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[ことばとこころの言語学・15]そこの醤油取れる?

そこの醤油取れる?

皆さんはどのように返事をしますか?という質問をすると大抵は

「はい」

と答えると言います。ですが、この「はい」にはもうひとつ行動が伴います。それは、目の前の醤油を取って相手に渡すという行為です。もし、醤油を手に持ち「はい、取れますよ」と言った後に、その場に醤油をおもむろに下ろす。どうでしょう、相手をおちょくるには十分すぎるぐらいの対応ですね。

つまり、上述の例から、発話の文字通りの意味以上に、発話の意図が相手に伝わるかどうか、伝わらなければコミュニケーションがうまく行かない、そんな機能があることがわかります。単に情報伝達のためだけに発話をすることを発語行為と呼びます。ここでの例のように「醤油取れる?」というのは能力や可能性を確かめるためのものではなく、相手に醤油を取ってこちらによこして欲しいという依頼をしているのです。こうした言葉の機能を発語内行為と呼びます。さらに、「醤油取れる?」と聞いた側が、実際に自分の目の前の醤油を手にとって、話し手に渡してあげるという行為が行われます。ことばを聞いた側が何らかの反応を起こす、そうした反応のことを発語媒介行為と呼びます。こうして、発話によって遂行される行為をオースティン発語行為、発語内行為、発語媒介行為という3つのパターンに分類をしました。

以前、こちらで考えたことを思い出してください。
https://note.mu/kurabayashi/n/n042c25bdf3ed

そこでは、「お客様に満足いただけなければ全額返金いたします」という広告に書かれた表現を考えてみました。そこでは、通販で商品を買うことに対して心理的な抵抗感がある方に対して、その不安を解消し、商品を買わせようとする働きがあると説明しました。この表現もオースティンの3つのパターンに当てはめて考えることができます。

「お客様に満足いただけなければ全額返金いたします」という<ことば>を表出することが、発語行為と呼ばれるものです。そして、この<ことば>を発することで、話し手は返金するということを広告の受取手と約束をすることになります。もちろん、話し手がポケットマネーで返金するのではなく、組織的に対応することを伝えているのです。そして、この言葉を聞いた人は「返金できるなら頼んで見よう」と思い、買い渋っていたところから考え方が変わっていくと思います。つまり商品を手にとってみたりするでしょう。こうして聞き手がなんらかの反応を起こすわけですから、そこには発語媒介行為が確認できます。

このようにわたしたちは、単にことばを使って現実世界の状況を述べるのではなく、さまざまな言語表現を用いてメッセージを伝えているのです。

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