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無礼コンビニ
いつもは決まったセブンイレブンで、部屋にある不用品をメルカリで出すために持ち込んでいる。
その時にオヤツやらアイスやらを手土産に買って帰るのが常なのであるが、数日おきに訪れたとしても、棚の商品が劇的に変わるわけではない。
見慣れた商品、手土産も被ってきた。なので気分を変えて、少し足を伸ばし、違うコンビニチェーン店を利用しよう、と思い立った。
コンビニというものは、私が住むど田舎でも5キロ半径内には別の店舗がある。
私はスマホを販売画面にセットして、持ち込み店をファミリーマートに設定した。
おニャン子クラブのCDが2500円で売れてくれた。ありがたやありがたや。
万年月2万円の永遠凍結小遣い制度のお陰で、このように若かりし頃に買った趣味の品を売り捌かなければ、日々の生活もままならないのだ。
物価は上がり、文庫本を買いまくる事もできない。
私は日本のどこかに住む誰かさんに深く感謝しながら、ファミポートの前に立ち荷物を出す準備をした。
しかし画面のどこを探しても、荷物を出荷するためのボタンが無い。
『これは壊れているな、もしくは店側の設定が間違っている』
私は瞬時にそう判断して、片手に荷物の封筒を持ったまま、レジのカウンターに向かって声をかけた。
「すいませーん、荷物出すボタンが表示されないんですけど」
私は結構大きめな声で、2メートル先のレジ横に立つ30代後半の男に声をかけたのだが、向こうは目をギンギンに見開いて微動だにしない。
「すいませーん、荷物を出したいんですけどね」
相手が難聴なのかもしれない可能性も考慮して、私は先ほどよりも大きな声で問いかけてみた。
しかし店員はあいも変わらず制服を着用しているというのに、目をバキバキにさせたまま私を睨みつけている。
なんという非礼であろうか。私はカッとなって眉毛に段差を付けながらこちらからも睨み返してやった。
なんで客である私がガン無視されなければならないのか。
ここで一瞬、私は己に非がある場合の可能性を考えてみた。もし、私が声をかけた直前に、バックヤードでタイムカードを押し、退勤するところに私が業務の質問を投げかけて、時間外勤務の煩わしさから表情に出たとしたらどうか。
昭和生まれの私なら、いくらタイムカードを打ち終えたところであっても、お客さんから問いかけられれば、そこはサービスで組織の一員として躊躇なく立ち振る舞うことだろう。
ジェネレーションギャップ、平成、令和生まれとは価値観が違うのだ。
しかしちょっと待て、相手はまだ制服を着ているではないか。退勤を押したのなら、制服は脱ぎ捨て、私服で帰るものではないのか。
私服の人に私も業務を問いかけるような珍妙なことはしない。店の制服をまだ着ているのだ。そこはギリ対応しなければならないのではないか?
私の片手には、手持ち無沙汰に出すべき荷物が握られたまま行き場を失くしてしまっている。
数秒間の睨み合いが続いた後、そのオッサンは私に向かってあろうことか、こう言い放った。
「ウチはメルカリみたいなモン、やってませんのでね」
とてつもない語気である。客に投げかけた言葉だとは、にわかには信じられなかった。
そこには何か、酷い歴史があるように推察された。バカな出し人が店側に対して
「アタシのシャネル、向こうは受け取って三日になるのに受け取りボタン押さないから期日までに借金返せないじゃないのさ、どうしてくれるのよ、私はこの店から出したのよ。払って。かわりにアナタが払って!」
という、レジが行列になっているにも関わらずお構いなしに見当違いな業務妨害としか思えない質問をしてくる、勉強をしてこなかったお嬢さんの相手をして、店側は相当疲弊したのやもしれなかった。
もしそのような珍客が連続して訪れて、客の流れを分断するストレスに苛まれているのだとすれば、それは店側もメルカリなんぞ二度と御免だ、という態度に至るのは、こちらとしても合点がいく。
しかしそれならば店の入り口に、当店は出荷業務を放棄致しました。と張り紙なんぞで警告する義務があろう。それは未だ目の前で目をバキバキにしてこちらを睨みつけているオッサンの、完全な片手落ちである。
知らずに入った私は単にこっぱずかしい思いをしただけで、おまけに荷物も出せていないダブルパンチではないか。
そして年長者の私に向かって、礼節も何も無い物言い。私はカッとなり、他の客にも聞こえるように大声でレジのオッサンに怒鳴りつけてやった。
「荷物すら出せんとは街のホットステーション失格やのぅ!」
決まった。私は小馬鹿にした感じで店を後にした。オッサンも思わぬ反撃に面食らったようであった。
荷物を出せぬまま帰宅して、他のコンビニに行く気力もないくらいに腹立たしさは抑えることが出来なかった。
落ち着くためにコーヒーを淹れ、ようやく一息つくと、先ほどの光景がリフレインし、私はある取り返しのつかない失言に気がついて震撼した。
よく考えれば街のホットステーションはローソンさんであり、アイツらはアナタとコンビにファミリーマート、ではなかったか!
全然決まっていなかった。全く上手いこと言えてなかった。
言うならばあの場合
「オマエなんぞとはコンビになれんのぅ!」
が正解のえぐる言葉であったのだ。
あの店員が私の帰ったあと
「さっきのやつ、違う店のキャッチフレーズ言うとったのぅ」
と他の店員と一緒にウヒャ ウヒャ ウヒャヒャヒャヒャなどと呆けた顔をして笑っていたのではないか、と想像すると、数ヶ月前のことではあるが、今でもはらわたが煮え繰り返ってくるのである。
〜完〜
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