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[ことばとこころの言語学・10]ことばが伝わるしくみ(2)
「ことばが伝わるしくみ(1)」でソシュールのコミュニケーションの考えについて説明をしました。今回はロマン・ヤコブソンというロシアの言語学者がことばの機能についてまとめたものを紹介します。
ヤコブソンは1920年代ごろからプラハやハーバードで研究をし、主に言語学を応用した詩学や文体論という分野の礎を築いた研究者です。1960年の「言語学と詩学」という論文で言語の6機能というものを示しました。
[コンテクスト]
参照的
[メッセージ]
詩的
[送り手] ーーーーーーーーー[受け手]
情動的 はたらきかけ的
[接触]
交話的
[言語体系]
メタ言語的
[ ]で表記されていることがらはコミュニケーションの要素を示し、その下の用語は機能を表しています。
ヤコブソンのモデル図を使って私達のコミュニケーションについて考えてみましょう。あなたは、誰もいないはずだと思った自分の部屋に入った時に思わず「うわっ!」と叫んだとします。この「うわっ!」という表現は誰かに何かを伝えているのでしょうか?特に意思疎通をするための表現ではなく、あなた自身の心の中の声が口から出てきてしまったと考えておきましょう。それが、送り手(話し手)自身の感情や気持ちを表していて、情動的(エモーショナル)なものになっているのです。
そのあと、そこにいた人が見ず知らずの人だとわかり、とっさに「出て行け!」と叫ぶ。そうすると、これは話し手の感情を表しているのではなく、受け手(聞き手)である見ず知らずの人に向けられた発話になっています。ことばで相手に何らかの行動を起こすようなものです。つまり、相手へのはたらきかけが行われています。このはたらきかけの機能については、あとで扱う「言語行為論」で詳しく触れていきたいと思います。
次に、「ここは私の部屋だ!」と発話をしたとします。この発話は「ここ」という場所が「自分の部屋である」ということを伝えており、コンテクスト(場面)に焦点を当て、その状況を描写している(指示的)であると考えます。
それでも、出て行こうとしない人に向かって、「出て行けというのは、この部屋から外に出るということです」と説明的に話をしたとしましょう。これはことばそのもの(コード)に関しての機能で、ことばを別のことばで言い換えたり、説明したりするという役割を持っています。この機能をメタ言語的と呼んでいます。
そして、見知らぬ人はようやく出て行ってくれました。そのときあなたは「あー、心臓が止まるかと思った」と一言つぶやきました。実際に心臓が止まるわけではなく、比喩を使っています。こうした比喩や隠喩を用いて言語表現(メッセージ)に工夫をすることを詩的機能と呼びました。詩的機能には5、7、5のリズムで話したり、ダジャレを言ったりするようなことも含まれます。
最後に、先ほどの「うわっ」、「出て行け!」というあなたの大声を聞きつけて隣の部屋の扉から友人が顔を出しました。その友人と目があって、「こんにちは」と挨拶を交わしました。この挨拶は人が出会う場面(接触する場面)で、挨拶をしたり、儀礼的な言葉を交わしたりするなかで用いられます。これを交話的機能と呼びます。
ヤコブソンは、わたしたちの発話は伝達の場面で、上記のどれか一つの機能を持っているのではなく、複数の機能が同時にはたらいていると言いました。例えば、詩のことばは詩的機能を持っているのですが、何か状況に関連した事柄も述べていると考えれば指示機能も併せ持っているといえるのです。詩は言語表現の美しさやリズム性といった詩的機能が重視され、指示機能は比較的弱く機能しています。
参考文献
Roman Jakobson, “Linguistics and Poetics,” in S. W., vol. 3 (The Hague: Mouton Publishers, 1981),ロマーン・ヤーコブソン(川本茂雄監修、田村すゞ子、村崎恭子、長嶋善郎、中野 直子訳)『一般言語学』みすず書房、1973 年
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