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佐野元春 Sweet16名盤ライブin大阪 夜の部

 2022年11月27日 大阪はZEEP難波。天気は快晴。午後の部は十八時開場の十九時開演。

 姫路から散々悩んだ結果、電車ではなくマイカーで移動。ライブ会場の近くにコインパーキング、1日最大千円の駐車場があったので、一か八か昼過ぎに到着して前を通ったら空きがあったので、そのまま駐車。

 時間まで嫁さんと大阪の街をぶらつき、お好み焼きを食べ、洋服屋を覗き、私は古本屋を見て、姫路のド田舎とは違う、大都会の人混みを楽しんだ。

 今日のライブは一日二公演で、アルバムSweet16の完全再現ライブだ。丁度嫁さんと交際をスタートさせた頃のアルバムで、色々と思い出深いアルバムである。嫁さんも好きなアルバムなので、道中楽しそうであった。

  このアルバムは1992年発売。今年で30周年になる。ついこの前のような気もする。月日の流れるのは本当に早いものだ。この30年、いったい私は何を成したか。

『名盤ライブ』としての参加は二回目で、前回は相棒の金平と行った、サムデイの完全再現ライブ。これは本当に素晴らしかった。ディスク化されてリリースされているので、おすすめです。

 さて、今回のライブ。中期の傑作『Sweet16』の完全再現ライブである。アルバムの曲順通りに演奏されるのだ。『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』は表現が尖りすぎ。『タイムアウト』は内省的すぎ。次のアルバム『サークル』の人気も高いが、キラキラしたポップアルバムで、佐野元春がこちら側にかなり寄り添って作ってくれた大衆的なポップロックアルバム、となるとこのアルバムしかないだろう。再現ライブとしてのチョイスとしても妥当だと思う。

 当時のハートランドのメンバー、ドラムの古田たかし、ギターの長田進の参加も嬉しかった。ベースの小野田清文が亡くなられたのが残念である。彼のベースプレイは本当に素晴らしかった。

 あとホーンセクションに二人。山本拓夫の参加は嬉しいが、サムデイの時は本家、サックスのダディ柴田が参加してくれたのだ。東京ビーパップとしての編成は無理だったのだろうか。メンバーは引退してしまったのだろうか。特典ブックにもコメントは寄せられていない。少し寂しい。

 色々注文を付けてはいるが、この企画自体嬉しくて、告知が出てすぐS席を予約した。当時のライブでも『廃墟の街』や『君のせいじゃない』『ハッピーエンド』辺りは演っていないのではないか? それらを聴けるだけでも姫路から大阪まで行く価値は十分にあった。

 そして何よりも嬉しいのが、参加者全員にアルバムの資料集とDVDがお土産として渡されること。これは一般販売が無くて(今回は後日配信チケットと一緒に販売されたが)この特典がどうしても欲しかったための参戦となった。

 佐野元春の音楽センスは通好みで、それがあまり世間に知れ渡っていないように思う。メンバーが加入を反対したギタリストの長田進、彼の加入を決めたのは佐野元春の一声だった。後に長田進は桑田佳祐のソロアルバムに参加『哀しみのプリズナー』のイントロで印象的なギタープレイを披露しているし、吉田拓郎のセッションにも参加する凄腕に成長した。

 ハートランドの次のホーボーキングバンドのドラム、元レベッカの小田原豊。彼のドラムプレイは重厚で、重たい一発が響くドラミングだが、浜田省吾のバンドにアッサリ引き抜かれてしまった。後に古田たかしが加入したのだが、このように佐野元春が見込んだものは、他のアーティストの琴線に触れ、争奪戦になることがあるのだ。

 このアルバムの一曲目。雷鳴の音から始まる激しいハウスビートなナンバー『ミスターアウトサイド』。これはビジターズとはまた感触の違うデジタルビートで、よりロックに寄り添い、リスナーに向いて作った大衆性のあるナンバーである。同時代での影響も大きく、個人的にだが浜田省吾のアルバム『その永遠の一秒に』の一曲目『境界線上のアリア』なんて『ミスターアウトサイド』に触発されて書かれたかのような、彼にしては珍しい過剰なデジタルビート曲だと思うのだが、どうだろう。要するに佐野元春の音楽センスは影響力がある、ということが言いたい。

 今回の特典ブックで色々な背景を知ることができたのだが、冒頭でもアルバムの中でも何箇所かで聞くことのできる動物の鳴き声。これは鯨の鳴き声だそうだ。親と子の鯨の鳴き声が左右のチャンネルに分かれて鳴いている。呼び合ってまるで互いを探しているかのよう。この時期にお父様が亡くなられた元春の心境を思えば泣けてくる。

 ライブは十九時ちょっと過ぎに予定通り開演。ライブ会場にはビデオカメラが設置してある。ぜひ今夜の記念すべき夜をディスク化して欲しいと切に願う。

 雷の効果音は省かれ、いきなりあの印象的なハウスビートから幕を開け、開場のテンションは爆上がり。スポットライトが当たり元春が歌い出す。隣から嫁さんが『かっこいー』と耳打ち。そして何より嬉しかったのはボーカルが絶好調だったこと。30年前のアルバムだから、だいぶキーを落として再演するのかと思いきや、当時と遜色なく全曲を歌い通していた。

 あぁ、懐かしい。けれど全然懐メロではない。なんてご機嫌なダンスビート。ここまで分かり易いポップに寄り添ってくれたのはこのアルバムが最後で、以降は更に孤高のポップス道を歩んでいくことになる(またそれも良いのだが)●朝、目が覚めて光の中 悲しい気持ちが消えてゆく

 二曲目『スウィート16』古田たかしのご機嫌なドラム。本当に上手い。長田進のギターも当時の音色。よくあるロックナンバーな展開かもしれないが、ビジターズ以降、元春はこんなベタなロックを本当に遠ざけていて、ようやく何かが吹っ切れて俺たちのために歌ってくれた感が当時は本当に凄かった。●みえすいたこの幸せに 瞳を閉じてけりをつけたら

 三曲目『レインボーインマイソウル』第二のサムデイ。名曲。一回目のウルっときたポイント。ステージの後ろには大きなアルバムジャケットの垂れ幕が。女性コーラスが二人参加しており、この曲の再現に大きく貢献していた。『タイムアウト』アルバムの頃から取り掛かっていた曲で、納得いくまで作り込んで完成させた。名曲たる所以である。しかし会場にいた皆さんは気づかれただろうか。この時、トランペットがミスをしている。導入を何小節か早く入りすぎたのだ。結構深刻なミスで映像化するには痛恨のミスである。●あせらずにゆくさ 何も迷うことはない

 四曲目『ポップチルドレン』最もファンキーな曲を演ります、というコメントから始まった。ホーン隊がいるのでご機嫌なサウンドだったが、やはりトロンボーンは欲しかった。個人的にこの曲が元春とハートランドのクリエイティブなピークだと思っている。特に冒頭二分の古田たかしの♪タカタン、のドラムを合図になだれ込む、血湧き肉躍る怒涛の精密機械のようなホーンセクションプレイは素晴らしく、魂が揺さぶられる感動を呼ぶ。逆にこの曲のテンションを超えられなかったからこそ、解散という選択にもなったのだろうけども●天国が君を見つめている

 五曲目『廃墟の街』このレア曲をライブで聴きたかった。楽しみにしていた瞬間。ハーブの音色はシンセで再現。パーカションも打ち込みではなく演奏されていた。●君に恋してしまいそうさ

 六曲目『誰かが君のドアを叩いている』当時のミュージックシーンの中央に元春が殴り込んできた! 当時はそう思えた。カセットのCMにも出演し、テレビ出演してこの曲とサムデイを演奏した。後々のライブでも余り演奏されてきていない曲。名曲なのに。頑固な元春は、分かり易いコードを持つこの曲を作っておいて全面的に受け入れてはいないのだろう。●君を悲しませるために 生まれてきたわけじゃない

 七曲目『君のせいじゃない』ハードなギターが印象的なナンバー。『俺は最低』の文脈の流れ。でもよりポップな味付け。これも余り演奏されていない曲。本当に捨て曲のないアルバムである。●おびえたまま 生きられない

 八曲目『ボヘミアングレイブヤード』個人的にこのアルバムでのフェイバリットナンバー。この時の会場の一体感は凄かった。ポップなグルーブに嫁さんも超ノリノリ。前日にネット通販でブルーベリーワインを注文。初めて飲んだのだが美味かった。ライブ中、なんてことのない歌詞なのに、この一節を聞いて何故か涙が溢れた●あの子の声が今でも 聞こえてくる

 九曲目『ハッピーエンド』レア曲。生で聴けて嬉しかった。来た甲斐があった。●いつも そばにいるよ

 十曲目『ミスターアウトサイドリプリーズ』この曲もライブで聴けるとは思わなかった。ビートルズのサージェントのマナー。今気付いたが、このアルバム、コンセプトアルバムじゃん。●君が癒してくれるだろう

 十一曲目『エイジアンフラワーズ』名曲。この頃の元春は冴えていた。名曲の連発。それも変拍子。この独自性。女性コーラスがオノヨーコの味を再現。嫁さんも『CDと一緒だね』とご機嫌。●きれいな夢を 重ねよう

 十二曲目『また明日』出た時は奇妙な曲という印象だったが、こんなに素敵な曲だったのか、と再確認。特典ブックでもバンドメンバーもイチオシのナンバーである。嫁さんも『この曲が1番良かった。目を閉じて聴いていたけど、素敵すぎて涙が出た』と言っていた。その感想を聞いてたまらなく嬉しかった。そして『アッという間に終わってしまったなぁ。楽しい時はあまりにも早く過ぎてしまうなぁ』と思うのだった。

 アンコールは二曲。これはネタバレになるから言わないほうがイイのかな? 二曲を聞いて、慌ただしげな街の中を傾きながら、いつか僕はきっと長い手紙を書くだろう、と思った。

 帰りはライブ会場の近くのコインパーキングにすぐ移動し、高速道路に乗って大阪の美しい夜景を眺めながら、アルバム『Sweet16』を改めて聴いて余韻に浸りながら帰った。

 30年、あっという間だ。やっぱりこのアルバムは名盤だ、と気付いたし、まだ私は嫁さんに恋してることに気付いた夜でもあった。

 来年に出る豪華ボックスが今から楽しみで仕方がない。


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