俺の意識があるうちに
とうとう敵のボスを追い詰めた。特別捜査隊である二人、平岡と金山は、地下10階にある敵のアジトの中枢部まで侵入することに成功した。
二人の手には拳銃が握られている。
「観念しろ、抵抗しなければ殺しはしない」
金山が背を壁につけて、逃げ場がなくなり二人を睨みつけている、若くで美人な女首領(ボンテージ)にピストルを向けて威嚇する。
「おとなしく投降しろ」
平岡も構えながら間合いを詰める。
「ハーッハッハッハッ」
女は突然大声で笑いだした。
「何がおかしい。お前はもう終わりだ。観念しろ」
「それで勝ったつもり?」
女は不敵な笑みを浮かべる。
「どういうことだ」
「この最後の部屋に、何も仕掛けがないとでも思っているの? 間抜けなお巡りさん」
「それで我々が怯むとでも思うか? 殺された仲間達の仇、思い知れ」
平岡が前に進んだ瞬間、足元からガラスの円柱がせり出し、一瞬で平岡を閉じ込めてしまった。
「平岡、大丈夫か?」
金山がガラスケースを殴ろうが蹴ろうが、傷一つ付かなかった。
「離れてろ」
金山がガラスケースにピストルを打ち込む。弾は簡単に弾き返されてしまった。
「金山、閉じ込められた、スマン」
「じっとしてろ、あいつを捕まえて開けさせてやる」
「ショーを始めましょうか」
女はリモコンの様なもののボタンを押した。ガラスの円柱に充満する黄色いガス。
「うわあぁっ」
「平岡ぁっ!」
ガラスケースの中はガスで全く見えなくなってしまった。
「このガスはなんだぁ!平岡に何をしたっ!」
「二人は今から殺しあうのよ」
「どういうことだ」
「このガスは人間を生体兵器に変えるQウイルスのガス。肉体は極限まで強化され、意識は闘争本能が支配し、驚異的な細胞分裂で肉体が変質し、相手に襲いかかる」
ゆっくりとガラスケースは床下に収納される。膝をついて苦しむ平岡。
「だ、大丈夫かっ! 平岡ぁっ」
「か、金山、い、今の会話、こ、こっちにも聞こえていた。お前とは、お、幼馴染だ。闘いたくねぇ。お、俺の意識があるうちに、俺の頭を撃ちぬけ、そ、そして、必ず仇を討ってくれ」
平岡の背中が激しく痙攣し、筋肉が盛り上がっていく。
「ば、馬鹿野郎、そんなことできるわけねぇだろう」
「撃て、撃つんだ。だんだん意識が遠のいていく。俺を撃ち、そして、あのゲス女をぶっ殺してくれ」
平岡の腕、足、首が激しく脈打ち、筋肉が盛り上がる。
「撃てねぇ、撃てるわけねぇよ。お前とは小学校の頃から一緒に登校した幼馴染じゃねぇか」
「橋の下の、エ、エロ本も、ふ、二人で見たよな」
金山は目に涙を浮かべ、ピストルを構える。
「撃てねぇ、撃てねぇよ」
「も、もうだめだ、理性がも、持たない」
「待ってぇーっ」
後ろから婦警が駆けてきた。
そのまま手に持ったピストル型の注射を、平岡の首筋に打ち込む。
「田中婦警、どうしてここに?」
「敵のQウイルスを解析し、増殖を止めるワクチンが完成したのよ」
項垂れる平岡、痙攣は収まった様子だ。
「こうなりゃこっちのもんだ、オイ、ゲス女、よくも平岡をこんな目に合わせてくれたな。ぶっ殺してやる」
「待ってくれ、金山」
「ど、どうした平岡、なんでだ?」
「いやー、増殖は止まったんだけどさ、ウイルス打たれる前に比べて、腹の贅肉は筋肉に変質するわ、身体中の至る所、筋肉でムキムキになるわ、幾分身長も伸びたみたいだし。「ライザップ貯金浮いた的な?」みたいな。それにさ(小声で)アソコも三倍になってるんよ。だから女撃たないでくれよ。俺、今回はなんやかんやで結果良かったわ。逆に」
終劇
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