高齢の引越しはからだにこたえる
前略
もう一つ、八〇代半ばでひとり暮らしをしていたある女性の話をしましょう。
この女性はいわゆる二世帯住宅で子どもの家に世話になることをこばみ、シニアマンションへの入居をすすめられてもまた断りました。若いころから、がんこな気性で、なかなか家族のアドバイスに聞く耳を持ちません。そして、住み慣れた場所にとどまりたいという希望から、老朽化した家を建て替えることにしたのです。
ところが建て替えが決まり、工事の間に住む仮住まいに引っ越しをしたとたんに体調を崩し、寝込んでしまいました。八〇代半ばながら、日ごろは元気な姿を見せていただけに、周囲にいた人はみな驚きました。
引っ越しはからだにこたえるようです。住み慣れた家から仮住まいに、さらに新しい家ができあがったら、また引っ越しです。しかも、新居の環境に慣れなければなりません。体調を崩してしまっては、せっかくの新居でもひとり暮らしはむずかしくなってしまいます。
住まいの環境を変えることは、年齢を重ねれば重ねるほど簡単ではなくなります。肉体的な疲労はもとより、精神的な負担も計り知れないものがあるのです。もし住む環境を変えるのであれば、それもまた気力・体力のあるうちに早めに決断することが必要です。
そろそろ親を呼び寄せていっしょに暮らそうか。コンパクトな家に住み替えてもらおうか。いくら子どもが親のためを思って考えていても、うまくいくとはかぎりません。決断は早くしなくてはいけないのです。
また、ものが多くては引っ越しもままなりません。早くから片づけて、少しでもものを減らしておくことが不可欠です。親がまだエネルギーを残している間に「元気で長生きするために身の回りを整理しよう」と言ってあげなくてはなりません。
『老前整理のセオリー』 2015年 NHK出版新書より
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