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[ことばとこころの言語学・7]宝くじが買いたくなることばのしくみ

「本日大安」

みなさんは、宝くじを買ったことがありますか?わたしは年末ジャンボ宝くじを買ったりしています。ですが、一度も大金を手にしたことがありません。どうしてでしょうか?

それは、運が悪かったということですよね。しかし、どうして私たちは宝くじを買ってしまうのでしょうか?そして、「よく当たる宝くじ売り場」にわざわざ出かけて買いに行ったりするのでしょうか?

宝くじ売り場を観察してみると「本日大安」とか「この売り場から2等300万円が出ました」などいくつかの張り紙があることに気がつきます。「本日大安」という文字を見ると、それがよくわからくても「なんかいい日っぽいから、今日買うと当たるかもしれない」という気持ちになりますよね?さらに「この売り場から1等が出ました!」なんて書いてあると、「そしたら、わたしも1等が当たるかも」とおもってやっぱり買ってしまいます。本当に当たるのでしょうか?

宝くじのデータを見てみますと、2017年の年末ジャンボ宝くじの1等は7億円でした。宝くじの発行枚数は2000万枚ということで、当たる確率は2000万分の1ということになります。そのため、「当たる」というのはものすごい偶然が重ならないといけないということが数字でわかります。

しかし、私たちはロマンを求め、宝くじを買った直後から、当選したらお金を何に使おうなど、想像力豊かに、自分が大金持ちになった時のシミュレーションをしたりします。こうした空想の世界に浸れる時間を持てるということで、宝くじを買って、いわゆる、夢を見るということが大切なのかもしれません

「10人に1人が当たる」=「10人に9人が外れる」

みなさんは「10人中1人が当たる」くじと「10人中9人が外すくじ」であればどちらを買いますか?授業で学生さんたちに聞くと前者のくじを買うという人たちが多くいました。

こうしたことはどうして起こるのでしょうか?ことばが私たちの判断や行動に大きな影響を与えているからです。それだけことばには人の心に与える力が備わっているのです。10人中1人に当たる、10人中90人が外れるという場合、前者を選ぶ人が多く出るのは、「プロスペクト理論」で説明することができます。これは、2002年ノーベル経済学賞を取ったダニエル・カールマンによる研究で明らかになっています。私たちは、何かを選択しなければならないときに、リスクがある場合は、それを回避しようとします。そうしたときに、「外れる」というリスクが提示されていると、私たちは無意識のうちにそれを回避しています。利益があるなら、確実にその利益を取りたいと考えるようになり、「限定20個」とPOPに書かれ、目の前に商品が4つ置かれていると、「20個しかないところ、今4つ残っているからラッキー、買っておこう」となってしまうことがあるかもしれません。それは、確実に自分にとって利益になると思うため、商品を購入してしまいます。

私たちの行動に影響を及ぼすことば

そうした私たちの行動に影響を及ぼすことばは、身の回りに溢れています。通販会社の「お客様に満足いただけない場合は、使用済みでも全額返金します」という広告をみたことがある方はたくさんいらっしゃるでしょう。通販で初めて買う商品がどんな効果をもたらすのか不安なので、すぐに買うことができません。その不安のもとになっている「自分に合わなかったらどうしよう、お金がもったいない」というものを「使用済みでも全額返金」ということばで安心させることができるのです。具体的に返金されるにはいくつかの条件があり、それは小さく書いてあったりあんまり気がつかないようになっていたりすることがあるので、ちゃんと全部読まないといけないということがありそうです

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