見出し画像

旅とデータと日本の課題 (5/5)  戦略効率

 最重要因子の「社員の熱意」において、日本が世界最下位であることは重大な問題として覚えておいていただきたい。一方、もう一度全体観に戻って考えると、日本は92因子のすべてで劣後しているわけではない。実際に、約半数の因子はOECDの平均以上にある。


 問題はその分布にある。左側のグラフを見てわかる通り、日本は成長と相関の高い因子で大きく劣後していたり(左上マス、リスクテイクや社員熱意など)、逆相関のある因子で高スコア(右下マス、内閣平均年齢)をとっている。まるで相関していない(相関係数0.02)点の分布が示唆するのは、闇雲な努力であり、つまりは戦略の不在である。

 対照として、韓国の因子分布(右グラフ)を見てみよう。見事に右上に点を集めている(相関係数0.44)。成長への有効性と自国の優位性を合致させた明確な戦略といえるだろう。実際に成長率は3.0%と日本の4倍以上となっていた。

 (ゴルフをされる皆様に)より見やすくするために、斜めの補助線を引いてみよう。重要でないところで省力し、重要なところで頑張る、左下から右上への帯がフェアウェイといえる。一目瞭然で、日本は右に左にOBを打っており、韓国は高いフェアウェイキープで1オンも多いプレーをしている。


 ゴルフショットにおいて方向性が重要であることは言うまでもない。そして方向性を高めるには、狙いを定めてイメージを持ってスイングすることが効果的だ。日本の次のホールにおいてグリーンはどこなのか、つまり何を目的変数(縦軸)とするのか、はっきりイメージできるようにすること肝要であろう。

 ここでみた、因子の有効性と優位性の一致度、は、国全体がいかに効率的に成果を上げているかを示している。この相関係数を「戦略効率」と定義して、世界各国の戦略効率を見るのもなかなかに示唆的である。(何への相関か=何への有効性か、によってさまざまな戦略効率を見ることができる)

 日本は、成長と幸福、いずれにおいても、低効率な戦略をとっているようだ【図表】。高効率な戦略が望ましいことは言うまでもなく、そのためにも何を目的とするのか、明確にすることが重要である。

 国家の戦略効率の向上は、リーダー(政治家、官僚、企業幹部)の責務であるとは思う。ただ、それへの貢献(分析、立案、発信、実践、支援)については、問題意識さえあれば誰にでもできることである。国民として、お上が悪いと嘆いたり、自分さえ良ければいいとハックするような人間ばかりになれば、いよいよ崩壊は加速していく。この国に小さくはない恩恵を受けて育った人間として、国の危機に向き合い、皆で真摯に考えてみないか。それが私の切なる呼びかけである。

  アタマで考えて作った効率的な戦略は、ひとりひとりのココロある行動によって現実になっていく。戦略を言い訳にした5%の熱意では、良い社会は実現すべくもない。戦略も熱意も、自分事としてしっかり高めていこうではないか。

2024年8月末日

あとがき とお願い

 本執筆のきっかけは、とあるカンファレンスの基調講演で個人的な問題意識をデータとともに共有したことであった。政界、学会、経済界のトップ層からの反響をいただくなかで、これは広く世に問う意味があると感じ、暑い盆休みに引き篭もって慣れない文章を綴ったものである。拙く無学、無礼な表現が多くあることをご容赦願いたい。
 紹介したいデータやフレーム、実例、提案はまだまだ溢れてくるのだが、いかんせん実務を抱えた会社員(もちろん熱意はある)の自由研究、発信には限界がある。この日本の課題はなんとしてでも解決しなければならないが、個人の力ではどうしようもない巨大なチャレンジでもある。
 これより先は、有志のお力をお借りしながら、チーム的、組織的、プラットフォーム的に活動させて頂けないかと考えている。どんな形式が良いのかはまだ分からない。社会工学研究会という旗印だけを決めて、賛同者を募りたく、ここに文面を公開させて頂いた次第である。
 共有(誤認修正、個別討議、勉強会・会食、紹介、分析共有、共同研究)および協力(発信・浸透、ソリューション開発、立案、実行、協賛)など、形式を問わず、ご助言、ご支援いただければ望外の喜びである。

社会工学研究会

Kuniakimat1@gmail.com


続編の目次(予定)


分析補足

 (韓国はたしかに成長への戦略効率が高い。ただし、前に見たように、成長因子の多くは、幸福にマイナス効果を持つ。(ここでは黄色のボールとして示している)。韓国が高成長でありながら低幸福であるのは、このトレードオフにおいて成長を選択した結果であろう。)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?