書籍編:朝焼けは黄金色 THE IDOLM@STER 感想編

※この記事は多分に「朝焼けは黄金色」に関するネタバレが含まれます。まだ本編未読の方はネタバレを踏まないようにブラウザバックをすることをお勧めします。例によってネタバレ避けの改行を入れておきます。









 度々アイドルマスターの世界での命題として掲示される

「アイドルとはなんですか」

 この問いに、ある登場人物の答えが描かれた物語があります。それが朝焼けは黄金色という物語です。物語の舞台はALL STARSの登場するアニメ版アイドルマスター(以降アニマス)から大体10年前と25年前。10年前は765プロにとって欠かせない大切な音無小鳥さん、25年前はその母である音無琴美さん。そして、かつて同じ芸能事務所で同僚として働いていた高木社長・黒井社長が主人公として。あの執念とも怨念とも取れる黒井社長の高木社長への行動、小鳥さんがなぜ765プロで事務員をしているのか、その答えもこの物語にあります。

 先に黒井社長と高木社長の事書こうと思います。(この当時は社長じゃないけど、こうじゃないとしっくりこない)黒井社長は心から高木社長となら伝説のステージを実現できると確信していたのではないかと。パートナーは高木社長しか考えられなかったんでしょうね。25年前の琴美さん失踪によって道が分かたれてしまったけど、並走していたのに10年前の高木社長が小鳥さんのステージで見つけたもので、高木社長は目指す方向が完全に変わり。物語中で度々激情をほとばしらせる黒井社長の表情を見ても、同じ道を歩いてほしかったんでしょうねえ…。
 アニマス見てるだけだと完全にただのやべー奴なんですけどね、黒ちゃん。敏腕社長のはずなのに765が絡むと途端にポンコツになり果てるからどうしたもんだか。
 そして高木社長は琴美さんを見出してしまったが故の幸せと悲しみがあり。なんだろう、五里霧中というのでしょうか。表面上は仕事もきっちりこなしていたんでしょう。それでも小鳥さんと出会うまでずっと、心は後悔の中に漂い続けていた。小鳥さんから、琴美さんの事を聞くまでは。本当に嫌いで恨んでいたなら貰ったCDを大切に聞いたりしないですよね。この辺りは本編通して描かれていますので、ぜひ読んでいただきたい。時々読んでてしんどくなるレベルですけど。

 音無親子はそれぞれ高校生の姿が描かれますが、琴美さんは肺動脈性肺高血圧症(PAH)という特定難病を患っていて。それを高木社長に言えぬままアイドルの世界へ。それほどの夢を見せてしまったというのはなんと罪な世界なんでしょう。どこかほっておけない子、というのがまた言いえて妙ですね。アイドルとしてどんどん売れていく中、黒井社長と高木社長の目指す伝説のステージへ歩みを進めます。レッスン中に持病が発覚し、大騒動となります。琴美さんは病気を抱えていても伝説のステージに立つ覚悟を一度はしますが、高木社長への信愛ゆえにステージに立つことなく、手紙だけを残して高木社長の元を去ります。後日の電話のシーンが大変心に刺さります。

 小鳥さんと高木社長の出会いはおそらく新宿駅前の自由通路で。あまりに琴美さんに瓜二つな姿を見て声をかけずにはいられなかった。そんな中、学園祭バンドに誘われた小鳥さんは、バンドメンバーである砂千たちに出会います。砂千達とステージで琴美さんの曲を披露する姿を見て、高木社長は15年前のやり残したことを終わらせる為、前に進むために小鳥さんを1回限りのステージへいざないます。黒井社長のプロデュースするブラックニードルのライブを利用して。小鳥さんは迷ってましたが、砂千の「そもそもなぜお母さんの過去を知りたいと思ったんですか」という言葉に、「お母さんのようになりたい」と本心を打ち明けます。それが衝動なら逆らえませんよってすごい後押しするじゃん砂千。琴美さんのファンであったという両親の元、アイドル音無琴美の事はある意味小鳥さんより知っていたのかもしれません。

 トレーナーの澤田さんや、ブラックニードルの3人、友人たちに背中を押され、高木社長の導きでステージへ努力を重ねます。ブラックニードルの3人もすごくいい子なんですよね。特に一沙の言う一言。4巻の帯にある「音無琴美さんが忘れてきたものを受け取りに行くチャンスだと思う」がそうですが、それは小鳥さんが探し求めるものであり、高木社長の忘れ物でもあります。そして1夜限りのステージへ。それは黒井社長や高木社長の思う伝説のステージではないですが、高木社長と黒井社長のターニングポイントとなるステージでした。30話はぜひ特装版CDの劇中歌、「翼」を聞きながら読んでいただきたい。自分は泣きそうになりながら読んだよ。

 翼を聞いた当初は、全アイドルへの応援歌だと思ったんだけどアイドルだけに限らないよねこの歌詞は。すべての人の背中を押す、真っ直ぐな応援歌でした。「心とはまるで明日への翼」という歌詞がものすごく良い。この歌詞を歌う小鳥さんが神々しいこと。ぜひこの美しい姿を見てほしい。

 そして、1夜限りのステージを終えて様々な人々が「アイドル」を望む中、小鳥さんは明確にアイドルにはなりません、と高木社長に告げます。この時の顔が本当に晴れ晴れとしたいい笑顔なんですよね。そして、会社を辞める高木社長と黒井社長。ここでウィーンへ旅立つ際に黒井社長は何があっても叩き潰す、と宣言します。結果はご存じの通り。ミリシタとか見てると最近ちょっとネタが過ぎるのでもうちょっとまともになってもいいんじゃよ黒ちゃん。

 数か月が経ち、街中で小鳥さんを見かけても声をかけず、彼女の世界を守ろうと思った社長ですが…結果はご存じの通り。高木一郎氏の765プロをなし崩し的に任された高木社長、事務員として応募してきた小鳥さんの履歴書を見て面接に臨みます。見開きの小鳥さんがいつもの小鳥さんですごく安心した。素敵です。


 読み終わった後の感想は何とも言えない清涼感のある、すごく腑に落ちたというか、確定した未来で安心感があるというか、すごく小鳥さんらしい物語で、小鳥さんも夢を思いっきり追いかけて叶えようとしているんですよね。それは高木社長も黒井社長も同じ。劇中で小鳥さんがアイドルになっている自分を俯瞰する自分、という表現をしていましたが、プロデューサーの目線に近いものとなっていて、すごく納得してしまった。アイドルたちをステージで輝かせる。そのために様々な人々が想いを胸に秘めながら働いている。そして、この思いを感じたときに自分はアニマスの24話のあるシーンを思い出しました。765プロが13人でパシフィコ横浜の大ステージに立っているステージ横。そこには号泣する小鳥さんの肩をたたく高木社長。このシーンがまさに小鳥さんの夢の一つがかなった瞬間なのではないかと思います。朝焼けは黄金色を読んでからあのシーンを見直すと、すごくグッときます。


 いつも支えてくれてありがとう小鳥さん。これからも頑張りましょうね。


 最後に。素晴らしい物語を紡いでいただいた脚本の高橋先生、作画のまな先生。本当にありがとうございます。決して美しいだけで終わらない、苦しみや痛みも描き切っていただいたのが物語の重厚さを増していると思います。アイドルマスターシリーズに触れるすべての人へ、知ってもらいたい物語となりました。黒井社長と高木社長の長年にわたる確執も理由がなんとなくわかりましたし。愛憎表裏一体とはよく言ったもので。だからバーで一緒に飲むんだよなこの二人…。本当に憎悪だけなら隣で飲まないでしょうよ。いつか、道が交わりお互いの本心を話せるといいですね。

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