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『基礎英文のテオリア』が目指していること

『基礎英文のテオリア』(Z会)では「形と語順から意味を理解する」ことを理解することを目標としています。

たとえば、英語の学習で「単語」をしっかり覚えたとしましょう。以下の単語はわかりますか?

① horse
② race
③ past
④ barn
⑤ fall

難しい単語もありますね。④のbarnは「納屋」という意味の名詞です。

さて、この単語を使った以下の文の意味はわかりますか?

The horse raced past the barn fell.

感覚的に「その馬が レースして 納屋を通り過ぎて 倒れた」と読めた人、センスがあります。ちょっと違うのですが。感覚に文法知識をプラスすればかなりいい読み手になると思います。どうすればよいか、説明しますね。

そこで、次の質問。

「この文の主語と述語動詞はどれですか?」

日本語だと「レースして」「通り過ぎて」「倒れた」と3つの動詞があるように見えてきます。まず、ここでは1つの文には「主語+述語動詞」が1セットあるものだと考えてください(時には様々な理由でこれらの要素が入っていない場合もありますが、ここではまずは基本だけ)。

この文の述語動詞は「fell」です。racedもpastも述語動詞にはなりません。

誤読してしまうポイントは「英単語1つにつき1つの意味を対応させる」という読みで「意味」を意識しすぎてしまうからです。まずは、形から入りましょう。

ここで誤読しないで読めるかどうかは、〈名詞+-edで終わる動詞〉を見たときは「大抵の-edは述語動詞になるけれど、過去分詞の形容詞用法で前の名詞を修飾している」という2つの考えを持てるかどうかにかかっています。

経験的にはraceという動詞は基本的には述語動詞として用いられることが多く、過去分詞の形容詞用法で直前の名詞を修飾し、その名詞が文の主語になるということが少ない。だから、the horse を主語racedを述語動詞として読んでしまいます。それが普通の読みというものです。ですが、最後にfellという過去形の動詞が出てきたときに、読みを修正できるかどうかなのです。

ややトリッキーな英文(専門的には「袋小路文」といいます)ですが「形を意識する練習」としてはいいものだと思っています。これは、かつて読んだMcCawleyのThe Syntactic Phenomena of Englishという本のイントロ部分に出てきた英文です。大学院生の頃、頑張って英語で書かれた専門書を読もうと意気込んで、最初のイントロ部分は辞書を使い、丁寧に読んでいたので記憶に残っているだけなのですが・・・。この文の意味は「納屋の前を通って競争させられた馬は転んだ」となります。

英単語を意味だけで捉えていくのではなく、品詞や役割を丁寧に理解していくことで、早く読めるようになるし、長い英文でも「切れ目」がわかり、意味を捉えていくことができるようになるはずです。

品詞や役割をしっかり理解し、どの位置に配置されているかという「語順」がわかると「意味」が浮かび上がってきます

なんというか、英語を読み慣れていないと、こちらから英文に向かっていき、意味を捕まえにいくようなイメージです。でも、読み慣れてくると、向こうから意味がやってくる、そんな感覚もあります。ただ、難しい英文はこちらから向かっていくことはしょっちゅうですが。「形と語順が意味を教えてくれる」ということを実感できるためには、品詞と文法知識が欠かせないのです。

したがって、『基礎英文のテオリア』では「語順」と「品詞」にこだわり、基礎を徹底して理解してもらえるような本にしました。その後は『英文解釈のテオリア』(青テオリア)などに進んでいただけるとより一層理解が深まると信じています。

学習参考書は学習者のみなさんにとって、最適であったり、一長一短だったり、しっくりきたり、しっくりこなかったりとするものだと思います。著者たちはなるべく多くの方々に理解していただけるような説明とはどのようにすべきか、考え、議論し、このような形に落ち着いたと信じています。入門書として伝える情報はすべて伝えていますが、英語学的な見地からしてみると、もっと丁寧に記述できる部分もあります。本書は品詞と語順をベースとした入門書としての位置づけの本であることをご理解ください。将来、本書で学んだみなさんがさらに英語学や言語学に興味をもち、専門的に学んだ際に、テオリアの記述について考察していただき、ご批判いただける日を心待ちにしております




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