草書のくずし方
はじめに
こんにちは。パトラッシュです。
12/8のアドカレを担当するということで、今回はイウしキーにいれば嫌でも目に入って来る草書(くずし字)、その草書のくずし方についてお話しようと思います。
草書について
まずは草書について、簡単に歴史からお話していきたいと思います。
草書は古くはB.C.1世紀頃(前漢時代)の木簡などで見ることができます。
形からして楷書→行書→草書のように変化していったと思われるかもしれません。しかし、実は上で挙げた3つの書体のうちだと草書が一番古い書体と言われており、隷書から生まれたと考えられています。
卜占に限定されていた甲骨文字から、次第に用途が広まるにつれて「実用性」が求められるようになります。つまり、甲骨文字→篆書→隷書→草書という変遷は、必然的に「速く書く」ということが要求された結果だと言えます。
そんな草書は今ではめっきり見かけることもなくなりました。しかし、古くは大変流行したようで2世紀(後漢時代)の『非草書』という書物には、7,8歳の子供が草書を書いている、草書を用いて文通が行われていることなど当時の流行の様をよく知ることができます。
流行するということは当然人々の間で相互理解があるということ。つまりはただ出鱈目にくずしているわけではなく、くずし方にも一定の「約束事」が決められていました。
今回のnoteでは、それらの「約束事」について簡単に解説していこうと思います。この「約束事」を予め覚えておくことで、草書の読み書きが一層簡単になるに違いありません。
後半では、それぞれ漢字を構成する部品の草書体の一例、またくずし方が独特な漢字についても取り上げます。
草書を覚える際の一助になれれば幸いです。
くずす時の5つのポイント
さて、くずすための約束事として大きな5つの特徴が挙げられます。
その5つの特徴とは
旧字や異体字由来のもの
簡略化
筆画の連続
点の出現
独特な筆順
の5つです。(ホントは6つありますが --「6. 上下との連続」--、連綿で一部が消えるみたいなやつはイウしキーで使う分にはあんま気にしなくていいかなと思って省きました。めんどくさかったわけではない。)一つ一つ順に簡単に見ていきましょう。
1. 旧字や異体字由来のもの
一見して普段目にする楷書と似ても似つかないくずし方のされた漢字が現れたりします。その場合、実はそれが旧字や異体字由来のものであることがしばしば見られます。
「伝」「転」のくずし字を例に見てみましょう。
「云」からはだいぶ想像のつかないくずし方をしてるように思えます。
しかし、これは旧字体を考えると合点がいきます。
「傳」「轉」からと考えるとなるほどとなるのではないでしょうか。
他にも、異体字由来のくずし字を例に挙げてみると……
「災」のくずし字は異体字である「灾」が由来であることがわかります。
以上のように、一見謎なくずし方をするものでも、旧字体や異体字を見るとわかったりします。
2. 簡略化
草書ではとにかくいろんなものが省かれていきます。
省かれがちなものをいくつか挙げてみました。
2.1 左縦画の省略
冖、宀のような囲むような字形は左画が消えがちです。
赤の部分が消えているのがわかると思います。
2.2 偏からの連綿による省略
偏から旁へと筆を動かす際にも小さな点画が消えがちだったりします。
2.3 極端な省略
「口」とか「日」とかは極端で、だいたい原型がありません。
殆ど点のようになってるのがわかります。
3. 筆画の連続
平のように点画が並ぶと直線になります。
同じように然などにある「灬」も直線に。
氵なんかは縦一直線になるし、心みたいに点が並ぶとみょーんと直線になったりします。
4. 点の出現
楷書では無いのに、草書になると点がつくものがあったりします。
「土」は隷書には点があるので、その名残がこのように草書に残っているということです。また、「聿」のように横画が簡略化された結果、点が出現することがあります。
5. 独特な筆順
漢字によっては、草書になると普段楷書で書き慣れている筆順とは違った書きぶりになるものがあります。
たとえば「千」、「羊」、「朱」などは通常横画から書いていきますが、草書になると縦画から書いていくことになります。
「山」、「止」などは通常中央の縦画から書いていきますが、草書になると左から右へと向かう動きで書いていくことになります。
「奄」「耕」「甫」などは、左から右に書くところを草書では右から左へと書いていくことになります。
以上、くずす上での5つの大きなポイントを列挙してみました。
偏旁ごとのくずし方
これまでにくずし方の原則として5つのポイントを学んだと思います。
さて、では偏や旁、冠などがどのようなくずし方をしていくのか、それぞれの形を見ていきましょう。漢字それぞれのくずし字を丸暗記するよりも遥かに効率的に覚えられるようになるのではないでしょうか。
以下では、代表的な偏や旁などのくずし方を列挙しています。なお、草書はその性質上くずし方が同じ形になる場合が多々あり、今回はそのような紛らわしいものを中心に集めました(個別に崩すものだと数が多いので……)。基本的にこれらの区別は文脈判断によることが多いと思います。
「全部同じじゃないですか!?」となると思いますが、自分もそう思っているので安心してください。
代表的な偏のくずし方
代表的な旁のくずし方
代表的な冠のくずし方
代表的な脚のくずし方
難しいくずし字
これまでは規則的にくずされる漢字について焦点を当ててきました。しかし、漢字によっては特徴的なくずし方をするものがあります。特に、使用頻度などによっては極端にくずされるものもあり、それらについては「そうなんだ」と思って覚えるしかありません。
この章ではいくつかそのようなくずし字を紹介します。
下
茶畑かな?初見で読むのは到底不可能だと思います。
一応、下のように考えればこうなることもわかるかもしれません……。
水
なんでこうなったんですかね。。。
知ってる人は教えてください。
外
こういう対応ですかね?これも初見では読めない。
白
白の草書は個人的にかなり好きです。(単純に書いてて気持ちよいので。ちなみに書き良さなら「後」の草書もなかなか心地よいのでゼヒ書いてみてください。)
くずされ方もちゃんと筋(?)が通っていて、一画目の後にそのまま横画を全部繋げて書いて、最後に縦画をそれぞれ書くっていうことをしてるあげるとこんな字体になります。
書
よく使うからでしょうか、こちらはだいぶ簡略化されています。対応させるならこんな感じですかね。
ちなみに中国で用いられる簡体字の「书」はこの草書を楷書化したものです。
拝
使われすぎて原型失ったやつ。頻出のものはめっちゃ簡略化されていきます。
候
点。これも使われすぎたゆえの仕打ち。文末の候はこうなることが多々あります。
ちなみに「申上候」を草書で書くと下のようになります。ゆそ?
まいらせ候
まさにミミズがはったような字。
候文で頻出の定型文は連綿が究極に簡略化していき、屡々こういったものが出来上がります。
ちなみに、他にも似たような感じだと……。
それぞれ読めますか?
答えは左から「御座候」「候べく候」「罷有候(まかりありそうろう)」です。「罷有候」はギリ言われてみればって感じがしますね。
めでたくかしく
最後はこちらです。個人的にすきな連綿。「めでたくかしく」は女性が用いる手紙の結句の言葉ですが、女性らしいやわらかさと一マス一文字に囚われないおおらかさが字体によくあらわれてるのではないでしょうか。
おわりに
草書は今ではほとんど使われることはありませんが、昔生きた人の考えや生き様を知ることができる上で覚えておいて損はないと思います。変体仮名を読めるだけでもだいぶ楽しくなってくると思います。
さて、今回草書のくずし方と題しているくせに、大半はくずし方の事例だけ出したようなそっけない記事になってしまいました。本当はこの部首がどう崩れてこういう草書になったのかといったことをもっと書くべきだったのでしょうが、個別見ていくとかなりあるので……。一応「難しいくずし字」の章では若干そこらへんを意識したつもりです。
幸い?にも、イウしキーでは草書を学べる環境が整っています。皆さんもぜひ日ごろからくずし字に触れ、実践で生かしてみてください。(実践とは)
長くなりましたが最後までお付き合いいただきありがとうございました。
参考文献
村山臥龍(1994) 『草書のくずし方』 二玄社
児玉幸多編(1979) 『くずし字解読辞典 普及版』東京堂出版
カビパン男と私「草書の骨格」(https://www.kabipan.com/language/japanese/shodo/index.html)
(R5.12.6参照)
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