今夜のライブは最高だ。しかし現実の嫌な事を忘れる、夢のような世界にだけ浸って生きているわけにはいかない。逃避ではない、活力とするのだ。人は敵対しあって、自分の都合で生きてる。肉親だってそうだ。放っておけばそうなる。だから日々、避けていく避け目を埋めていかなければならないのだろう。

・君を愛しく思う気持ちに理由はあったのだろうが、今は理由はない。ここまで一緒に歩んだのだ。もう少しだけ一緒に。この先へもっと。子供たちは結婚し、いずれ孫もできるだろう。人生はサークルを描く。

・何もかも変わってしまった。あれから何もかも変わってしまった。お互いにシワも増え、髪の毛に白いものも混じりだした。

・肩も凝る、疲れも抜けない。あわただしげな街の中を、今日も傾きながら出勤する。生活のために。家庭のために。ありのままに言えば胸の中は焦げたまま、ためらっていたかもしれない。

・いつか大きな事をしてやる。いつか大きな事を成し遂げてやる。そんな想いを持ちながら、日々流されていく。尽きないね、悩みは死ぬまで。

・ガタガタの身体を引きずって、弱く見られぬ様に胸を張って社会に出る。両方のポケットには今にもこぼれ落ちそうなくらいの、心の傷でパンパンな癖にね。

・斜に構えるのはもうよそう。真正面から創造することに向き合おう。ベタのどこが悪い。素敵な事は素敵だと無邪気に、笑える心を馬鹿にしてはいなかったか?

・若い頃夢を語った同人たち、夢を叶えたり家庭を築いたり、いつか僕はきっと、それぞれに長い手紙をきっと書くだろう。

・今でも夢を拗らせている。見た目はだいぶ変わってしまったが、中身は残念ながらそれほど社会に溶け込んではいない。何も変わらないものは何も、変えられない。風向きは変えねばならない。

・そうして最後、私が演奏してほしい曲をずっと心の中で叫んだ。もし次の曲が最後ならば、通常演奏されそうな曲ではなかった。しかし私の想いは通じた。

 佐野元春は本物だった。流行り廃りはどこ吹く風、いつもそばにいてくれた。そしてこれからも私を常に鼓舞してくれることだろう。これだけはハッキリと力強く言える。
『それが人生の意味』なのだ、と。

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