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その後 1


家でおこる怪異を降魔師の阿部さんに祓ってもらってから、1年が経過した。
家の中の怪異はそのほとんどが消えた。
私の金縛りもなくなった。
愛犬が一点を見つめて吠えたり怯えることもなくなった。

娘は最初YouTubeで活躍されてる阿部さんを、胡散臭いと言って信じていなかった。
お祓いを受けた時も、お金の無駄と言いきった。

お祓いを受けて1〜2ヶ月が過ぎたある夜のこと。風呂場で娘が私を呼んだ。
「となり、歩いてる…」
娘に言われるが、私には聞こえない。
「聞こえんよ」
「うそっ。すごい音だよ。風呂に入るといつも聞こえてくる」
私は耳をすました。

すると聞こえてくる、砂利を踏みしめるあの音。

「聞こえるでしょ」
「聞こえるね」
聞こえると言った私の言葉に、安堵の表情を浮かべる娘。
「ねっ、だから言ったでしょ。お祓いなんてできてないんだよ」

ザッザッザッ
隣の家の、防犯用(多分)の大きな砂利を踏みしめる音。
不思議だ。
耳を澄ましてやっと聞こえてくるその小さな足音は、聞こえると認識した途端、頭の中を占めてくる。
その足音は本当に隣の庭から聞こえてくるのだろうか。
私は深呼吸と共に、ソレを頭の中から締め出した。

「大丈夫だよ。聞こえたって家には入ってこれないから。それよりもう遅いんだから早く上がっておいで」


お祓いをうけたとき阿部さんは、
「隣の家のモノは祓いませんが、家には入ってこない様にしました」
と言った。
その言葉通り、あの足音は我が家の敷地には入ってこれないのだろう。
お祓いを受ける前、隣家の庭から聞こえていた足音は、年月をかけて我が家の敷地内まで侵蝕し、家の周りをぐるぐる徘徊していた。この足音の主は阿部さんが言ってた首を攣った人なのだろうか?
だとしたら家の中にも入りこんでたのかもしれない。

阿部さんによって我が家に入ることができなくなった足音は、もしかして我が家に入りたくて娘にアピールしてるのか…?
そんな考えが浮かんで、寒気がした。

風呂から上がってきた娘に私は、あの音を聞こうとしてはだめだよと念押しした。
「聞こうとしなくても耳に入ってくるんだよ」
不満気に声を荒げる娘に、
「聞こえてきたとしても無視しなさい。アレを絶対に家に入れちゃダメだから」

その後も風呂に入る度、娘はあの音を聞き続けている。


大晦日。
日付が変わる少し前から風呂に入っていた娘が、言ったこと。
「除夜の鐘って祓う力あるのかな?」
「?」
そんなん知らんがな。
「なんで?」
娘が言うには、除夜の鐘が始まった時、砂利を踏みしめる音が乱れたそうだ。
「なんか除夜の鐘にびっくりしてるみたいだった」

冬の夕刻。仕事から帰ってきた夫が愛犬の散歩中に見たモノの話。
我が家の前の道路には、ちょうど隣家との境目辺りに駐車禁止の標識がある。
散歩を終えて我が家に向かっている時、その標識に人らしきモノが絡みついていたそうだ。思わず背を向けた夫が恐るおそる振り返った時には、誰もいなかったそうだ。


「やっぱりお祓いきいてるみたい」
阿部さんにお祓いをしてもらって1年が過ぎた頃、突然娘が言った。
今更何を言っているのかと思いつつ、娘にそう思う理由を聞いた。
一番の理由は夫の真似をするモノが現れなくなったことだ。夫が洗面所の鏡の前でブツブツと言うこともなくなった。(これは本当に不気味。怖かった)
あとは、誰もいない2階から物音がしたり、物の位置が変わったりすることがなくなったのが理由だった。
夜、得体の知れないモノの気配を感じることもなくなった。
家の中の怪異は姿を消した。
だが、風呂からは今も隣家の足音が聞こえるそうだ。


   ※これは2023年9月に記したものです。






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