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[ことばとこころの言語学・9]私たちが物事を客観的に評価できない理由
断られない誘い方
相手に安心をさせておき、決断を促すような方法は私たちの日常の会話にもよく見られます。
気になる相手を飲みに誘うとき、「明日、一緒に飲もうよ」と言ってもきっと「ごめん、都合が悪くて」と言われてしまう可能性が高いですよね。そういう場合、皆さんならどのような手段を講じますか?
たとえば、「明日、一緒に飲もうよ。友達の○×ちゃんと、△■君も来ることになっているから」ということで相手を安心させることもできると思います。また、「明日、一緒に飲もうよ。臨時収入が入ったからごちそうするね」というと、「行かない」という選択肢一択だった相手の心を揺さぶるかもしれません。
相手の警戒心を解く、すなわちリスクを回避させる方法として、知り合いも来るから大丈夫という安心感だったり、タダでおいしいものが食べられるという利益を提示することで、相手の判断に影響を及ぼすことができると考えられます。
ですが、もちろんうまくいくとは限りません。
こうしたストラテジーは大人の会話だけに見られるわけではなく、子供達もよく使っています。
たとえば、夜遅く外出しなければならない場合、「ちょっとこれから○×君の家に出かけてくる」と親に言ったとき、大抵は「夜遅いからやめなさい」と止められることがあると思います。こうした場合、どのように伝えると許してもらえる可能性が高まるでしょうか?
あなたが、子供を持つ親だとして、お子さんから「ちょっとこれから○×君の家に出かけてくるね。○×君のお母さんが送ってくれるから大丈夫」と言われたらどうでしょうか?頭ごなしにダメとは言いにくくなりますよね。つまり、親としての不安材料が「○×君のお母さんが送ってくれるから大丈夫」ということばによって軽減されてしまいませんか。
このように何か相手に同意を求めたり、許可を求める場面では、相手にとってのメリットを伝えたり、リスクを回避する表現を用いたりすることで、いきなり否定されたりするということはなくなるかもしれません。しかしながら、後で論じるように、「○×君のお母さんが送ってくれるから大丈夫」は真実ではない場合もあります。
金田一先生の辞書
ほかにもこうした私たちの行動にまで影響を及ぼす言葉の使い方があります。たとえば、国語辞典を買おうとしたときに金田一先生監修と書いてあると安心して手に取ってしまいます。健康食品のコマーシャルで芸能人が「わたしはずっとこれを飲んで健康を保っています」なんて言ったりすると、じゃあ私も買ってみようと思ったりします。少し前のwebではブローガーと呼ばれる、多くの読者がいるブログの作者(一般人だったり、カリスマ主婦と言われていたりするばあいがありますが)に商品を宣伝してもらうということをしていました。そうすると、読者はそれに影響を受けてしまいます。
このように、誰でも知っている有名人や、その業界ではトップの人の名前を使って宣伝をすることで、消費者にものをかってもらうやり方があります。これを「ハロー効果」と呼んでいます。
ハロー効果とは、心理学者でもあり教育学者でもあるエドワード・L・ソーンダイクが、何かを評価しようとする際に、際立っているところに引きずられてしまい、正当な評価ができなくなってしまうような効果に名付けたものです。ハローとはキリストの絵画で、キリストの後ろに描かれる金色の輪っかのようなもの、いわゆる「後光」のことで、その後光が物事の判断を鈍らせてしまうことがあります。つまり判断する際にある種のバイアスがかかってしまうのです。ですので、国語辞典の内容を確かめずに、金田一先生の名前があるだけで手に取ってしまうのは、内容についての信頼を金田一先生の名前で置き換えてしまっているのです(ちなみに、どれもすばらしい辞書なので安心しておつかいください)。
また「彼はオックスフォード大学を卒業しているからね」と言われて紹介されると、最初からその人物の評価が上がってしまうということがあります。人を紹介するときに最初にどのように紹介するかで、その人がどのように周りから思われるかが決まってきます。ですので、知り合いをや同僚、部下を他人に紹介する場合などは、なるべく評価できる点を最初に伝えてあげるとよいでしょう。こうして、言葉によって相手に思い込みや先入観を植え付けることができるのです、なかなか私たちは物事を公平・公正に、そして客観的に評価することができないのです。
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